とある世界の教訓話
これは、魔物が存在し、人間達が魔法を使ってこれを退け、また時に人間同士で戦い会うそんな世界、物語のような世界の話。
そこに、ある一人の男がいた。
その男を一言で表すのなら、『善性』だろう。人が傷つくのを嫌い、涙を流す人を見捨てず、相手が魔物でも人でも、己の正義を貫くそんな男だ。
そんな男の住む町に、ある知らせが届いた。ある強大な魔物がこの町に迫っているらしい。
町はこれに備え、非戦闘員を町から逃し、また戦闘員を集め作戦を考えた。
正面衝突、不意打ち、罠をかける。男達は知恵を絞り、ある真実を認めた。
『魔物を倒すのに犠牲がいる』
という真実を。
こうなると当然、その男は立候補した。
己一つの命を犠牲に町を救うために
ある戦闘員は言った。それは傲慢だと
また、ある戦闘員は言った。自分はそんなに弱くないと
だが、戦闘員達は彼を止めることは出来なかった。
そんなことを言いつつも、彼らは自分達の命を捨てれなかったから。
命を捨てれる人間は少ない。むしろ出来る人間はどこか壊れてると言ってもいいだろう。
男がいなかったらむしろ彼らは命を賭けたのかもしれない。だがその善性は、戦闘員達に希望を抱かせてしまったし、これは無意味な仮定だ。
話し合いはこれで終わり、町は一人の男を英雄とし存続しただろう。
だが、ある男はこれに待ったをかけた。
ああ、自分はここである町構いを訂正しなければならない。
自分は、『善性』の男が一人いると書いた。だが正確には、そんな『善性』の男は二人いたのだ。
そうなると話し合いは止まらない。正義の取り合いは譲ることができない。
自己犠牲とは自分の価値より周りの価値を高く見ること。ある種、自分を卑下することと言ってもいいかもしれない。
相手を思うがゆえに譲ることはできない。
そして、相手を悪にすることもできない。なぜなら相手の正義は自分の正義とおなじなのだ。相手を否定することは自分を否定することに他ならない。
その話し合いは、日を跨ぎ、朝まで続いた。
そして、その町は魔物により滅ぼされた。魔物が話し合いのうちに急に速度をあげ、それに反応できなかったからだ。
この話はこれで終わり。
正義は悪を倒すことはできるだろう。滅ぼすことはできずとも対立する概念である以上それは可能だ。相手は悪なのだから、正義という剣を躊躇なく振り下ろせる。
だが、尊重や親しみがゆえに生じる争いにはどうしたら良いのだろうか。
相手は悪なのだと思い込む思い込む人もいるだろう。相手が正義だと知りつつも譲れない人もいるだろう。
だが、その戦いに残るのは滅びという名の魔物だろう。
この話は、各国の王族に、教訓話として語り継がれた。
俺ガイルいいよね...