宇宙戦士コスモライダー (短編版)
とびらの様主催「あらすじだけ企画」参加作品。
アメリカのとある街の片隅に、ひとりの平凡な男がいた。名はジョン・スミス。
いつも通りに会社に行き、型通りの仕事をこなして、くたくたになって家路につく毎日。妻も子どももない。そもそも、恋愛なんてものには、生まれてこのかた、とんと縁がなかった。
そんな男が、ある日、街でごろつきに絡まれた若い女を助けたことをきっかけに、自身の秘められた不思議な能力に気付くようになる。
自分が本気を出せばごろつきなんて一瞬で吹き飛ばしてしまえると気付いたジョンは、同時に聞こえ始めた、困った人々の『声』に導かれ、人知れず、スーパーヒーロー【コスモライダー】(愛車はハーレーダビッドソン)に変身。一躍、街の人気者になった。
コスモライダーは今日も街の人々のために奮闘する。自分が、ひとりの平凡な青年、ジョン・スミスだということを隠して……。
朝、いつもの通りに出勤したジョンは、上司に紹介されて、人気女子バレーチームのエース、ダイアナと出会う。
会社が新しく取り組むプロジェクトの一環で、ダイアナが所属するチームとのタイアップをすることになったというのだ。若く美しい彼女の姿に、ジョンは一目惚れしてしまう。
同じ頃、コスモライダーに助けを求める『声』に導かれた先で、風変わりな集団に出くわすことが多くなった。
ひどい口臭を放つ【マダムラフレシア】という年長の女を筆頭に、ハイエナを思わせる、すらりとした体躯の男【ハイエナ・マン】、口から吐き出した蜘蛛の糸で相手を絡み取って弱らせる【ミス・スパイダー】、ボスの周りをぷーんとうろつくだけの無能な男【ベルゼバブ】という3人の手下である。
しつこいほどに現れる奴らの狙いは、コスモライダーを倒して、アメリカを乗っ取り、ひいては、地球全域を侵略する計画だった。
「そんなことはさせない!」と彼は立ち上がる。
こうして、コスモライダー対マダムラフレシア一味の、長い、長い、戦いが始まった。
今日も彼は戦う。プライベートでは、意中の女にデートの約束のひとつも取り付けられないような男だったが、それでも戦い続けた。
ある満月の夜のこと。
珍しく、ミス・スパイダーの一撃を食らってしまい、次の攻撃が繰り出せずにいたコスモライダーのもとに、ひとりの女戦士が現れる。名は【ムーンリットレディ】。月夜に輝く、正義のスーパーヒロインだ。
ミス・スパイダーをコテンパンにやっつけ、コスモライダーの怪我の手当てまでしてくれた彼女は、去り際に「また会える」とだけ呟いて姿を消す。
傷が癒えたあとも、マダムラフレシア一味との戦いは続いた。何度目かの戦いの末に、ムーンリットレディが再び現れる。戦いを助太刀してくれる彼女、一体何者なのか? 帰るところをこっそり尾行すると、とあるアパートに入って行くのが見えた。そのアパートは、ダイアナが借りているアパートだった。
ムーンリットレディはダイアナなのか?
確証が持てないまま、コスモライダーは、マダムラフレシア一味との次の戦いを迎えてしまう。ムーンリットレディが敵の一撃を受け、負傷した。めくれたコスチュームの一部から、ダイアナがいつも身につけているはずのネックレスが見えた。
ダイアナのネックレス。幼い頃に亡くした母の形見だというネックレス。それを、どうしてムーンリットレディがしているのか。答えはひとつしかなかった。
「君が……ダイアナなのか?」
彼女は観念したように頷いた。そしてすべてを打ち明けた。自分は生まれたときから『力』を抑えることができない、父親にもそのせいで捨てられたのだと。母親を亡くしていたので孤児院で過ごすしかなかった。空虚で惨めな日々だった。
バレーボールと出会ったときは、運命だと思った。厄介なものだとしか思ってこなかった『力』を、こういう形で生かせる日が来るなんて思ってもいなかった。ほどなくしてエースになり、ある会社とのタイアップでジョンの会社を訪れ、衝撃を覚えた。誰も傷つけることなく平穏に暮らすジョンに、気が付けば惹かれている自分がいた。
変身しないと『力』を解放できないジョンと、『力』が抑えられないゆえにスーパーヒロインになったダイアナ。正反対の二人は、知らずのうちに、惹かれあっていたのだ。
ジョンの姿では言えなかったが、コスモライダーの姿を借りている今なら、伝えられる気がした。ジョンは初めて、目の前の女性=ダイアナに胸の内を打ち明ける。
「君さえよければ、これからもずっと、僕と一緒にいてほしい」
ダイアナの答えはYESだった。
それからまもなく、ジョンとダイアナは結婚。街では今日も、コスモライダーとムーンリットレディが、世界平和のため、マダムラフレシアの一味と戦いを繰り広げていた。