共作掲載〈最終話〉
「でも、犬飼は、何故ネタバレを世間に晒したんでしょうか。しかも本名で。もし、先生への嫌がらせだとしたら、お門違いもいいところですよね。
先生の漫画は娘さんを楽しませたんだから、感謝こそされ、恨まれるのは可笑しな話ですよ。」
残された疑問に、僕は言及した。僕なりに考えを巡らせたが、納得出来る答えは見つかっていなかった。その解答を、被害者である明智先生に求めたのだ。
「本当のところは、本人しか解らないんだけど‥」
そう前置きをした上で、先生は口を開いた。
「彼のターゲットは僕じゃなかった。‥僕はそう考えているんだ。」
「先生じゃなければ、誰なんですか。」
意外な解答に、僕は少し驚かされた。
「関君、漫画でも、映画でも、小説でも、それを観る人、読む人にとって、一番嫌な事は何だと思う。」
先生からの質問、その解答は少し考えるだけで誰でも思いつくものだった。
「その結末を含むネタバレをされる事‥‥ですか。」
「その通りさ。ものによっては相当長い時間に渡って味わう事が出来る楽しみ。それが一瞬で奪われるのだからね。」
「犬飼にとって、娘さんは生き甲斐であり、その成長を見る事は唯一無二の楽しみだったに違いない。」
「娘さんを失い、その楽しみを奪われた彼は『他の大勢の人々からも楽しみを奪ってやろう。』と考えたんじゃないかと、僕は考えているんだ。」
「きっと自暴自棄になっていたんだろう。奪われた側からの報復が容易に想像出来るのに、わざわざ本名を晒す必要はない筈だからね。」
「僕の作品のネタバレは、それに利用されたという事さ。」
「それこそ酷い‥」
僕は言いかけたが、やめた。
一番の被害者である先生が、自らの中で時間をかけて収束させたものを、再び掘り起こす必要はないと思ったから。
「でもね。もしかしたら‥僕は犬飼に救われたのかもしれないんだ。」
一呼吸し、先生が口にしたのは意外な思いだった。
「正直、連載を続けている間、作品がヒットすればするほど、僕は心の中で後ろめたさを感じていた。この感情は、傍らで喜んでいた吾郎とは対象的に、僕の心の疲労感としてどんどん蓄積していたからね。」
この言葉を聞いた時、僕は先日久しぶりに斎藤さんと伊藤さんに会った時の、別れ際の二人の表情を思い出した。
疲労感を口にしていた伊藤さん。
相変わらず、活力に溢れていたいた斎藤さん。
(あっ‥)
僕は一瞬、心の中で叫び声を上げていた。
もしかしたら、伊藤さんの連載漫画のストーリーは斎藤さんが考えていたのではないか‥いや、きっとそうだ。
あの二人の間の空気感‥。そして好きな武将から引用したと言っているペンネームの『信玄』、武田信玄といったら影武者で有名な武将‥‥。伊藤さんのペンネームには、自身が本物ではないという複雑な思いが込められていたのかもしれない。
「どうかしたのか。」
黙っていた僕に、明智先生が尋ねてきた。
「いえ。先生、そんな事よりこれからの事を考えましょう。」
僕はそう答え、たった今思いついた空想の話はしなかった。
そして翌日、僕は先生からの申し出に対して「是非、やらせて下さい。」と正式な答えを伝えた。
それから半年後、僕と明智先生による作品第一号が、連載をスタートさせた。
発行元は、斎藤さんのいる出版社のライバル会社。
[作画]明智秀樹
[原作]関博美
物語の主人公には、ある二面性があって‥‥
〈 おわり 〉
間が随分開きましたが、久しぶりに書き上げました。思いついたアイデアを書いて、誰かに読んでもらいたいと思って書きました~。
ダメ出し含めた感想、大歓迎です!




