26話 レオンハルト邸
電話をした日から数週間後
あの日リリは父親との電話をし終わった後、ライリーとアルフにレオンハルト家に入る事ができるようになった事を説明し、いつレオンハルト家に乗り込むかを決めることにした。
色々と話し合った末、数週間後にある1週間丸々休みの日に決行することに決め、レオンハルト邸まで馬車を使ってまるまる一週間ほどかかるため、休みの一週間前から学園の方に休みの連絡を入れておいた。
出発日までの間も、なんとかアンゲリカと少しでも近づくことができないか試したのだが…結果は惨敗。
取り付く島も無いほど、彼女はリリたちを避けていた。
そして連休の日、リリはレオンハルト家の邸宅の前に来ていた。
ピンポーンとインターホンを鳴らし、レオンハルト家当主が出てくるのを待つ。
数十秒後、当主が執事も誰も連れず自ら来てくれた。
「これはこれは!現魔王アランデル様の一人娘、リリ様。本日は態々我が本家までお越しいただきありがとうございます。」
かしこまった様子で出てきた男は、贅の限りを尽くしたような格好だった。
純金のブレスレッドやネックレス、指輪を数個つけていた。
でっぷりと太った男は手を擦り合わせ、見るからにリリに鳥入ろうとしていた。
悪臭が漂ってきそうであまり近づきたくはなかったが、これもアンゲリカを仲間にするためと腹を括って、顔に笑顔を貼り付けて拍手をする。
「お会いできて嬉しいですわ。エグモント様。」
「して、そちらの少年たちは?」
エグモントはライリーとアルフの方を顎でさし、見るからに不快そうな顔を浮かべていた。
権力を持っているであろうリリとライリーとアルフに対する態度が180度違っていて、やっぱり権力目当てで近寄ってきていることがよくわかった。
「彼らは私の護衛兼召使いですわ。」
「そうですか。」
リリはあらかじめ作っておいた設定通りに二人のことを紹介する。
リリの付き人だと知ったからか、エグモントは慌てて礼儀正しく接し始めた。
と、その時
「父上…一体朝からどうしたの…ですか‥。」
アンゲリカが邸宅の中から出てきて、リリの事を見た瞬間目を大きく見開く。
多分、自分の家にまでくるとは思っていなかったのだろう。
アンゲリカは自分の父親の方を向き、落ち着きを取り戻そうとする様にゆっくりと言葉を口に出す。
「父上、一体何故ここにリリ様がいるのですか?」
「ああ、お前か。実は魔王様がな、我がレオンハルト邸に保管してある資料を拝見させていただきたいと申されてな。」
「それならば、魔王様本人がお越しになるのでは無いですか?」
アンゲリカはどうにかこうにかして、リリたちがレオンハルト家から立ち退く理由を作ろうとしているが、彼女の父親はアンゲリカの事をキツく睨み付けて一言。
「アンゲリカ、まさかリリ様がお越しになることに意義を申し立てる気か?」
「そ、そういうわけでは…。」
アンゲリカは視線を地面に逸らし、見るからに反論する理由を言いにくそうに口をつぐむ。
それにしても…あの反応はいったいなんなのかしら?
リリにはアンゲリカが実の父親に怯えているように見えた。
大抵の場合、魔族の貴族は自分の親だろうがなんだろうが思った事ははっきり言う場合が多く、それが出来なかったとしても、親に怯えるような子供はほとんどいない。
だが、稀にリリのように父親の傀儡にされてしまう子供もいる。
もしかしたら…アンゲリカさんは何か父親に逆らえないような事情があるのかしら?だとしたら…あの時取り乱した事と何か関係がありそうね。
この一週間、リリはアンゲリカの父親の言動を注意深く見てみようと決心した。
「ならばお前は黙っていなさい。…お待たせしてしまい申し訳ありません。不快な会話をしてしまったことに対するお詫びとそれから、どうか不出来な娘を許してはもらえませんか?」
「許します。…さあ、早く案内して頂戴?」
「わかりました。」
なるべく気難しくなかなか靡かないお嬢様を演じながら、邸宅内に入れるよう促す。
エグモントはリリのエスコート役をすることに断りを入れた後、リリの手を取りあくまでも紳士的に取り繕って歩き出す。
そして、何も言えずにたたずんでいるアンゲリカに小声で
「…夜、あの部屋に来い。」
「わ、わかり…ました‥。」
それこそ近くに居なければ気づけぬ程小さな声のやり取りは短かったが、リリがチラと横目でアンゲリカを見た時、明らかにアンゲリカはエグモントから告げられた言葉に怯えているのが見えた。
これは何かあるわね。アルフやライリーにも伝えなくちゃ。
3人だけになった際に情報を共有する事を頭の中のメモに記入し、なんでも無いように取り繕って、エグモントにエスコートされるまま屋敷の中に入って行った。
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「ここが一週間の間リリ様が泊まりになられる部屋です。お付きのお二人の部屋は右隣に用意させていただきました。」
「では、私はこれから少々お父様と連絡を取りますので。」
「エグモント卿、すみませんがお引き取りお願いします。」
「え、あ、ああ!気が利かずにすみません。」
エグモントは慌てて部屋の前から立ち退き、自室へと戻って行った。
「行ったわね。」
「ええ。とりあえず部屋に入りましょう。情報交換はそれから。」
リリたち3人はリリの部屋に入り、全員が入り終わったことを確認してからリリは防音結界を貼った。
そして、3人はそれぞれ感じた事、怪しかった点などを報告しあい、今日は初日なのであまり行動を起こさないほうがいいと判断し、一日自由に過ごすことにした。
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陽も暮れ夜の帳が落ち、あたりがシン…と静まりかえった頃、レオンハルト家のある一室では…
バシン!バシン!と、何かにムチを叩きつける音と、声にならぬ絶叫が響き渡る部屋の中。
声が枯れてしまっているのか、それとも痛みに耐えかねて声すら出せぬのか、声は外にまで響く事は無かった。
叩かれている本人は体をなるべく丸まらせ、恐怖をその目に焼き付けぬように目をきつく閉ざしていた。
「この!出来損ないめが!お前は私の言う事だけ聞いていればいいんだ!」
「っ〜!!」
エグモントは実の娘であるアンゲリカにムチを思いっきり振り落としていた。
リリが見たらびっくりするであろう光景がその場には広がっていた。
普段のアンゲリカならば、そもそも父親に叩かれる前に逃げていただろうが、アンゲリカは何故かいっぺんも逆らう気配を見せない。
「痛いか?逃げたいか?まぁ…どうせ逆らうことなど絶対にできないだろうがな。」




