第1週目 高校入学
4月のある日、1人の男が学校の校門の前に立っている。
「今日から俺も高校生だ」
彼の名前は、海堂 薫。格好はヤンチャな感じで、制服を着崩している。いわゆる不良というやつだ。
「俺はこの乱横高校で番長までのし上がってやる」
海堂は中学の時は喧嘩無敗の男と知られていたが、決して弱い者には手を出さず、売られた喧嘩のみで名を上げた。そして、高校生になり憧れていた番長になるためヤンキー高校として有名な乱横高校を受験したのだった。
「それにしてもヤンキーだらけって話だったけどヤンキーなんていないな。みんな真面目くんだし、女子も⋯?」
入学式が始まり周りを見渡して、海堂は異変に気付く。
「あれ?乱横は確か男子校だったはず」
そこに校長の挨拶が始まった。
「皆さん、入学おめでとう。蘭王学院高校、校長の武者小路である」
「⁉︎」
海堂は今気付いた。自分が乱横高校と蘭王学院高校を間違えて受験したことを。
「どおりでおかしいと思ったんだ。受験の時もヤンキーを見なかったし、試験も名前を書ければ合格と聞いていたのに、意外と問題が難しかった。特に母ちゃんは、合格して凄く喜んでた」
乱横高校はこの地域で偏差値の一番低いヤンキー高校で、海堂が受験したのは偏差値トップの進学校、蘭王学院高校だった。
何故、そんな蘭王学院高校に海堂が入れたかと言うと、海堂はヤンキーだが勉強ができた。
入学式も終わりクラスに分かれる。海堂は1年1組、なんと入学試験でトップ30に入っていた。
ちなみに1学年5クラス150人の生徒がいる。
ーそして、放課後ー
ガッカリした様子で帰る海堂が、体育館裏に歩いていく4人組を見つけた。
「なんか怪しいな」
海堂は何かを感じ、4人の跡を追う。すると、
「おい、1年坊。ちょっと金貸してくれや」
「持ってないです」
「痛い目に遭う前に出せ」
「許してください」
体育館裏では3人の上級生が1年生を喝上げしていた。それを発見した海堂は、
「な~んだ。いるじゃないか」
ヤンキーを見つけ嬉しくなった。
「あ?何だお前は。ちょうどいいお前も俺たちに金を貸してくれや」
ヤンキーの1人が海堂の胸ぐら掴んで言った。
海堂はその手を掴んで捻る。
「イタタタタ」
「何しやがる」
他の2人のヤンキーが殴りかかってきた。
「喧嘩なら買いますよ。先輩」
海堂は相手のパンチをかわすと、カウンターで顔面に一発。そして、もう1人のパンチもかわし、ボディーに一発くらわした。
「お、覚えてろよ」
ヤンキーたちは、捨て台詞を言って去っていく。
「大丈夫だったか?」
海堂が振り向き、絡まれていた生徒を見たら、どこにも姿が無かった。
「何だ逃げちまったのか。ま、いっか」
海堂はこの高校にもヤンキーがいることを知り、さっきまでの落胆ぶりが嘘のように元気になった。
と、その姿を校舎の陰から覗く人物がいた。
ー翌日ー
「あの~、昨日はお礼も言わずに逃げちゃってごめん」
昨日絡まれていた男子が海堂の机の前まで来て謝っている。
「昨日の、同じクラスだったのか。別に構わまいよ」
「ありがとう。僕の名前は、森山 健太、よろしくね」
「ああ、よろしくな」
(キーンコーンカンコーン)
チャイムがなり担任が入ってくるとホームルームが始まる。
「今日の1時限目は、生徒会による学校の校則についての説明会があるので体育館に移動だ」
1年生たちは体育館に移動した。
体育館には生徒会がいて、生徒会長が壇上に立つ。生徒会長の名は一条 匠。
「生徒諸君、この蘭王学院で学ぶことにおいて校則は絶対であり、守らなくてはならないものである。そして、もう一つ守るべきものはランキングである」
「ランキング?」
生徒たちは不思議そうな顔をしている。
