第2週目 体験入部
月曜日になり体験入部の期間が始まった。
放課後、学校内では部活の勧誘合戦が行われている。
「野球部入らない?うちは甲子園常連の強豪だよ」
「ラグビー部だって、花園常連だよ~」
蘭王学院高校は進学校にもかかわらずスポーツにおいても優秀な成績を残しており、文武両道の高校なのである。
「卓球部に入ってくれた人には、もれなく500ポイントあげちゃうよ」
部が何故ここまで勧誘を頑張るかというと、部の在籍人数によって学校から支給される部費が決まるからである。部費はポイントで支払われ、1人につき1000ポイント与えられる。ポイントは使用する事で部活に必要な物やサービスと交換できるようになっている。
海堂は生徒会に入るため試験会場である体育館に向かった。体育館に入ると、そこにはすでに50人程の生徒が集まっていた。集まった生徒は1年生だけではなく、転部を希望する2年生もいる。
すると、壇上に男子生徒が出てきて、
「これより生徒会入会試験を始める。進行は、生徒会書記、青山 伸一郎が執り行う。まずは、第一試験の体力試験を行う。説明は、体育委員長からお願いします」
壇上に筋肉質の大柄の男子生徒が現れて、
「俺が体育委員長、3年の立花 剛造だ。早速だが、生徒会の仕事には体力が必要ということで、まずは第一試験で貴様らの体力、運動能力を試させて貰う。試験は体育館からスタートして生徒会室に20分以内に到着した者を合格とする。ちなみに今回は試験ということで廊下を走っても校則違反としないものとする」
「何だ、簡単じゃないか。ここからだと5分で行けるぜ」
「負けないぜ」
生徒たちは余裕の様子だ。
「第一試験、スタート」
体育委員長の合図と共に生徒たちは一斉に出口に向かう。海堂もスタートし、まずは中盤の位置につけた。
体育館を出ると長い廊下があり、生徒たちは走って向かっていたが先頭集団が急に止まった。
「!」
廊下にはアメフト部員が2人いて、道を塞いでいた。
「第一関門はアメフト部員のタックルを突破する事。避けるも良し、力でねじ伏せるも良し、突破出来ればそれでOKだ」
体育委員長の声が校内放送で聞こえる。
「うおおおおお」
1人の生徒が突っ込んで行くが、アメフト部員にタックルされ弾き返される。
「みんなで行くんだ」
その言葉で10人程が一斉に行ったが、2人のアメフト部員にまとめて押し返された。
「どけ!」
そこに2年生の男子生徒が前に出る。そして、走り出すとアメフト部員2人を逆にタックルで吹き飛ばして廊下を通過した。ざわつく生徒たち。開始3分、1人通過したが他の生徒は未だ通過できない状況で、今度は海堂が通過を試みる。
「セット」
アメフト部員が片手を床につけ構えると、海堂は走り出す。アメフト部員が海堂目がけてタックルしてくる。海堂は三角跳びで壁を蹴ってアメフト部員をかわして第一関門を突破した。
「俺たちも続け~」
他の生徒たちもヤケクソで全員で突進してくると、海堂に続き数名突破出来た。
先に進むと2階に上がる階段が封鎖されている。ふと横の窓の外を見ると数本のロープが垂れ下がっていた。
「これを登れってことか」
海堂は2位でロープを登る。海堂がロープを登っていると、
「そーれ」
掛け声と共にボールが飛んできた。それは、テニス部員がロープを登っている人にサーブを打ち狙ってきていた。
「第二関門はテニス部員のサーブを避けつつ、ロープで2階に上がる事」
生徒たちはロープを登るが、テニスボールが直撃し次々に落ちてゆく。しかし、海堂はロープを左右に揺らしながらボールを避けながら登って行く。そして、1位の2年生に追いつくと、2年の男子生徒もロープを左右に振ってきた。
「オラ」
男子生徒はその反動で、海堂に蹴りを入れてきた。海堂は1階まで落ちた。
「痛ってー。あのヤロー」
海堂は再び登ったが、10位まで順位が落ちた。海堂が2階の廊下を進むとまたも先頭が止まっている。
「第三関門は剣道部員の竹刀を突破すること。そして、その先の生徒会室に到着した者が第一試験の合格者だ。残り時間は、あと10分だ」
剣道部員は1人だけだがかなりの実力者のようだ。海堂たちの近くには竹刀の束があり、これを使って相手を倒せということだろうか。生徒たちは竹刀を手にし向かって行く。しかし、案の定コテンパンにやられる生徒たち。それを見ていた2年男子生徒は倒れている生徒を担ぎ上げると、剣道部員に向かって投げ飛ばした。剣道部員は不意を突かれ、投げられた生徒の下敷きになってしまう。その隙に2年男子生徒はゴールに向かう。
「へっ。1位は貰ったぜ」
2年男子生徒はそのまま生徒会室に入りゴールした。
他の生徒が手をこまねいている時、海堂は竹刀を手にすると、剣道部員に投げつけた。剣道部員がそれを払い落とすと同時に海堂はその足元に走り込みスライディングした。剣道部員はジャンプして避ける。
「!」
海堂は剣道部員を突破し、タイムは15分、2位でゴールした。
