攻略対象の姉でした
その日は我が国の最高学府である国立大学の付属高等部の卒業式だった。
卒業の式典は恙無く終わり、会場を移し国王主催の卒業記念パーティ。
パーティとは名ばかりの優秀な人材のスカウト会場だが…
まぁ、民主制では無く君主制で貴族なんてものが主な政治を担っている、中世ヨーロッパよろしくな世界観なのだから致し方なしだろう。
本来ならば問題など起こりようの無い中で事件は起こった。
「姉上!あなたの罪を告発致します!」
ーーこの愚弟何を言っている?
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私はこの国の第一王女として生を受けた。
父である国王は優しくも厳しく、しっかりと愛情を注いで育ててくれた。
母は私を産み産後の肥立ちが悪くそのまま他界、ただ父の話によると短い間だったがしっかりと私を愛してくれていたらしい。
2歳の頃、政治的な面で王妃がいないのは宜しくないとの事で後妻である今の義母と父が結婚した。
義母も私を疎ましく思うこと無く本当の娘の様に接してくれた。
その一年後に父と義母との間に弟、第一王子アーヴィンが生まれた。
私も初めての兄弟が嬉しく可愛がっていたし、両親の愛情が偏るなんて事も無かった。
王家に関わらず周辺諸国含めても類を見ない家族仲が良い家庭だったと思う。
ただ私はそんな家族に打ち明けられない秘密を抱えていた。
そう、最近流行りの転生者なのだ。
前世でテンプレート宜しく交通事故で死に、気が付いたらこの世界に生まれていた。
そして流行りジャンルらしく乙女ゲームの世界である。
ただ前世の私は乙女ゲームを数える程しかプレイしていなかった。
この世界が前世でリリースされていた『聖女恋列伝〜恋も世界平和も頑張るんだから〜』と、とても頭の痛いタイトルの世界と言う所までは特定出来たのだが…
私は酷いタイトルにつられ面白半分でパッケージを見ただけで実際プレイした事があったゲームでは無いのだ。
ちなみにパッケージに描かれている攻略対象の筆頭は弟でした…
私自身がゲーム本編に出てくるかどうかすら分からない、しかし主要人物の血縁者。
転生もの小説のテンプレートだと悪役令嬢立ち位置の可能性あるんだよなぁ。
せめてプレイした事あるゲームに転生させてくれとも思った事もあるが、コレはコレで良かったとも今は思ってる。
ゲームを気にせず自分の人生を歩む事が出来るのだから。
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話を今に戻そう、もちろん可愛い弟だと思っているが今のタイミングであんな発言をした弟を控えめに言って”愚か”としか評価ができない。
なんだって国王主催のパーティで『罪の告発』?
喧嘩を売りたいなら、パーティじゃない時に売って欲しい…
”父”の前で言うのなら家族会議で良かったのだ、それなら”ただの兄弟喧嘩”で済ます事だって出来たのに…
でも、アーヴィンは”陛下”の前で発言をしてしまったコレでは私は庇いようが無い、私も姉では無く立場ある者としてアーヴィンに接さなければいけないのだ。
「…アーヴィンあなたお酒でも口にしたのかしら?」
「いえ、俺は至って素面ですよ姉上」
あちゃー!もうダメだぁ…
いやダメ元なのは知ってたけどさ、ワンチャン行けるかなって希望を持ちたかったんだよ、お姉ちゃんとしては愚かでも可愛い弟を何とか庇えないかなって思ったんだよぉ!
これだけの衆人観衆の中の発言は滅多に取り消せるものじゃない、王族なら殊更。
多少の醜聞になれど、このタイミングで退場出来ればまだ対外的には言い訳が出来た。
だがアーヴィンは自らそれを放棄したのだ。
うん、おバカ!
