第6週目 スポーツテスト
ゴールデンウィークも終わり、通常の日々に戻る。
朝の登校時間、海堂はいつものように校門近くに立って、服装をチェックしていると生徒が続々と登校してくる中、
「海堂くん、おはよう」
声をかけてきたのは、同じクラスの結城 咲だ。結城は健康診断の事件の後から、海堂とよく話す様になっていた。
「おう、おはよう」
「海堂くん、風紀委員の仕事がんばって。じゃあ、また後でね」
結城は微笑みながら言うと校舎の中へ。
「なんか最近、結城さんと仲がいいね」
健太はからかう様に海堂に言うと、
「そんなことはいいからちゃんとチェックしろよな」
海堂はごまかすように話題を変える。
「そういえば、今日の1、2時限目はスポーツテストだったな」
「うん、そうだけど⋯。スポーツテストか~。僕は運動は苦手なんだ。だから、今日のスポーツテストは気が重いよ」
「なんでそんなに気にするんだ。たかがスポーツテストだろ」
「何言ってるんだよ。スポーツテストも記録によってポイントが貰えるんだよ。しかも高校生の全国平均以下の記録だとマイナスポイントになっちゃうんだ。僕は全国平均を超える自信が無いよ」
スポーツテストでは高校生の全国平均記録を超えると1種目につき100ポイントプラス。しかし、それに届かなかった場合は1種目につき100ポイントマイナスとなる。ボーナスとして学年の1位で1000ポイント、2位で500ポイント、3位で300ポイント1種目につき貰える。
「そうだったのか。でも、やれるだけの事はしようぜ」
ー1時限目ー
1年生のスポーツテストが行われる。まずは、握力から。
「フン!」
海堂が力一杯握ると、記録は75kg。全国平均は40kgなので大幅に平均を上回っている。一方、健太は、
「ん~」
記録28kg。全国平均には程遠い数値だった。
「やっぱりダメか」
落ち込む健太に海堂は励ます。
「他のテストもあるし、気を取り直して行こうぜ」
海堂と健太は次のテストに向かうと、今度は背筋の計測へ。背筋の全国平均は130kgであり、海堂の記録230kgで健太は80kg。またしても健太の記録は平均を下回る。そして、どんどんテストを受けて行く2人。反復横跳び、全国平均50回のところ、海堂は58回、健太はギリギリの50回。垂直跳びは全国平均60cmのところ、海堂は71cm、健太は49cm。50m走は全国平均7秒5のところ、海堂は6秒8、健太は8秒2。1500m持久走、全国平均6分のところ、海堂は5分20秒、健太は5分45秒。ハンドボール投げは全国平均25mのところ、海堂は40m、健太は18m。結果、海堂は難なく全国平均を上回ることができたが、やはり健太は全国平均には届かなかった、特にパワー系が全然ダメだった。
「まあ、こんなもんか」
海堂は計測を終えて、教室に戻ろうとしていると、
「いいかお前たち。わかってると思うけど、本気を出すなよ。金田くんより良い成績を取るとタダじゃおかないぞ。ねえ、金田くん」
「その辺にしてあげなよ。みんな怖がってるじゃないか」
話しているのは2組の男子生徒たちであった。
「金田くんは優しいよ。もし、言う事を聞かないとお前たちの家がどうなると思う?金田くんのお父さんは金田産業の社長だぞ。金田くんのお父さんの力があれば、お前たちの親の会社なんかいつでも潰せるんだからな。そうだよね、金田くん」
「まあ、そんなとこだな。その代わり、俺の言うことを聞けば悪い様にはしないよ」
偉そうにしているのは、1年2組の金田富雄。親は金田産業の社長で不動産からスーパーマーケットまで手広く商売をしている大手会社の息子である。横には、取り巻きの生徒が3人。
「おい、お前たち何してる。不正の強要、脅迫は校則違反だぞ」
海堂が近づき、話しかけた。
「何だお前は、あっち行け」
そう言って取り巻きの生徒Aが海堂の肩を押すと、
「痛たたた」
海堂はその腕を強靭な握力で締め上げた。
「文句でもあるのか。お前たち、思い知らせてやれ」
金田が命令すると取り巻きBとCが殴りかかってきた。海堂はその攻撃を簡単にかわすと、取り巻き共のボディにパンチをくらわす。すると3人は悶え、うずくまる。
「あわわ、近寄るな。俺に手を出したら俺のパパが黙ってないぞ」
金田は怯え、後退りする。
「くらえ」
海堂は金田の顔面にパンチを放つと、寸止めする。金田は恐怖で失神してしまった。
「また何かあったら風紀委員会に報告するように」
「あ、ありがとう」
今回、海堂は金田たちを注意で留め、処分はしなかった。
ー放課後ー
「はあ~」
健太は大きなため息をつく。それは、スポーツテストが終わり集計結果が生徒手帳に送られてきていたからだ。
「健太、元気出せよ」
海堂は落ち込む健太に声をかけるが、無理もない。健太は記録が全国平均に届かず、マイナス300ポイントになってしまった。海堂はというと、各種目の1位は、その分野のスペシャリスト達で海堂でも敵わなかったが、7種目中3種目で2位、1種目で3位のプラス2500ポイントで終わった。
ちなみに各種目の1位は、
握力、アームレスリング部で87kg
背筋、パワーリフティング部で250kg
反復横跳び、卓球部で69回
垂直跳び、バレー部で90cm
50m走、陸上部で5秒4
持久走、駅伝部で4分05秒
ハンドボール投げ、野球部で70m
彼らは1年生だが、中学の時から名の通った実力者でスポーツ推薦で入ってきた生徒達だ。
「くよくよすんなよ。そうだ、帰りにハンバーガー食って行こうぜ。俺が奢ってやんよ」
「う、うん」
海堂は健太と肩を組んで帰っていくと、
「いーけないんだ、いけないんだ。買い食いは校則違反だぞ。風紀委員なのにそんなことも知らないの?」
校門の陰から結城がひょっこり現れた。
「結城か。こんなところで何してんだ?」
「へっへー、ちょっとね。ところでハンバーガー食べに行くんでしょ。私も行こうかな~」
「校則違反なんだろ。だったら寄り道しないで真っ直ぐ帰れよな」
「もー、いじわる。いいじゃん、一緒に連れてってよ。風紀委員の海堂くんがいるんだから大丈夫でしょ」
そう言うと3人は一緒に帰って行く。
一方その頃、生徒会室では生徒会長の一条が携帯電話で会話をしていた。
「⋯わかった。ああ、そのことなら了承した。あとはこちらで処理する。では、頼む」
電話を切る一条。