5. 血で血を洗う青春録
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教頭先生の前進を包む炎が、みるみる形を変えていった。炎が、円を描きながらも、上下左右に柱のようなものを伸ばした形に姿を変えた。おそらく、その形のまま僕に飛ばす気なのだろう。逃げようとすれば、上下左右の柱が伸び、僕は捕まり、中心の円に囚われて、そこで炎に焼き尽くされる。左手の炎だけでは逃れようがないだろう。そういうふうにあの技はデザインされている。
それはすぐに現実となった。
中心に円のついた細長い炎が僕に迫ってくる。その勢いと熱気のせいで、熱風で顔が熱かった。
僕は左手の炎を消した。――あの教頭から「吸った」炎だ。
教頭が炎の向こうで笑うのが聞こえた。勝ち誇っている。聞くだけでむかむかしてくるような笑いだった。人を踏みつけることを好む人間だけができる笑いだった。人を傷つけて、脳内物質で気持ちよくなっている人間の笑いだ。
耐えよう、と思った。ここを耐えれば、生き延びられる。
僕は火の消えた左手を天に向け、力を込めた。
新たに、火が灯った。
それは先ほど吸った蝋燭の炎だった。それはあまりにも小さな火で、今まさに僕を焼こうと向かってくる強大な火とはまるで違った。さらに力を込めると、手のひらに灯った火を囲むように、五本の指先にもそれぞれ小さな火が灯った。それらをひとつにし、すこしだけ、大きな火にする。
僕はそれを顔の前に掲げた。――祈るように。
蝋燭からもらった小さな炎が大きく揺れた。炎の形が大きく歪む。その向こうから、荒々しい炎が迫ってくる――
前に差し出した炎など、頭で考えれば、すぐに掻き消えてしまうものだろう。しかし、そうはならなかった。魔力で作られた禍々しい炎は蝋燭の炎を害することはできず、正面から迫ってきたそれは、2つに分かたれて後ろへと消えた。壁を焼く音がした。燭台が倒れる音がした。
蝋燭の炎の後ろにいた僕は、無傷でその場に立っていた。
「思った通り――というのは言いすぎかな」と僕は言った。「思いついたあとは、願うことしかできなかった。人間の考えなんて、所詮そんなものなんですね」
「……何を思いついたっていうの?」教頭先生は、僕のことを激しく睨みつけていた。
「魔法とかいうやつの限界ですよ」と僕は言った。「いや、そんな言い方は格好のつけすぎですね。ただ単に、魔法の炎と自然の炎は相容れない、水と油だということに気がついただけですよ。あとは片方を盾に使えればいい。先生から奪った魔法の炎では、呑み込まれてしまうだけだったでしょう。――大は小を呑み込むのです。……いえ、この言い方もちょっと格好をつけすぐですね」
教頭先生の顔は、怒りと屈辱で醜く歪んでいた。
「あなたの炎は、壁にぶつかって消えた。さあ、これからは女吸血鬼カーミラとやらの力を見せる時間ですよ。あなたから魔力ってやつをすっかり吸い取らせてもらいます」
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