3. 血で血を洗う青春録
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教頭先生の全身が燃え盛っているかのようだった。教頭先生の長い髪が、まるで揺らめく炎のように波打っている。教室全体の温度が上がっている。あの炎は幻覚などではない。触れれば火傷ではすまないだろう。
教頭先生の目つきが変わった。
なんのためらいもない、一瞬の出来事だった。先生は炎を纏った方の手を僕に向けた。すると、目の前に炎が向かってきた――躱す暇もない、恐ろしい速度で。
やられた――と思った。しかし……
「よかった…‥」と僕は思わずそう言っていた。「受け止めることはできる」
先程先生から炎が乗り移った左手。僕はそれを炎へとかざしていた。自分の顔を守るように。そうすることで、炎を受け止めることができたのだ。同じ種類の炎で受け止めれば、勢いを殺すことができる。考えてみれば当たり前の話だが、それは賭けだった。なにせ失敗すれば、顔面は黒焦げだったのだ。
左手に、炎は先程よりも強く燃え盛っていた。飛んできた炎の勢いを借り受けたかのようだった。
「ちっ!」と教頭先生は激しく舌打ちした。「ガキが!」
ガキね、と僕は思った。少なくともガキと言われるような年ではもうないと思っていたのだが、今や体は(たぶん)かわいい女の子なのだから仕方がない。たぶんっていうのは、僕はまだ自分の顔を鏡で見てはいないからだ。
またも炎の弾が向かってきた。それも冷静に左手で受け止める。よし、防御はできる。しかし、どうやって反撃する? 僕は頭をめぐらせながら、教室を走りながらいくつも飛んでくる弾を躱したり、受け止めたりしていた。弾が当たった壁が砕け、黒く焦げているのが見えた。僕は相手の弾を受け止めることはできるが、それは相手も同じことだろう。たとえ左手の炎で攻撃できたとしても、同じ炎では簡単にガードされてしまう。炎の力は相手の方が強いのだ。では、どうする……?
壁際を駆け抜けていると、気が付いた。明かりとして掛けられている蝋燭の炎が、見たこともないような形に、ぐにゃりと歪んでいるのだ。それは気の所為ではなかった。僕の左手が近づくと――
左手が近づくと、炎が歪む?
僕はふと気がついた。もしかすると、炎の持つ力は――
思いついたのはやはり、賭けだった。
しかし、やってみるしかない。僕は覚悟を決めた。
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