自白②
ここまで話すと、明智先生はテーブルの上の缶コーヒーに手を伸ばし、3分の1程になっていたその残りを一気に飲み干した。
束の間の静寂の中、先生の告白内容に驚きながらも、僕はこれまでに集めたピースが一つ一つハマっていくような感覚を覚えていた。‥辻褄が合っていた。
そして同時に、一つの可能性がどんどん高まっていくのも感じていた。
それを確認せずにはいられなかった。
『先生、犬飼にネタバレをしたのは斎藤さんなんですね。』
その瞬間、先生が僕の顔を凝視し‥‥そして、言った。
「色々と、調べたんだな。」
僕は、浅く頷いた。
「まあ、そう単純な話でもないんだ。それに関君、これから続きを話そうってのに、先にその質問に答えたら、それこそネタバレになっちゃうじゃないか。」
「すいません。」
僕は苦笑いをするしかなかった。
そして、手に持っていた空の缶をテーブルに置き、ソファーに深く座り直すと、先生は続きを話し始めた。
『 それからも、吾郎は頻繁にアイデアを僕に提供してくれた。
早い段階で物語の結末までの大枠なあらすじは決まっていたが、その途中の細かな事象について、或いは効果的な伏線の張り方等について‥。実際、吾郎のアイデアは僕を唸らせるものだったよ。そして僕はもはや、それを受け入れる事に抵抗感を覚えなくなっていた。
作品は好調だったし、君を含めアシスタントが何人も入って来て、仕事場も随分と賑やかなものになっていた。
そんなある日、吾郎が一通の手紙を待ってやって来た。
当時、僕宛のファンレター等の郵送物の管理は吾郎にしてもらっていたのだが、その中に気になる物を見つけたので持って来たとの事だった。
それは、ファンレターという類いのものとは少し違っていた。
《 拝啓
私は犬飼以蔵という者です。
唐突ではありますが、明智先生にお願いがあって、この手紙を送らせていただきました。
私には7歳になる一人娘がいるのですが、実は生まれながらに大病を患っており、一日の殆どをベットで過ごしております。
その娘の一番の楽しみは、先生の作品を読むことです。本当に目を輝かせて読んでいます。
しかし、そんな娘に対して先週、医師から余命3ヶ月という宣告がされました。
娘にはこの事は伝えていません。
でも、娘は何となく感じ取っているのかもしれません。
昨晩、娘が先生の漫画の最新話を読み終えた後、こんな事を言いました。
「残念だけど、この漫画の最後がどうなるか、多分私は知る事が出来ないのよね。」
ご無理は承知の上で、お願いします。
物語の結末を含む今後のストーリーを、娘に教えてあげて下さい。
約束します。他人には一切、漏らしません。
何卒、何卒、宜しくお願いします。 》
「なるほど‥、可哀想な娘だな。サイン入り色紙でも送ってあげようか。」
手紙を読み終えた僕は、吾郎にそう言った。
しかし。吾郎は黙っていた。
「おい、まさか。」
「教えてあげようとか、思ったりしてないよな。」
それでも、吾郎は返事をしなかった。
「おい、正気か?漫画家にとってストーリー構成は命だ。それを他人に教えるなんて、あり得ないだろ。」
「でも‥‥、可哀想だとは思わないか。」
ようやく漏らした返事が、それだった。
「何言ってんだ。そもそも、本当の話かどうかだってわからないじゃないか。」
僕は、吾郎に詰め寄った。
「‥そうだな。教えるなんて選択肢はそもそも無いよな。」
やがて、吾郎も僕の意向に同意し、その日は帰った。
しかし、その翌々日の朝、吾郎は再びやって来た。
そして開口一番に言った。
「本当だった。」
最初、僕は何の事を言っているのか解らなかった。
「難病の娘の話、本当だったんだ。近所の人達に聞いて裏も取れた。」
「お前‥、現地まで行って確認したのか。」
わざわざ手紙の主の自宅まで赴いて確認をした。その事実が、既に吾郎の意向を示していた。
犬飼を信じて、娘さんの願いを叶えたいという吾郎と、漫画家人生にも影響が出かねないそんなリスクは負えないという僕‥‥二人の意見は衝突し、どちらも譲歩しなかった。
そしてその2日後、吾郎は僕の元を去っていった。』




