亡霊の奇襲2
炎が立ち昇る甲板で俺は必死に緊急時用の鐘を鳴らす。
「お前ら起きろ、奇襲だ」
鐘の音を聞きつけたイリーナ達が甲板に出てきた。
「リベル、なんで船が燃えてるんだ。見張りのヤコブは何してたんだ」
エリックが燃え盛る船を見て、叫んできた。
「わかんねぇ。ルイスのヤツは俺がここに来たときからいなかった」
俺がそう返すと今まで黙っていたイリーナが声を張り上げる。
「今は消火が先だ。酒に引火したらおしまいだ。急げ」
イリーナの掛け声に船員たちが動き出そうとしたところで、船が大きく揺れた。
突然の振動に何人かがバランスを崩した。
炎に照らされる幽霊船が姿を現した。
帆は途中で引き裂かれ、船を構成する木材は朽ちて今にも崩れそうだった。
その船から何体かの人影が降りてきた。
スケルトンだ。
今までにも何回かスケルトンに襲われたことはあるが、スケルトン自体はあまり強くない。
そのため、皆に余裕の笑みが浮かぶ。
ただ、何かおかしい。
通常見るスケルトンとどこか違う。
「スケルトンごときが俺らの船を燃やしやがって」
俺が不思議に思っていると、激昂するモールスがサーベルを抜き、スケルトンに向かっていく。
「待てっ」
イリーナも違和感を感じたのだろう。モールスに止まるよう指示するが、遅かった。
モールスのサーベルはスケルトンの首の骨に当たるとそのまま静止した。
通常のスケルトンであれば容易く振り抜けるはずなのに。
モールスがサーベルから伝わる硬さに驚いた瞬間、スケルトンが手にしていた長剣を振り下ろし、モールスを袈裟斬りにした。
その光景に皆が息を呑む。いつものスケルトンとは違うということを認識したようだ。
「よくもモールスを」
しかし、さすがは海の荒くれ者。モールスと一番親しかったエリックが敵とばかりにスケルトンに向かっていく。その勢いに乗っかって他の船員たちもサーベルを抜いた。
普段なら、この流れに乗って相手を討ち果たしただろう。だが、今回は相手が悪すぎた。
「クソっ、行くぞリベル」
イリーナに続いて、俺もスケルトンに向かっていく。
スケルトンは破壊することはできなくとも、食い止めることはできる。
俺たちがスケルトンを足止めしている隙にイリーナがスケルトンを次々と破壊していく。
戦局が攻勢に傾き始めたと思った。
そう思ったのも束の間、再び幽霊船から人影が降り立った。
その容姿は頭がチョウチンアンコウで右腕が蟹のハサミという人形の怪物だった。
その怪物が来たとたん、そこここで悲鳴が上がった。船員たちがスケルトンによって次々と斬殺されていく。
目の端では、怪物に向かっていったイリーナが首筋を捕まれつるし上げられている姿が見えた。
俺は目の前のスケルトンを払いのけ、イリーナのもとに走った。
殺させてたまるか!
「汚ねぇ手を離せ」
俺は背後からチョウチンアンコウの頭をはねようとするも、蟹の硬いハサミにサーベルを捕まれる。
「つ!?」
ハサミはサーベルの刃をいとも容易くへし折った。
折れ曲がったサーベルをまじまじと見つめていると、蟹の硬い甲羅が横っ腹にめり込み、俺は海に飛ばされた。
「イリーナ、イリーナ………」
俺は海に沈みながら、船長の名前を叫んだ。
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