1-5 蒼目のトゥルム
5人は階段を降り武器庫に向った。
「2回右に曲がった階段の裏側だ!」
バチン!
「あっ、電気が切れた。」
「ちょっと戻れ、階段の出入口に懐中電灯があった筈だ。」
階段横の壁にある箱に懐中電灯が入っていた。
「あったあった。」
懐中電灯は問題なく点灯した。
「それだけで点くのか?」
「あぁ。」
通路を右に曲がる。そこには…。
「えっ!?」
「通路が無い…?!」
なんと通路が武器庫も含めて消えていた。
「武器庫が無いじゃないか。」
「これ床どうなってるんだ?」
懐中電灯の明かりを向けてみるが真っ黒で何も見えない。
「…進んでみるか?」
「だ、誰が行く?」
数秒の沈黙の後…。
「…私が行く。」
と、アッカーマンが名乗りを上げた。
アッカーマンは暗闇の前に立ち、右足を前に出す。
「…!足が付いた、地面がある。」
「…本当だ。」
「…この空間には恐ろしく見覚えがある。」
「「「「え?」」」」
そうドミニクが言った。
「間違いない、これはダンジョンだ。」
「ダンジョン?」
「一つの空間に魔力が集中すると、稀にダンジョン化する事がある。」
「…ダンジョンとは?」
「おっとすまん、そこからか。ダンジョンというのは、魔物…つまり魔法が
扱える獣…か?あと大量の宝とかが何も無い所から出現する空間だ。」
「何故?」
「何故…か、詳しい事は学者じゃないから知らん。」
「どのくらい危険なのだ?」
「まだ分らんな。所によっては魔物が出てこない所もあるが、
先程のHerr.ヴァーグナーの件もある。…というか武器が無いのは相当困る。」
「私の銃はあと6発しか入ってない。皆は?」とベック。
「私のP38は残り8発だ。一発も撃ってないからな。」とアッカーマン。
「私も同じく。」とネスラー。
「私もです。」ヤーデブセン。
「それでは心もとない、…入ってるってなんだ?」
「弾倉に8発分入っててだな…連射できる。」
「連射…弾の消費が激しそうだな。ダンジョン内は剣でもあればいいんだが…。」
その時、ベックがある事を思いつく。
「Herr.ドミニク、サーベルはどうだ?私の部屋に指揮剣があった筈だ。」
「何本ある?」
「1本だ。」
「…私とHerr.ベックが前衛で動こう。まずサーベルを回収だ。」
「私の部屋はこの上の階だ、階段に戻るぞ。」
カチッ
「ん?」
バン!発砲音だ!
「展開!」
ドミニクがそう叫ぶと、目の前に青白い透明な壁が現れた!
ピューン!と高い音を立てて弾が跳弾した!
『フヒヒヒ…』
そこにいたのは…
「エルトマン少佐…!」
カチッ
ババババン!
複数の銃声が響く。ベック、ヤーデブセン、アッカーマン、ネスラーの4人が
同時にエルトマンへ発砲したのだ。
そして彼も、ヴァーグナーと同じように消滅した。
「危なかった…。」
「Herr.ドミニク、今のも魔法か?」
「ああそうだ、あれは対物用の結界だな。」
「それは―」
「…!これを見ろ!これはヴァーグナーのものと違って本物の銃だぞ!」
このスミス&ウェッソンM1917リボルバーは本物の様だ。
「…ともかく、サーベルを回収しに行こう。」
・
「良かった、私の部屋はまだ残っている様だ。」
『うつくしいです…』
「えっ?」
中から中性的な声がした。
「…誰かいるな。」
ベックら4人は銃を構え、ドミニクは腰に下げたサーベルに手をかける。
ガチャッ
『あっ…、こんにちは!』
部屋の中では、茶髪で白い肌に蒼い瞳を持ち白いコートを着た中性的な人物が、
ベックのサーベルを眺めていた。
「だ、誰だ?!」
『そんなおおきなこえあげないでくださいね?