生徒会書記の青山がストップウォッチ片手に生徒会室で待っていると、他の生徒も続々ゴールしてくる。
「3、2、1。タイムアップ」
生徒会室の扉が閉まり試験は終了した。
「第一試験合格者は20名。思ったより残ったみたいだけど、まだ試験はあるのでそのつもりで。と言うことで今日はこれで終わりです。また明日放課後にここに集まってください」
翌日の放課後、生徒会室にて。今日は、生徒会長の一条が説明をする。
「今日の第二試験は、どこか一つの委員会での課題をクリアし合格の印を貰うこと。委員会は自分の好きなところで構わない。もちろんその委員会の目に止まれば合格後、声がかかるかも知れない。期間は今週の体験入部の間、それまでに合格の印を貰えた者が最終的な合格とする」
生徒たちは解散し、各々自分の入りたい委員会の部屋へと向かう。と、生徒会長の一条が海堂を呼び止める。
「海堂、君にうってつけの委員会がある。ここに行ってきたまえ」
海堂は、渡されたメモに書かれた部屋に行くと、そこは風紀委員会だった。中に入ると、そこに1位通過した2年男子生徒に姿が。彼の名は、権田 源治。2年生で現在アメフト部に所属している。
「ようこそ風紀委員会へ。自分が風紀委員長の久瀬 正輝だ。早速だが、お前たち2人に与える課題は、こちらが用意した風紀を乱す生徒を取締り、その者から取り締まった証を受け取る事。期間は今週の午前8時から午後5時までの間、場所は校内。何時、何処に現れるかはわからない。今日は、残り時間が無いので明日から開始する」
ー翌日の水曜日の朝ー
海堂は朝から、目を凝らして辺りをうかがっている。
「そう簡単にはいかないか」
海堂は昼休みの休憩時間も校内を歩き回り、取締り相手を探す。と、そこにキョロキョロ周りを警戒している怪しい男が。すると、その男は掲示板に何か貼り付けて、去って行こうとする。海堂は貼った物を見ると、そこには生徒会への誹謗中傷のビラが貼り付けてあった。
「⁉︎。おい、お前」
海堂がその男に声をかけると、男は急に走り出した。
「ちょっと待て」
海堂は追いかける。相手は凄いスピードで逃げて行く。
「そうか、これが指令だな」
しかし、海堂は追いかけるが一向に捕まえられない。そのうち、チャイムが鳴り休み時間が終わってしまった。
「くそ~。逃げられたか」
海堂は一旦追跡を止め、放課後その男を探すことにした。
そして放課後、海堂が廊下を歩いていると向こうからあの男が歩いてきた。その男は海堂と目が合うと一目散に逃げて行く。海堂は直ぐに追いかける。
「逃げ足の速い奴め。これじゃ鬼ごっこじゃないか」
海堂はそれでも追いかけて行くと途中で男とは別の道に行く。
「はあ、はあ。まいたか」
その男は校舎の裏まで逃げ、そこにしゃがんで休んでいると、
「よう、もう休憩か?」
男が上を見ると、窓から身を乗り出している海堂がいた。男は急いで逃げようとするが、海堂が窓から飛び出て男の上に乗っかり捕まえた。
「参った。合格だ。これを持っていけ」
男はそう言うとバッチを海堂に渡した。海堂はバッチを手に風紀委員会の部屋に向かう。
すると、扉の前で2年の権田が待っていた。
「よう、お前の持っている物を渡してもらおうか」
「待ち伏せですか?セコイまねしないでくださいよ、先輩」
「大人しく渡した方が身の為だぞ」
権田は指を鳴らしながら近づいてきて、殴りかかってくるが、海堂はヒラリと避ける。権田は更に殴りかかってくるが空を切るばかり。業を煮やした権田は、海堂にタックルする。
「⁉︎」
権田がタックルするが海堂はそれを受け止め、ビクともしない。
「うおおおおお」
海堂は権田をそのまま持ち上げ、投げ飛ばすと権田は背中から落ちた。
「おー痛っ、少しはやるようだな。だが、風紀委員になるのはこの俺だ」
権田は立ち上がりそう言うと、海堂が聞いた。
「なぜ、そんなに風紀委員になりたい?」
「当然だろ。風紀委員になれば、取り締まりを理由に暴力の一部が許容されるんだ。こんなおいしい話はないだろ。お前もそれが目的で風紀委員を選んだんじゃないのか?」
「ふん、あんたと一緒にするな。俺は別に入りたくてやってるんじゃない」
「じゃあ、素直に持ってる物をよこせ!」
そう言うと権田は殴りかかってきた。海堂は権田の拳をかわすと、相手の顎めがけてアッパーを打ち込んだ。権田は気を失い倒れた。
そして、海堂は風紀委員会の部屋に入ると、
「どうやら課題は達成したようだな」
風紀委員長の久瀬が言う。海堂は久瀬にバッチを手渡し、
「これでいいですか」
「OKだ」
すると海堂の生徒手帳が振動する。手帳を見てみると生徒会試験合格の印が送られてきた。
「これでお前は生徒会の一員となったわけだ。正式な任命式と所属の委員会決定は来週に行われるから、月曜の放課後、生徒会室に来い」
海堂はどうにか入会試験をクリアし、退学の危機を免れた。
ちなみに権田はその後も課題に挑戦したがクリア出来ず試験を終えた。