357話
「そうだ。先生、あの宿題にはどんな意味があったんですか。」
先生の告白を受けて、僕は忘れていた疑問を思い出した。
あのメモ紙に、先生の新しいメールアドレスと共に書かれていた宿題の内容はこうだった。
『僕の前作の第375話から最終話までのあらすじを、より面白いと思うものに創り直してみてくれ。そして、それをこのメールアドレス宛に送って欲しい。』
僕は、あの時、それが先生に繋がる唯一の方法だと思って深く考えず、その宿題に取り組んだ。そして、結果的にこうして先生に会えた。
でも、その宿題における先生の意図は全く解ってなかった。
「あれはね‥‥、君に僕の代わりに吾郎のアイデアと戦ってもらったんだよ。」
先生は、少し申し訳なさそうに口を開いた。
「正直言うとね‥‥、勿論あくまで現時点での話だけど、関君の画力は漫画家としては及第点以下だと僕は思っていたんだ。でも、反面、君達がよくやっていたゲーム内で君が発表したキャラクター設定やストーリー考察には、時々驚きを覚えていたんだ。それは自分には無いものだったからね。
それでね。君と別れるにあたって、僕が勝てなかった吾郎の作ったストーリーに君に挑んでみてもらいたいと思ったんだ。
いや、今改めて考えてみると、吾郎のアイデアを超えられる者がいるのかどうかを知りたかっただけなのかもしれない。正直、ダメ元だとも思っていた。
そして、送られて来た君からの回答‥‥あれを読んだ時は、正直驚いたよ。
キャラクター設定の新しい追加、モブキャラだと思われていた登場人物の隠された事実、時空移動要素や制約要素を加えた斬新なストーリーの改変‥‥。そのどれもが僕には思いつかないアイデアだった。そして、何よりも‥‥面白かった。」
軽くデイスられたような、凄く褒められたような‥‥僕は不思議な気分だった。
「失意の中にいた僕は、あれを読んで思ったんだ。
人にはそれぞれの才能がある。スポーツやビジネスでもそれぞれがその才能を活かすべく別々のミッションを担って結果を追求している。
漫画だって同じじゃないか。僕のように画力を武器とする者。吾郎や君のようなアイデア力を持つ者。だったらそれぞれの得意分野を活かし合えば、より面白い作品が出来るに決まってるじゃないか。‥と。」
そして、ここで先生は、僕の正面に体を向き直し、少し背筋を伸ばし、座り直してから‥言った。
「そこで、関君へお願いだ。僕の漫画の原作者になって欲しい。‥いや、ちょっと違うな。関君が考え出した原作を漫画で描きたい。
吾郎の時とは違う!二人の名前で一緒に作品を創り上げたいんだ。今となっては、吾郎が君をスカウトした事も頷ける。吾郎はきっと、君に昔の自分の姿を重ねていたんだと思う。」
思いがけない、先生からの申し出だった。
そして、それは僕にとっても魅力的な話だった。
僕の考えた物語が、明智先生の演出によって二次元化され、紙面を飾り‥‥、それを沢山の読者が読む。その光景を考えただけで、気持ちが高揚してきた。
でも、僕は「一日だけ考えさせて下さい。」と先生に言った。
画力の低さをイジられた事に対する、ささやかな嫌がらせだった。本当は及第点以下どころのレベルじゃないと、石川優美にもディスられて自覚してたのに。