まあいいです。わたしのなまえはトゥルムです。』
「塔?」
彼か彼女かわからないが、トゥルム(ドイツ語又はライヒス語で塔)と名乗った。
『それがわたしのなまえです。それより、エルトマンさんとおなじく…じゃなくて
おなじように、な?かな…。おなじようなふくをきてますね。たいしょうさんかな?
「大将?」
『Ja、たいしょうさんです。よね…?
たいしょうさんってことは、こうしょうとかできるんでしょう?
あんないします。ついてきてください。』
トゥルムがそういうと、窓側の壁が消えてなくなり、また黒い空間が出て来た。
5人はトゥルムについて行く。するとドミニクが小声で、
「撃つなよ…。奴は霧の主だ。」
と言った。
『きりのぬし…ふたつなってやつですか?まあいいです。ついてきて。
あっ、わたしにはなんでもきこえてますよ。かげぐちはきらいですよ、
きはべつにみじかくないですけど。』
光のないその蒼色の瞳は、その顔から想像できないほどに恐ろしい物だった。
・
『そとにでるのであぶないですよ。』
「…!」
久しぶりの日光に眩暈がしたが、それ以上に…
「た、高い…!」
さっきまで船に居た筈なのに、雲よりも高い塔の外階段を歩いていたのだ!
「あれはウェステンホーンブルク大灯台か?!まるであれが玩具の様だ…。」
『さいしょはあれよりちいさかったんですよわたしも。』
「小さかったというのは?」ベックが聞く。
『そのままのいみです。』
階段を昇る。
・
『つきましたよ。』
そこにいたのは…。
「エルトマン少佐?!…死んだはずでは?!」
「た、助けてくれ…。」
エルトマンは生きていた!
『あなたたちがころした2人はにせものですので。』
「偽物…?」
「霧の幻影か…。」
『…かっこいいですねそれ。そうです、"霧の幻影"です。』
「そういえば先程交渉と言っていましたが、交渉とは?」
『あっそうだ、そうでしたね。こうしょうしましょう。
……あのふねくださいな。』
「え?」
『もちろん、ただにとはいえませんね?なので、もしくれないならあいつ…
じゃなくエルトマンさんのいのちをかいほうしましょう。』
…遠回しにエルトマンを人質に取ったから船と交換しろと言っている様だ。
"ただでとは言いません"とは何だったのだろうか。
いや?こっちが払う側だった様だ。
「…つまりエルトマン少佐という人質と我々の船を交換しろという事か。」
『はなしがはやいですね。…おっと?すいません、じゃまがはいりそうです。
ちょっとようじができたので、かえってくるまでにかんがえといてください。』
トゥルムは床に突然現れた魔法陣に吸い込まれ消えていった。
「…今ならいないぞ!私の縄を解け!」
「…。」
「やめとけ、どうせ罠がかけられてる…ん?」
ベックら4人は小声で話し始めた。
「SSを船に残しますか。SSは鍵十字ではなく己の野心に従うような奴らですよ?」
「船の三分の一は親衛隊員だぞ?殺す訳には行かん。」
「何をそんなに悩んでいる?」
「あー…いえ、船を渡したとしてあなたが返ってくるか…」
「少なくとも見殺しになんてしないよな?」
「あぁ…ええ……。」
「ヴァルター大佐じゃないんだから殺してしまっても構わないだろう?」
「ヴァルター大佐と同じく佐官ですよ?」
「52年のU-2401事件を思い出せ…!あの時は士官が全員絞首刑になった…!」
「助けるしかないか…。」
「いやどういう会話ですかこれ。」
「こういう会話だ致し方ない。」
「おいまだ決まらんのか!」
小声の話し合いは続く。
しまった、ノイシュヴァーベンラント転移?(大ドイツ異世界転移?)のストックが切れてしまった。という訳で『ノイシュヴァーベンラント転移?』は少しの間投稿が滞ります。