第9話 初代勇者と初代魔王
事の顛末を人間の王から聞いたアポロニアスもまた、頭を抱え悩んでいた。
まさか自分の生み出した眷族たちが姉の眷族に全くといっていいほど太刀打ちできなかったのだから。
数万年たった今、独立し神の手を離れた自らの眷族に力を分け与える事が出来なくなっていたし、姉である女神ニュクスと交渉しようにも全てを察して姉弟の縁を切っていた為、交渉しようにも連絡すらとれなかった。
(そりゃ、そうだ・・・そんな約束を破る身内なんて私だって願い下げだもの。)
「そうして、悩んだ末に導きだした答えが、自分たちとは異なる世界に存在する人間を召喚して力を与えればいいと・・・」
「なっ、なんですかそれは~~~~~~~!!!」
冗談じゃない!!そんな私利私欲の為に私達を呼び出したっていうの!?
生み出された人間も人間なら生み出した神も似たような自分勝手であることに、私は開いた口がふさがらなかった。
「ごほん・・・あ~続けるよ?」
「あっ・・すみません・・・。」
「そうして、色々な異世界を探した結果、見つけ出したのが・・僕たちの暮らしていた地球だった。しかし、遠く離れた地球から召喚するには膨大な神の力を必要とし、
太陽神の分身である太陽に神の力が溜まる十年に一度、この世界と地球を繋ぐ転移陣を作成する事が可能になった。そうして、初代勇者が、この世界に呼び出されたんだ。
そして・・太陽神から力を与えられた初代勇者は、圧倒的な力を持っていて、魔界にたどり着くと次々と魔族を倒して、人間の英雄 ”勇者”と呼ばれるようになった。
その後、この異世界人を陣から呼び出す儀式を”勇者召喚”と名付けたそうだ。」
「でも、勇者の好き勝手にさせなかったんですよね。つまり魔王が現れた!」
ここで魔界を守る為に私たちの大先輩が現れたと興奮気味に紅太郎に訊ねたが、紅太郎は燃える鳥頭の首を横に振ってそれを否定した。
「いや、なにかと力を使い続けて消耗しきっていたニュクス様は、当時の魔界に目を向けられる程の余力がなかったんだ。だが・・”魔王”の代わりにある女魔族が皆を指揮するように現れた。
女魔族は、とても力が強く、誰よりも優しかった。そんな皆の信頼を寄せられた彼女は彼らを率いて、
その群れのリーダーとなり、勇者に立ち向かい、何度も何度も交戦し、結果は、彼女は敗北し、命を落とした・・・。」
「そ、そんな・・・・。」
「しかし、彼女の意思を継ぐかのように、勇者、人間に対抗する者が現れた・・・それこそが”初代魔王”にして最恐の魔王と人間たちには恐れられている存在だ。」
「その後、彼は、魔界を統率し、現在は魔界王と呼ばれ、皆から敬愛されている。」
「え? 初代魔王様って生きているんですか?」
「僕たち魔王は皆、不老だからね・・・殺されない限りは死なないと思うよ。」
「そんなすごい方だなんて・・・」
「今度、”魔王集会”があるから、おそらく会えると思うよ。あの人も君に会いたがっていたしね。」
紅太郎の言葉に胸を弾ませながら、魔界王に会える日を私は心待ちにすることにした。
「ところで、これで、この世界についての歴史は、ある程度は話したけど・・・何か質問はあるかな?」
「あ、あの! 歴史とは少しはなれちゃうんですけど・・・・勇者を・・どうすれば、楓を殺す事ができますか?」
私は、この世界に転生した一番の目的を・・・親友だった者に復讐を果たす方法を訊ねた。