9. 血で血を洗う青春録
一日に一話ずつ公開します。
教頭先生から魔力を吸うことによって、僕は彼女を吸血鬼にしてしまったのではないだろうか?
そんな疑問が頭に浮かびはしたものの、僕には取り立ててどうすることもできなかった。様子を見ようにも、教頭先生の姿はどこにも見当たらない。
「あの……すみません」と、通りすがる先生に殊勝な面持ちで訊ねてみても、先生方は「おっと」という感じで、返事をすることもなく廊下を歩み去ってしまう。
そのたびに、僕は「ちっ」と舌打ちしていた。カーミラといえど、転生したばかりの僕ではまだまだ可愛さが足りないのかもしれない。
結局、僕が頼ることができそうなのは、目覚めたときに僕の顔を覗き込んでいた少女のことだけだった。
チャンスは、授業が終わったタイミング。教室移動のためにみんなが一斉に動き出すとき。それ以外には、ただでさえ避けられている吸血鬼が、クラスでも群を抜いた美しさの少女に話しかけるタイミングはなかった。なにせ、女子寮がどこにあるのかなど知る由もないのだ。
授業自体は興味深いものだった。なにせ、魔法の授業など受けたことは一度もない。まだ実習は受けたことがないのだが、講義をじっと聞いているだけでも、なにか魔力の閃きを感じるような気がした。
「魔法は、イマジネーションの力です」と、年配の男性教師は言った。「イメージするのです。それが力強ければ、魔力は自ずとそのイメージに形を与えるでしょう」
そう言われてしまえば、やってみないわけにはいかない。僕は頭の中でイメージを作った――氷のイメージを。すると、教室全体の温度がみるみる下がっていった。
「なんだ!?」と先生が言った途端、僕の目の前の生徒が立ち上がっていた。彼の頭は凍りついていた。
「ははは!」と僕は笑った。「すげーや」
僕に備わった能力は教頭先生の「ABドゥル・フリークス」という名前の炎だけかと思っていたが、どうやら僕には、もとから基礎的な魔力も備わっていたらしい。吸血鬼というのはそういうものなのか。
とはいえ、今騒ぎを起こしてもなんの得もない。僕はちらりと、右斜め前方にいる少女の姿を見た。あの子だ。名前はネスタ。授業後に話しかけることが楽しみだった。
彼女のことを吸いたい、と自分のどこか深い部分が思っていることに、僕はまだ気がついていなかった。
高評価、チャンネル登録よろしくお願いします!