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2017年のフルーツサンド

 

「はぁ、キモい男ばっかりだった」


 久美は思わず、店長に愚痴ってしまった。


 時は2017年。ここはカフェ・未来。久美が常連のカフェだった。


 ちょうどお見合い業者の近くにあるカフェで、帰りに寄っていくうちに常連になってしまった。店長はダンディなおじさまで、優しく、ついついお見合いや婚活について愚痴をこぼす。


 カフェ・未来の一番端のカウンター席は、自然と久美の指定席となり、「いつもの」と言うだけでコーヒーゼリーとアイスコーヒーが出てくるようになった。久美はこの組み合わせが好きで、よく注文していた。


 世の中はインスタ映えとかでSNSで大騒ぎしていたが、久美は全く興味がない。この地味で真っ黒なコーヒーゼリーとアイスコーヒーが一番綺麗に見えた。そして美味しい。我ながら可愛げは無いと思うが、見た目より味を優先したい。実際、ここのコーヒー豆はこだわりのものを使っているらしく、美味しい。その割には店長は気さくで愚痴も聞いてくれるし、値段も安い。常連客にならない理由はなかった。今はコンビニコーヒーでも十分クオリティが高いが、カフェで楽しむコーヒーは別格だ。2013年ごろから生まれたコンビニコーヒーはあっという間定着してしまい、それが無い風景が想像出来なくなっていたが。


「正社員で働いてるのが、男性にとって可愛く無いんですかね」


 今日も見合いに行って来たが、お相手からは、専業主婦希望じゃないので不評だった。気合い入れて綺麗なスーツを着ていったが、お見合い業者のカウンセラーは、可愛げが無いと下げられた。久美は年齢は三十歳だったが、歳よりはしっかり者に見えた。おそらく、切れ長の目が特徴的な涼しい顔だからだろう。


 化学品メーカーの人事部で働き、確かにキャリアはある方だ。学歴も低くない。見た目通りのしっかり者。


「そんな事ないですよ。今の時代は、共働きは当たり前ですから。アベノミクスでも女性が輝く社会ってニュースで見ました」


 店長は、忖度してくれたよう。色々励ましてくれる。


 今は秋だが、おそらく今年の流行語は、忖度だろう。忖度とは、権威ある人の空気を察し、要望をき汲む事だ。森友問題のニュースで一般的になった言葉だ。小学生でも「ソンタク〜!」と使っているらしい。日本の和心というか、いかにもムラ社会を表した言葉で、久美はあんまり好きじゃなかった。


「ありがとう」


 それでも店長の優しさが身にしみ、忖度されても良いやという気分だった。


「婚活頑張ってください」

「ええ」


 再び励まされ、ほろ苦いコーヒーゼリーをいただく。地味だけど、すっかりと美味しい。


 ただ、食べていても、婚活で会った男たちの顔が浮かぶ。どうも楽しくない。


 そもそも何で婚活はじめたんだっけ?


 確か新聞に何かの調査の結果を見て、焦ったのだ。生涯未婚率が上昇し、男性は七人に一人、女性は四人に一人がそうなるらしい。女子四人グループがあったら、一人は生涯未婚。


 そう思うと、怖くなってお見合い業者に泣きついたのだ。


 非正規も四割も占める。消費税もあがる。久美が子供の頃は、もう少し余裕があった気がするが、まさかこんな世の中になっているとは。


「店長、ありがとう。婚活頑張るよ」


 心は晴れてはいないが、そう言うしかなかった。


 次の週、日曜日。


 何とお見合い相手から連絡があり、二人きりでデートする事になった。見合いの時は、キモい男だったが、もう後もない気がし、とりあえず、再び会ってみる事にした。


 駅前で待ち合わせする。


「久美さん、こんにちは」


 現れた男は、前と同じようにチェックシャツとジーンズ姿で現れた。確かに良い人そうだが、専業主婦希望って言うのが、やっぱり気持ち悪い。見た目ではなく、その考え方がやっぱり気持ち悪いって思ってしまう。


