第1話 復讐の始まり
私は、今、処刑台の上から騒ぎ立てている民衆を眺めている。
「早く殺せ!!」 「これが私達、人間の為よ!!」などと自分勝手な言い分を放つ蛆虫のような連中だ。
どうして、こうなったのか・・・なぜ、私が殺されなくてはいけないのだろうか・・・。
ボロボロの囚人服の上から荒縄で後ろ手に拘束された私は、まるで、時代劇の処刑シーンのように顔に紙をつけられ静かに自分の首が落ちるのを待つ。
身体と心は、度重なる拷問でボロボロになり、もはや死すらも救いだと思えてきてしまう。
そんな私の前に、民衆共の歓声とともにきらびやかな鎧に身をつつんだ美しい、"私のよく知る女性"がやって来た。
彼女の名は、”秋風 楓” この世界に勇者召喚された私の幼馴染で大好きな親友・・・だった人だ。
「さぁ、勇者さま。その聖剣で、その者の首を刎ねた時こそ、貴方様は真の勇者となるのです。」
偉そうな態度で豪華な椅子に座っているこの国の王が楓に私を殺すように指示をする。
(なにが、真の勇者よ。他人の犠牲の上に成り立つのが真の勇者ってやつなの?)
「香・・・ごめんね。これも、この世界とこの世界に生きる人々の為なの。」
涙を流しつつも、躊躇せずに親友だった幼馴染は、私の首を斬り落とした。
私の首が落ちる瞬間、霞みがかっていく意識の中、民衆共の大歓声が響き渡っていた。
(あ~この世界って・・・本当にクソだなぁ・・・。)
そうして、地球の、ただの女子高生だった私”花園 香”の人生は、異世界で幕を閉じた。
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・はずだった。
『なんとも、惜しい魂よのぉ~。』
(・・・だれ?)
『これほどまでに素晴らしき潜在能力を持っているというのに、ただ一つのダイヤを磨く為だけに原石を使い捨てるとは・・・。』
美しい音色の女性の声が私に語り掛ける。
『お主は、このままで良いのか?』
それは、つまり、このまま死を受け入れるということだろうか?
(いいわけないじゃない!!・・・でも、受け入れるしか・・・。)
自分には、何もできないのだと、異世界に召喚されてから、それを痛感させられた。
『・・・なるほどな、お主も酷い仕打ちを受けたのだな。 しかし・・我ならば、どうにかできるかもしれんぞ・・・。』
(・・・・え?)
ずっと絶望し、うつむいていた私の意識は、このとき初めて話しかけていた人物を目にした。
『ふむ、やっとこさ顔を見せたのぉ~。絶望に濁った魂なんぞ転生させる価値なんぞないからのぉ~』
目の前には、ブラックパールのように美しい長い黒髪にルビーのような赤い瞳、黒鳥のような美しい6枚の翼の生えた黒一色のドレスを身に纏った長身の美女が私を眺めていた。
(あ、あなたは・・・?)
『我が名は、”ニュクス” 夜の神にして、魔の者たち全ての母である。』
ニュクスと名乗った女神は、優しく私に微笑みかけながら、ゆっくりと近づいてくる。
『我から、お主に提示できる選択肢は、二つある。一つは、一度、無に還り地球にもう一度転生する事。これに関しては我の手の中からお主の魂が離れるからどう転生するかは解らぬ。記憶も何もかもが無くなるのでな・・・。』
地球に戻れるというのは、ありがたいが、しかし・・私の求めている選択肢はこれではない。ゆっくりと否定の意味を込めて首を左右に振る。
『二つ目は、我が子、我が眷族である者たちの住むあの世界の裏側、”魔界”に転生してもらう。もちろん記憶や人格は、そのままだが、我は魔族たちの神じゃ、つまり・・・
わかるじゃろう?』
つまり、人間としては生まれ変われない、別の存在、魔族としての人生を歩めという事だ。
『そして、この二つ目の選択肢を受け入れる時、お主にはある使命・・いや、呪いとでもいうべき物が魂に刻み込まれる。 それは・・・”勇者と戦う”というものだ。』
(・・・・・・!!!!)
『我が庇護する魔界を人間たちから守る為には、強力な力が必要になって・・・』
(なります・・・私、魔族に転生します!!)
勇者と戦うという事は、あの私を嘲笑った民衆たちにも処刑場へ引き立てられていく時に石を投げてきた兵隊たちにも、私を嬉々として鞭でいたぶった拷問官にも
そして・・・私を異世界に召喚した王や私の首を刎ねた楓に復讐するチャンスがあるという事になる。
『やはり・・・そうくるか、しかし我は、愛する魔族となるお主には第二の人生で幸せを見つけてほしい。』
悲しそうな目をしつつ、ニュクスが右手を私の頭に乗せた瞬間、私の身体が、まばゆい光に包まれた。
『しばしの別れだ。 我が愛しき子よ。叶うのであれば第二の生に少しばかりの安寧と幸せを謳歌できる事を願っている。』
久々の小説です。少しでも多くの方に読んで頂けると嬉しいです。