12話 一雫の光
「ほ、本体って何のことですの?!ちゃんと説明してくださいまし!」
「言ってる場合か!」
腕が完全に再生し終わるや否や、化物は標的をゴマちゃんに絞り、執拗に攻撃を繰り出してきた。
無数に飛んでくる火の玉を、時には避け、時には受け流しながら、ゴマちゃんはなおも怪物に攻撃する。
しかし、どんなに攻撃しても、黒い巨体は何度でも再生してくる。
ただただ、ゴマちゃんの体力と魔力が削られていくだけで、このままではいずれ、ゴマちゃんが力尽きてしまうことは目に見えていた。
「最悪だ…!再生は多くの魔力を使うはずだと言うのに、なぜあそこまで大量に魔法を使っていられるのだ?!」
「そ、そんな‥。」
化物は弱る気配を一切見せず、それどころかむしろ、より好戦的になっている気がした。
ゴマちゃんは魔法を使うのをやめ、なるべく火の玉を避けるようにしているみたいだが‥。
「た、助け‥。」
「”プリズムシールド”!……こんなところに止まっていたら死ぬぞ!さっさと学園から逃げろ!!」
ゴマちゃんの怒気を含んだ声に圧迫され、火の玉に当たりかけた生徒は嗚咽を漏らしながら逃げていった。
そう、生徒達は目の前のあり得ない状況に萎縮し、正常な判断ができないでいた。
彼らは逃げることもせず、ただただそこに棒立ちになっていた。
ゴマちゃんはそんな彼女らを守るために、幾度となく防御魔法を使っていた。
おかげで、ゴマちゃんの魔力はあと少しで底をついてしまうまでに追い込まれた。
まさに絶体絶命のピンチ、何とかして、あの黒いモヤを倒さなければならない。
リリは如何すればあの巨体を止められるのか考えながら、相手を注意深く観察することにした。
「グォォォォォ!!!」
「っ…。強い執念を感じるな‥。」
おぞましい叫びと共に、黒い化物は、先ほどの2倍の体積に成長した。そして吸収するような形で、男子生徒を自身の胸に取り込んだ。
「せ、成長した!?」
「やつは人々の嫉妬の感情を喰らうことで成長する。あいつはこのままでは死ぬぞ」
先生達は男子生徒を傷つけない様に、黒い化物の胸付近を避けながら攻撃していく。
攻撃していた先生のうちの一人が、黒いもやの背後に回り込み魔法を打ち込む。
「ガァァァ!!」
雄叫びをあげながら、化物は飛んでくる氷の槍を避けた。
今まで、どんなに強力な魔法を使われようが平気で喰らってきたあの黒い巨体が、不自然なまでに、攻撃が背中にあたる事を恐れたのだ。
一体如何して避けたの?あれくらいの魔法なら、きっと擦り傷ひとつ付かないはずなのに‥。
リリはさらに注意して、黒いもやを観察してみた。
ちょうどあの巨体がリリに背を向けた時、
あれは…?
キラリと光る赤い突起をリリは見た。
それは宝石の様に強い光を放つ物だった。
そしてまたしても、化物は背後からの攻撃を避けた。
明らかに、背中に攻撃魔法を喰らうのを嫌がっている節が見えた。
「チッ!攻撃を避けて、煽ってきているのか?」
「いいえ!違いますわ!」
ゴマちゃんの的外れな予想を、リリは即座に否定した。
あれは私たちを挑発する動きなんかじゃ無いわ…。そう、あれはきっと‥。
「背中!ゴマちゃん!あの化物の背中についている赤い宝石を狙って頂戴!」
「赤い宝石?……!なるほど、そう言うことか!」
ゴマちゃんも、リリが言わんとしていることに気づいた様で、先生達が繰り出す攻撃魔法の軌道を変え、背中の宝石に当たる様に誘導するものの……。
「グァァァ!!ガァァァ!!」
化物は素早く方向転換し、軌道の変わった魔法達を腕で受け止めていた。
あの巨体であそこまで瞬時に動けるなんて…!
このまま闇雲に魔法を放った所で、あの黒いもやはこちらの動きに対応してくるだろう。
どうにかしてあの怪物の気を引かなければ…私たちに勝ち目はない…!
先生達の魔力も、あと少しで尽きてしまうこの状況。
タイムリミットは刻一刻と迫ってくる。
でも…私が魔法を放った所で、きっと相手にされないわ…。
自分の弱さを理解しているからこそ、リリは今、誰の助けにもなれない状況を恨めしく思っていた。
もっと…もっと私に力があれば!
無力感による悔しさから逃れようと噛んでいた唇からは血が流れていた。
私のユニーク魔法がもっと強かったら…私の力が、あの怪物にも届けば!
強く、強く願った。
ゴマちゃんを…いや、この場にいるみんなを助けるだけの力が欲しいと..。
リリが強く願っていたその時、時が止まったかの様に思えた。
祈る様に重ね合わせていた両手から、淡い光が零れてきたのだ!
その光はだんだんと明るさを増していき、ついには一雫の光の弾となり化物目掛けて飛んで行った。
光の弾丸は化物を打ち抜いた。その巨体は、まるで動く事を恐れた様に暴れ回るのをやめ、リリの方をジッと見つめてきた。
リリと黒い化物はしばらく見つめ合っていた。
化物は何かを伝える様に、リリの瞳を覗き込んできていた。
しかし化物の突飛な行動の意味がわからず、リリはただただ混乱していた。
だが、リリの放った光の弾は、確かに化物の気をそらした。
「恵みを与え、死をもたらす生命の神秘よ、荒れ狂い、眼前の敵を滅ぼすがいい。”アルヴェルス・アロー”!」
息も絶え絶えな掠れた声が場に響き、次の瞬間、化物の背中目掛けて水色の矢が降り注いだ。
その声の主は、ボロボロな姿になったゴマちゃんだった。
ゴマちゃんの放った矢は確実に、黒い化物の急所であろう箇所を貫く。
間も無くして、黒き巨体は砂の様に崩れてゆき、あの男子生徒に纏わり付いていたモヤも見る影をなくした。




