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6. 血で血を洗う青春録

一日に一話ずつ公開します。

魔力を吸い取らせてもらうと僕が宣言すると、こちらが驚いてしまうほど、途端に教頭先生の表情が歪んだ。悲痛な表情といってもよかった。見ていると、むしろこちらのほうが涙を誘われてしまうくらいだった。


僕は想像した。たぶん、魔法学校の先生というくらいなのだから、魔力というのはこの人のすべてなのだろう。魔力が吸い取られてしまえば、きっとこの人には何も残らないのだろう。だからこれほどまでに――泣きながら、嘆願するのだ。いまや教頭先生は咽び泣いていた。魔力を吸われることが怖いのだ。自分がこれからされることに対し、震え上がっているのだ。


異世界から来た僕には、その辛さはよくわからない。


どうも戦意喪失しているようだし、このまま放っておくこともできる。だがそうすれば、この女教師は、魔力の回復をはかっては、また襲ってくるだろう。なにせ僕は、世間の恐れる「女吸血鬼カーミラ」なのだから。


ちらりと、先程僕のことを気にしてくれていた女の子の方を見た。女の子は、教室の入り口でこっそりこちらを窺っていた。その表情からは、何を考えているのかわからなかった。


吸い尽くすほどではなく、もう襲ってはこれない程度に吸い取ろう。そう考えて、僕は怯える教頭先生の近くに膝をおろした。教頭先生を見下ろすと、見慣れぬ胸の膨らみが目についた。自分のものだ。


僕は左手を教頭先生の腕に触れた。先程と同じく、特に意識はしなくても、「吸い取る」ことはできそうだった。まるでパラメータ表示が目の前にデジタルで表示されて、「何をどこまで吸い取るか」が選択できるかのようだった。


とりあえず僕は、目の前に横たわる自分の敵から、「体力」を吸い取ろうと思った。疲れてしまえば、すぐにまた戦いを仕掛けてくることはないだろう。


吸収を始めると――驚いた。考えたこともないような感覚だった。体中に生き生きと、力がみなぎってくるかのようだった。


これまでは人間一人分の体力しかなかったのに、それがますます増えていくのだ。人間一人分が、1.1人分、1.2人分と、みるみる体が強くなっていく。脚が、腰が、腕が、引き締まっていく感じさえした。それも、全身がとろけるような気持ちよさだ。


ふと気がつく。僕は、ほどほどで吸収を止めることなんてできるのか――? 極限まで吸い取り尽くすまで、この愉悦を止めることはできないのではないか……?


目の前の敵は、まるでフルマラソンを走り終えたあとみたいに、苦しそうだった。


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