血で血を洗う青春録
一日に一話ずつ公開します。
眠い。とんでもなく眠い。
でも、くたびれてしまっていた。心も体も。心とか体なんていう大層なものが自分にあるのかさえわからなくなってしまうほどだ。
「ま、いいか……」
そう思うと、大層なものでもない自分の人生は、暗闇の向こうへと姿を消していった。
代わりに見えてきたのは、蝋燭の明かりだった。
「ねえ、大丈夫ですか?」
そんな口調で話しかけられたことはないというくらい、楽しげで軽やかな声だった。しかし、どうして「大丈夫ですか」などという不穏な言葉を、そんなふうに楽しげに口にするのだろう。
なんとか目を大きく開くと、女の子が燭台を手に僕の顔を覗き込んでいた。
「あ、お目覚めですね。よかった。入学初日から寝てばかりだとしまりがありませんものね」
ニコッと、高校生くらいの女の子が僕に向かって笑いかけていた。
「ここは…‥?」
自分の声にどこか違和感があった。いつもよりもなめらかな声が出ている気がする。
「女子寮ですよ」と少女は答えた。「ようこそ、私達の寮、リミナリティへ!」
「女子寮!?」
僕は慌てて立ち上がった。女子寮ってなんだ? 寮って、もう僕は学校を卒業して何年も経っている。それに、僕は男だ。
男…‥?
僕の胸元には、温かな2つの膨らみがあった。
どきりとした。自分の喉から出た「あっ」という声は、たしかにオンナの声だった。
そのとき、バタバタとドアが開いて人が入ってくる音がした。
「教頭先生…‥!」
少女がドアから入ってくる人物を見てそう言った。入ってきたのは、厳格そうな面持ちの女性だった。
「来なさい」と女性は鋭く言った。
何がなにやらわからぬうちに、僕は廊下に引っ張り出されていた。廊下は――蝋燭でぼんやりと石壁が照らし出された、異質な場所だった。僕がこれまでに見てきた場所とはまるで違う。これじゃまるで、地下牢みたいだ。
「あなたは――」と教頭先生は言った。「普通じゃありません。普通の魔女じゃ、ありません――」
「魔女?」と僕は新しい声で応じた。
「あなたは吸血鬼――吸血鬼カーミラなのです。極めて、その可能性が高い」
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