「第一王子アーヴィンよ、罪とはどういう事だ?」
大声を出した訳では無いがパーティ会場の隅までよく通る声、私たちの父であり、この国のトップである国王陛下の発言である。
それ迄さざ波のように微かな喋り声などが聞こえていた筈だが、一切聞こえなくなった。
静寂なのが逆に耳に痛い。
そして体感温度が2度程下がった気がする…
陛下の隣に居る王妃であるお義母様が何だか震えてる気がする。寒さなのか恐怖なのか…
「父上!姉上は聖女であり俺の愛するツィツィを権力を使い愚かにも貶めようとしたのです!」
ーーポクポクポク、チーン
どうしよう、ツッコミどころしかない…
愚弟が肩を抱き寄せて居るのが乙女ゲームのヒロイン事、聖女ちゃん。
多分私と同じ転生者でプレイ済みだと思われる。
以前話す機会が会った時に聞こえてしまった独り言。
「アーヴィンが王太子じゃないし、なんで隣国で死んでる王女が居るの?」
いや、私本編だと死んでるんかーい!と当時は思いましたね。
確かに私は高等部最後の1年隣国へ留学していた、そして帰国する際に死ぬ思いをしたのも事実。
多分本編だとそこで本当に死んでいたのだろう。
え?何故生きてるのかって?ゲームの事は気にしないって決めてから私は学べる事は全て学んだ、その中に戦闘術があった。
ゲーム本編は本当にひ弱なお姫様であったろう私は、今やドレスを脱いだら割れた腹筋がある戦闘系お姫様に変わっているのだ。
フリルとレースで隠している腕だって、正直そこらの令嬢よりゴツい上、今でも定期的に騎士団長に稽古をつけてもらっている。
私が死んでいたのであればアーヴィンがゲーム本編で王太子な事も当然だろう。
彼女の知り得る知識と相違点があるという事実、そしてその知識とは何処で知ったのか?
やはり前世という事なのだろう。
そしてその知識を使い順当にアーヴィンを攻略し今日を迎えたのだと思われる。
アーヴィンと私は半分とはいえ実の兄弟だから婚約破棄では無いにしろ、断罪イベントというのは衆人観衆の元行うのが乙女ゲーム仕様なのだろう。
それを踏まえてツッコミどころしかない!
そのいち!陛下はアーヴィンの名前の前に第一王子と付けた、つまりは国王と臣下のやり取りとして声をかけたのだ、その上で陛下を父上と私を姉上と呼ぶのは間違っている。
そのに!王子としての発言なのだから一人称が俺なのも間違っている。
そのさん!事実関係は別として仮にも人を断罪する場で、真面目な話をする場で、愛しの彼女だろうが愛称で呼ぶなよ!
本人相手にはいいさ、でも陛下相手には当然駄目だからね?!
てか、アーヴィンあんた婚約者どうした?!
そのよん!そも、聖女マツィーツィアとは以前王宮で話したっきりだから貶める理由が私に無いし、タイミングだって勿論ない。
これでも私忙しい身の上なので。
「貶めるとは具体的にはどのような事なのだ」
陛下の声で現実に意識が戻る。
私は陛下の言葉に『そうだ、そうだー!』と内心野次を飛ばしつつアーヴィンの言葉を待つ。
「学園でツィツィが孤立するよう仕向けたり、彼女の私物を壊したり」
内容もテンプレートだったよ…
え?でもこのテンプレートって婚約破棄じゃない?私の地位を脅かすには弱い、というかほぼノーダメージ…
婚約破棄でも弱いけど…
「学園の階段から突き落とし怪我までさせた!」
突き落とした実行犯の方疑え、何故接点の少ない私を疑う。
「それらはレイラーナ公爵令嬢主導によって行われた。彼女は俺の婚約者だが、姉上と共謀しツィツィを脅かしていました!王宮に来ては姉上とお茶会をしていたと聞いています、その際情報の交換などしていたと「はぁー。もうよい」」
アーヴィンが話終える前に陛下がため息で遮った。
てか、ラナとのお茶会は本来お前がやるべき事だったんだぞ?
「どうせ婚約破棄などと続ける気だろう」
「陛下、発言の許可を頂けますでしょうか?」
凛とした声で発言許可を求める声が上がった。真紅のドレスを着こなした令嬢、レイラーナである。
私は本物の妹のように可愛がってきた為、愛称のラナと呼んでいる。
その為いくら弟とはいえ、ラナに対しての仕打ちで私は今回のパーティより以前から怒ってはいたのだ。
ちなみに蛇足だが、今日のラナと私のドレスはデザインは同じなのだ!