「ランキングとは、学業、部活、生活態度などの様々な学園生活においてポイントがつけられていて、ポイントによってランク付けされるものである。ポイントが高かければ高いほど上位にランキングされ、学園生活において待遇も良くなる。これから諸君もランク付けされることになり、まずは、全員に1000ポイント付与される。生徒手帳を見てみたまえ、そこに現在の自分の所有ポイントが表示されているだろう。もしも、ポイントが0になった場合は退学という決まりになっているので、0ポイントにならぬよう気をつけてくれたまえ」
生徒手帳は電子手帳でスマホのようなものであった。
「詳しくは生徒手帳で各々確認する様に。以上で説明を終了する、解散」
説明を終えると、2時限目からは通常授業が始まる。
そして放課後。帰ろうとする海堂を呼び止める人物が。
「海堂くん。ちょっといいかい」
それは生徒会長だった。海堂は生徒会長に呼ばれて生徒会室に行くと、そこは豪華な造りの部屋で天井にはシャンデリア、床には赤絨毯が敷かれていて、アンティークの家具が揃っていた。
「掛けたまえ」
生徒会長は会長席に座る。横には2人、男子生徒と女子生徒が立っていた。
海堂が椅子に腰掛けると、会長が口を開く。
「昨日の出来事は全部 見せてもらったよ」
「何のことです?」
「昨日、体育館裏で喧嘩をしていたね」
「あれは、あいつらが悪いんだ。カツアゲなんかして、しかも手を出したのはあっちが先で」
「理由はどうあれ、喧嘩をしたのは事実な訳だ。暴力行為は校則違反だよ。君も今日聞いたと思うが、この学校はポイント制なんだ、つまり、校則違反をした君にはペナルティとして、ー500ポイント引かれる。しかも2人殴ったので、×2でー1000ポイントとなり退学ということになるね」
「そんな、たった2日で退学なんて」
「もちろん、我々もそんなことはしたくない。そこで、提案なのだが、君が生徒会に入るというのはどうだろう。生徒会に入れば、それだけで5000ポイントが付与され、退学は回避される。まあ、君にはそれ以外道はないと思うが、どうかな?」
少し考える海堂だったが、
「わかりました。入ります」
「そうか、それは良かった。では、話は終わりだ。帰ってもいいぞ」
「失礼します」
席を立ち、出て行こうとする海堂に会長が言う。
「一つ言い忘れていた。生徒会に入るには試験がある。何たって、ポイントを稼ぐのに一番いいのは生徒会に入ることなのだから、みんな、狙って来るのは当然。試験を突破して入って来い」
「そ、そんな」
部屋を出て行く海堂。海堂は不良の割には礼儀正しい対応をしていた。彼の根は真面目なのだろう。
「いいんですか?校則違反でも一回分のー500ポイントで退学ではないのにあんなこと言って」
男子生徒が言うと、
「彼は見所のある新入生だ、きっといい仕事をしてくれると私は思う」
生徒会長が言った。
「それならいいのですが」
ランキングが全ての蘭王学院高校は通称ランキング高校と生徒の間では言われている。
ー翌日のホームルームー
「いよいよ来週から部活の体験入部が始まる。みんな知っていると思うが、我が校は必ず何かしらの部活又は委員会に所属する決まりになっている。だから、体験入部の期間で入る部活を決めるように。ということで今日はこれで終わりだ。気をつけて帰れよ」
「うーん。やっと終わったぜ」
「海堂くん。海堂くんはどこの部活に入るか決めてるの?僕は吹奏楽部にしようと思うんだけど」
森山が話しかけてきた。
「あー、俺はちょっと事情があって生徒会に入ろうと思ってるんだ」
「せ、生徒会?生徒会ってかなり競争率が高いらしいよ。海堂くんが生徒会なんて以外だな~。てっきり運動部かと思ってたんだけど。でも、海堂くんならきっとなれるよ。頑張ってね」
「おう」
海堂は自信無さげの返事をかえす。