 とは言っても文句も言えず、男に連れられた店に入る。


 連れられた先は、チェーン店のファミレスだった。


 客は女子高生や大学生風ばかり。店内は流行の星野源の「恋」が流れていた。


 この曲は、契約結婚がテーマのドラマの主題歌だった。「逃げるが恥だが役に立つ」。通称、逃げ恥。星野源も主役で、新垣結衣がヒロインだ。結婚という久美にとっては深刻すぎるテーマを扱っていたので、毎週食い入るようの見ていた事を思い出す。


 いや、今はそれどころじゃない。お見合いだ。


 ファミレスに連れて行かれた事に驚きはしたが、文句も言えず、男とニコニコ話す。確かお見合いのカウンセラーにはニコニコしなさいと言いつけられていた。


 そう頑張っても、話題は全く楽しいものではなかった。結婚したら、家事育児は全部妻の役目だとか、毎日愛想良くして欲しいとか、メイクもちゃんとして欲しいとか、願望を一方的に語られた。


「そ、そうなんですね」


 久美の笑顔も引き攣る。


 おまけに最期には、食事代も割り勘になり、ちっとも楽しくない時間が終わった。


 ただ、この相手を責められない。久美だってお見合い相手に注文ばっかりつけていた。年収、身長、顔など。こんなお見合い相手だが、年収は一千万近くで仕事ができる。結婚相手にそれなりもものを要求するのは、ビジネスライクだ。別に悪い事ではない。契約結婚的というか。


 いつかハマって見ていたドラマも思い出すと、久美は何だか恥ずかしくなってきた。仕事では計画的にこなしているのに、婚活はノープラン。自分の都合の良い男ばかり夢を見ていた。婚活相手が、気持ち悪い要求をしてくる事も、辻褄が合う現象だった。何よりも久美自身が相手に注文ばかりつけていたから。


 こうして相手と別れたが、何だかお腹が減る。再びカフェ・未来へ向かう。


 白くて小さなあのカフェを見るだけで、何だかホッとしてしまった。カフェの中は、綺麗なイエローの壁紙、花や観葉植物に溢れ、少しだ元気になれそうだ。


 中途半端な時間に来たせいか、他に客はいないようだ。大声で話す常連客などもいないので、店の中は静かだった。


 いちものと言おうとしたが、今日は店長は新メニューの試作品があるらしい。今日だけ特別に試作品を奢ってくれるという。


「いいの?」

「そのかわり、久美さん。感想聞かせてね」


 悪い取り引きでは無い。すぐ承諾した。


「どうぞ」


 出てきたのは、フルーツサンドだった。みキウィ、みかん、イチゴ、メロンが挟まり、断面が綺麗だ。そう言えば萌え断とかでSNSで流行っているのを思い出す。店長もSNS映えを狙った新商品を開発したらしい。


「店長、意外と節操ないね」

「私は別にこだわりとかないですから。自分の事よりもお客様に喜んで貰った方が嬉しいです」


 ハッキリとそう言っていた。


 ただ、そう語る店長は、別に不満そうではない。むしろ、目がキラっとしてる。


 自分は、相手に要求ばかりしていたかも。婚活がうまくいかない理由が一発でわかってしまった。


 そんな事を考えながら食べたフルーツサンド。見た目は鮮やかで、まったりと甘いはずなのに、ちょっと塩辛い。


「このフルーツサンドは、果物の農家さんが、売れ行きが悪くて困っているから、開発したというのもあるんです」

「そうなんだ」

「果物も消費も落ち込んでいるみたいですからねぇ。こんな風にクリームとサンドして、生まれ変わればみんなフルーツ食べるかなぁ」


 このフルーツサンドは、単に流行を追いかけただけではなく、店長の優しさも詰まっているようだ。


「私も生まれ変わったら、婚活成功する?」

「頑張ってください」


 店長は励ましの言葉しか言わない。高望みだとか、相手に注文つけ過ぎとか、要求多すぎが上手くいかない原因だとは言ってこなかった。


 忖度してくれたのかもしれない。


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