私は指定色であるパールホワイトじゃなきゃいけないから色まで合わせられないけど、色違いの双子コーデを喜んでくれたラナが本物の妹じゃないの何かの間違いだと思いたい…
「よい、許可する」
「まずはアーヴィン殿下の発言に対してですが、口でいくら違う事を説明してもご理解頂けませんでしたので、資料をご用意致しました。我が公爵家の精鋭が集めた資料ですので信憑性は保証致しますわ」
そう言いながらラナは王宮使用人に冊子を渡した。
「公爵家の者が作った資料と言うだけで信用できるわけ無いだろう!」
「黙っておれ!」
「っ!」
愚弟ここに極まる…
発言許可無いのに喋るのダメだし、公爵家の精鋭イコール王家の影と同義なんだよなぁ…
影を担う家門は複数あり本来はもちろん明かされるものでは無いのだが、爵位の高い公爵家が影な事は牽制を兼ねての公然の秘密と言うやつである。
「陛下、重ねて発言よろしいでしょうか?」
「よいぞ」
「陛下より賜った誉れ高き婚約でございましたが出来るならば、わたくしはアーヴィン殿下との婚約は辞退させて頂きたく…」
「あぁ、そうだな…こんな事になってしまってすまない。もちろんコチラの有責にて破棄としよう」
「陛下わたくしの愚考という事は重々承知ですが、殿下を諌めきれなかったわたくしにも非はございますわ。ですので責は双方という事で婚約解消のみと言うのは如何でしょうか」
「ふむ…ひとまず婚約解消とはするが詳細は追って公爵家に報せよう」
「御意にございますわ」
パーフェクト!皆さん見ました?コレが礼儀ですよ!どこぞの愚弟と取り替えて欲しいっ!
破棄とすると瑕疵になる、だからあえてこの場では解消を提案するラナはやっぱり聡明だ。
陛下も察してラナの提案に乗っているが後日、王家の面子や親心で破棄と同等の補填をするつもりなのだろうけど。
ここで言う親心は愚弟に対してじゃ絶対無いけどね!
うちの親もラナ大好きなのだ。
さて、婚約破棄イベントらしきものも終わったし茶番はそろそろ終わりと思って良いのだろか?
「皆の者騒がせて済まなかった。後日パーティは仕切り直す」
卒業記念パーティは大人にとってはスカウト会場で卒業生にとっては就活会場だ。
でも、こんな茶番騒動で気もそぞろになるだろうから、続行せず仕切り直すのが妥当だろう。
「待ってください!姉上からツィツィへの謝罪がまだです!!」
愚かさを極めた後は何になるのだろうか?
発言許可の件は天丼だし、何故この流れで私が謝罪する流れになると思うのか?
でも、公式の場ではやった事は無いけどこの有り得なさ加減は、聖女ちゃんと出会ってから豹変した訳じゃないのがタチ悪い。
可愛い弟ではあるが賢さは全くないのも知っている。いわゆるバカワイイってやつだね!
今まで体裁は保ってたから黙認してたツケが回ってきたのかしら…
というか、この中身でゲーム本編ではどうやって王太子やっていたんだ弟よ…
あれか?私死んで急に責任感芽生えた感じ?
「いい加減にしなさいアーヴィン!」
「ですが、母上!」
「話になりませんね、騎士たちよ第一王子と聖女を別室に連れていきなさい」
「「「「はっ!」」」」
恐ろしく早い判断、私じゃなきゃ見逃しちゃうね!
というか、隣で震えてたの寒さでも恐怖でも無く、怒りだったんだねお義母様…
「きゃっ!」
「やめろ!俺は王子だぞ!」
いやいや、王妃が下した命令を正当性も無いのに王子ごときが覆せる訳ないでしょ。
「本当に意味わかんない!全部アンタが生きてるせいで変になったのよ!」
火事場の馬鹿力なのか、騎士を振りほどき聖女ちゃんが私へと突進してきた。
ーーダンっ!
