7話 ユニーク魔法を鍛えるのみ!
「ど、どういうことですの?」
「わからぬ…だが、譲渡が失敗した事だけは確実だ。」
「でも、力の譲渡に失敗したら、とんでもないことになるんじゃなかったかしら?」
「その筈だ。…一体どうなっていると言うのだ!」
いつの間にか、血で描いたはずの陣は消えていて、今や、魔法陣があった場所に、二人揃って突っ立っていた。
魔法陣の中心で、ゴマちゃんは苛立たしげに言葉を発する。
リリも、なぜ力の譲渡が失敗したにも関わらず、自分が無事でいるのか意味がわからない、と言った顔だ。
「何か心当たりはなくて?」
「心当たり……あるとするならば、我の封印が完全に解けていない事か?」
「多分それですわ!」
封印が解けていないなら、封印魔法の影響によって失敗してしまったとしても仕方がない…かもしれない。
事実上、力の譲渡は失敗しているが、一応契約自体は成功しているから、リリ達の四肢がもげたりする事もない。
とはいえども…
「でも…私、あなたの力を引き継げないのですわね…。」
「我ながら不覚であったな…てへ☆。」
..てへ?
「と、とにかく、力がもらえないなら…私が魔王になる事なんて‥。」
今の私の力では、魔王になるなんて..ましてや、世界を征服するなんてできるはずがないわ..
希望を持った途端、それが崩され、振り出し状態に戻るリリ。
しかし、そんなリリにゴマちゃんは提案する。
「ふむ…譲渡ができないのならば、其方自身を鍛えるしかあるまい。」
「へ?…わ、私自身を?」
「ああ。其方のユニーク魔法を鍛え、其方の力のみでも魔王になれる程の実力を手に入れる以外、そうするしかなかろう?」
「で、でも…私のユニーク魔法は…。」
あの日、父に言われた言葉を思い出す。
『貴様のユニーク魔法は全く持って使えん!何故そのような、要らぬユニーク魔法なのだ?!』
チクチクと、胸が痛む。
だが、ゴマちゃんはユニーク魔法を鍛えるしかないと言ってくる。
…私が、こんな使えないユニーク魔法だって知ったら…嫌われちゃうかな?
もしかして…私のことを見限るのかな?お父様みたいに…。
次から次に、考えたくもないことを考えてしまう。
…そんな自分が、嫌になりそうになる。
だが…ここでウジウジしていても何も変わらない。勇気を持って、言うしかない…!
「わ、私のユニーク魔法は…<慈悲の心>、ですわ。」
「慈悲の心?どの様な効果がある?」
唾を飲み込み、リリは自分のユニーク魔法について説明する。
「相手、もしくは自分に慈悲の心を与えること、ですわ。」
「……。」
ゴマちゃんは何も言わない。
やっぱり…魔王の娘だというのに、ただ人に、慈悲の心を与えるだけの能力だなんてって、思われたのかしら。
そうよね…私だって、自分が…お父様にとって要らない子な理由くらい、わかっていたのよ…。
どれだけ勉強を積み重ねても、どれだけ魔法の練習に明け暮れても、時間は無情にも流れ去り、手に入ったのは所詮、魔力の効率的な使い方、ただそれだけ。
笑っちゃうわ…どうしてもっと、なんでもできる様な、お父様の望んだ子に生まれなかったのかしら…。
「笑ったっていいわ。私が、何をやってもダメな子で、魔力だってないし、ユニーク魔法だって使い物にならないもの‥。」
「…いや、なかなか使い勝手の良いユニーク魔法ではないか。」
ゴマちゃんの一言に、リリは目を丸くした。
今まで一度だって、自分の魔法を褒めてもらった事…ましてや、自分自身を褒めてもらったことすらなかったものだから。
そんなリリの驚いた顔を見るや否や、ゴマちゃんは笑った。
「フッ……フハハ!なんだその間抜けな顔は!」