だが、すぐに取り押さえられてしまった。
「ぐっ、痛い!痛い!」
「犯罪者に手加減などするものか」
低く落ち着いた声で告げるのは騎士団長。
聖女ちゃんを取り押さえた張本人だ。
「私は聖女よ!」
「聖女だろうが王太女殿下であるサフィニエ王女への侮辱と暴行未遂は覆る訳がないだろう」
「はぁ?王女が王太女?!」
いい加減私も会話に参加しますかね。
「我が王家は長子相続制です。歴代でも女王は珍しくありません」
そう、長男相続ではなく長子相続。
だからアーヴィンは長男だけど王太子では無いのである。
初代王様に産まれたのが娘しかいなかったのと、その娘も凄く優秀だったので問題なく王位継承されたとか。
ちなみに聖女は唯一無二という訳でなく聖属性の魔力の強い人がなるので各国1人から2人居たりする。
役職についた人が男なら聖人、女なら聖女と呼ばれるだけで魔王討伐のキーパーソンとかそういう類では無いらしい。
前世で言うところのエクソシストに存在は近い。
「は?そんな設定ゲームじゃ出てこなかった」
「ゲーム?貴女は何を言っているのかしら。まぁ良いわ話は後でゆっくりと聞きましょう」
「二人を連れて行け」
「「「「はっ!」」」」
私が聖女ちゃんと話している間にちゃっかりアーヴィンと聖女ちゃんの拘束は完了していた。
話のキリもつき騎士団長であるバルド卿が、部下に王妃が指示を出していた別室へ連行するよう言い付ける。
「しかしバルド卿、あれぐらいの勢いであれば私自身で対処出来たと思うけれど…私はまだ頼りないかしら?」
普段から稽古を付けてもらっているので、非力な女の子相手に遅れを取るなんて事は無い。
まぁ、師匠であるバルド卿に1度も勝てた事は無いけどさ…これであれ程度も対処出来ないと思われてたらちょっとだけ悲しい…
「いえ、俺が貴女様を護りたかったのです」
そう言いながらバルド卿は私の横髪をひと房手に取り口付けた。
「え?」
「殿下があの小娘に負けるなどと、微塵も思いませんが…好いた女性を護りたいのは男のサガですので甘んじて頂けると幸いです」
「はい?」
なんですと?初耳ですが?
いや、落ち着け!まだだ!リップサービスかもしれない!
私は王太子!会場にはまだ他の貴族もいるんだから、素で返してはいけない!
「バリュ、んんっ。バルド卿も冗談を嗜むのね」
うわ、動揺してテンプレートな噛み方した、ハズっ…
「生憎と俺は冗談は嗜んでいないんだ」
「はははっ!バルド卿ならばこの国も安泰だな!」
助かっ…てない!お父様公認じゃん!
いや、正直凄く嬉しいですけどね?!正直見た目も性格もめちゃくちゃタイプですけどね?!
政治的なアレソレあるし、バルド卿もあくまで臣下として私に接してるだけだと思ってたから、淡い初恋って事で終わると思ってたヤツですよ!?
「仕切り直したパーティの際にはいい報告聞けるかもしれんな、なぁ、皆もそう思うだろ?」
変なアシストしないでくださいお父様!
会場のみんなの生暖かい視線を浴びる…もう、帰りたい…
そんな中バルド卿の顔が耳元に近づいていた
「さて、会場から出ましょうかサフィー」
普段聞かない甘い声で愛称を呼ばれ、思考回路はショート寸前である…
普段ならお姫様らしくアルカイックスマイルで切り抜けられるのに、フルコンボだドンよろしく畳み掛けられままならない。
ーー絶対今顔真っ赤だ…
そうして私はバルド卿にエスコートされるまま会場を後にした。
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その後の私達についてだけれど。
アーヴィンは王族から除籍となり、一代男爵の地位と僅かな領地を与えられた。
まぁ、今回のパーティで愚かさが露呈しまくって、実際の領地経営は指定した人物が行う事になっているので名ばかりの領主になるが…
聖女ちゃんことマツィーツィアは聖女の身分は剥奪。ただこの国では現在、他に聖女や聖人に該当する程の人物が居なかった為、辺境の修道院へ幽閉と聖具への魔力付与に生涯従事する事になった。
聖具への魔力付与自体は聖女や聖人の通常業務ではある。やる事は変わらないが、要は逃げれない場所での無給労働。
まあ、寝食は保証されてるから現代日本の終身刑的なヤツである。
ラナは学園時代同じ生徒会で交流のあった侯爵子息と婚約。
その侯爵子息ってのが、まあ、強かで抜け目ない。ラナへの婚約解消の補填に、自分の地位を組み込ませるのは普通出来ないと思う…いい意味で…
次期宰相決まっちゃったよ…
まぁ、ラナが幸せならオッケーです!
そして私はバルド卿と父と義母に押し切られ、スピード婚約。
お父様の宣言通り仕切り直された卒業記念パーティで婚約発表する事となった。