大きな声で笑うゴマちゃんに、リリはムッとなり、言い返してやろうとした。
だがその時…
コンコン
「ヒルシュフェルトさん?」
寮監がリリの部屋を訪ねてきたのだ。
幸い、寮監は扉を開けず、あくまでも扉の前で話しかけてくるだけ。
ゴマちゃんはリリに、テレパシーで伝える。
『我が封印されていた事、それを知れば、魔族と天使の大戦争が起きかねん。まだ準備も整ってないと言うのに、そんなことをされては困る。どうにか追い払え。』
リリはゴマちゃんの方を向き、コクコクと首を振って、了解の意を伝える。
それからすぐに、寮監は扉越しにリリに話しかけてくる。
「何やら笑い声が聞こえてきたのですが……基本的に、寮室に自分と使い魔以外を入れることは禁止のはずですが…。」
「ええっと…ゆ、友人と!遠くに住んでいる友人と通信用水晶で話してただけですわ!」
咄嗟に嘘をついた。
後々になって、初代魔王のことを友達と言ってしまったことを後悔したのだが、とにかく今は、寮監を追い払わねばならぬ。
「そうですか。それならばいいのです…しかし。」
ホッとしたのも束の間、寮監は鋭い声を出す。
ビシッと、目の前にいない相手の方を向き、リリは姿勢を正す。
「あまり騒ぎすぎない様に。他の部屋の者に迷惑がかかりますからね。」
「わ、わかりましたわ。気をつけます。」
静かに扉まで歩いて行き、そっと、扉に耳を立てる。
………。
だんだん足音が遠ざかって行き、やがて聞こえなくなったことを確認すると、リリはゴマちゃんの方を向き、一つ、首を縦にふった。
「寮制度の学園では、おちおち会話もしていられぬな。」
「…たしかにそうですわね。」
ゴマちゃんは悩ましげな顔で言葉を発する。
それは確かに思ったが、そもそも、下等使い魔の蛇の使い魔が喋ること自体おかしいので、学園内では基本、テレパシーで会話することに決めた。
「話を戻すとしよう。」
一息ついてから、ゴマちゃんはリリのユニーク魔法について、話し始めた。
「其方のユニーク魔法には優れている点が2つある。」
2つ…そんなにいっぱい、私のユニーク魔法には使いどころがあるのだろうか?
2つという数字は、決して多くはないが、今まで散々な言われようをしてきたユニーク魔法だったため、リリには多く見えた。
「まず一つは、敵に魔法をかけることで、戦意を喪失させること。次に2つ目、自らに逆らってくる者達に魔法をかけ、懐柔する事ができる点だ。」
「で、でも、私のユニーク魔法は、自分よりも強いものや、魔力量の多いものには効かないし、何より効果時間が‥。」
「ならばすることは一つのみ、鍛えることだ。」
ゴマちゃんは塒を巻き、頭を体に乗せると…
「しかし…今日はもう遅い。おまけに…我は疲れた。」
「蛇の体は扱いにくく、とても小さいのだ。それに、魔王だった頃より我は衰えてしまっているしな。」と、ため息を吐きながらいうゴマちゃんをよそに、リリは時計を見た。
18:24
もうこんなに時間が経ってしまったのね…。
時が流れるのは早いものだと思いながら、リリは明日の学校の準備をする。
ついでに、疲れ気味だったゴマちゃんを、自分のベッドに載せておく事も忘れない。
気遣いのできる、良い子なリリだった。
ーーー
「初代魔王、ゴーマ・ヴァイス・ミュラーの封印が解かれたか。」
暗い部屋、明かりは蝋燭一本しかない、そんな場所。
「あと数百年は封印できると思ったのだが…予定より随分と早いお目覚めだ。」
背中に真っ白い鳥の翼をはやした男は呟く。
「計画には邪魔になるが……宿主の体ごと、もう一度封印してしまえばいいだけのことだ。」
語りながら、男は真っ暗な部屋から瞬時に、何処かへと消えていった……。




