8.邂逅
生活指導室。何も心当たりがない。
記憶を探りながら、ドアを開ける。
「失礼します」
先生の姿を認め、中に入る。
「ああ、どうぞ、ここに座って」
「はい…あの、生活指導されるような心当たりがないのですが……」
「まあ、少し確認したい事があるんだが……」
「今朝の事ですか」
「それもそうだ。正直に言ってくれて、助かったよ」
「……事実ですから」
「あの場で言い出せる勇気は大したもんだが、それは本当に事実か」
あ、無実の罪を着る人がたまに存在することの認識はあるのかな。
じゃあ、その説教の仕方とか変えればいいのにな。
「……たまに、このクラスに、事実でなくとも自白する人がいると聞いたことはありますが……あれは、本当に自分がやった事だったから、それを他の人にされるのが嫌だったし……」
それとなく伝えた。先生、ちょっと苦笑いをしているような。
「ありがとう。その心配があったんだが。まあ、本題はそれじゃ無くてだな。その……目の事なんだが」
「目……?」
何のこと?
「カラーコンタクトをしているように見えるのだが?」
「……はい?」
ますますわからん。
まさかと思って、手鏡を見る。
自分の目を、初めは疑問、次の瞬間驚愕に変わっていくその目を、鏡ごしに見た。
見たその瞬間、黒以外の見慣れない色が見えた。
「それ」は、深い、深い、海のような青をしていた。
さらに驚いたことに、自分の驚きが増していくにつれ、目の色は、黄色くなっていったのだ。
これは、自分の目ではない。別の生き物だ。
カメレオンみたいだ。すうっと、色が変わっていく。
「へっ……えぇっ?」
戸惑いから、思わず声が出た。
「普段真面目な竜山の事だから、まさかこんな校則違反はせんだろう。まして、こないだ、推薦を考えてると言っていたから、なおさら気になったのでな」
「……私も……こんなの、つけた記憶ありません……というか、色が変わるカラコンなんて、あるんですか……?」
「うん?……自分は、若いもんのおしゃれには疎いから、わからんが」
一体、なんなのだろう、これは。
「それで、2学期からこのクラスに転入予定の生徒がいるんだが、そいつも目の色が変わったりするんだ、気のせいかも知れんが」
「……へえ……?」
「それで、何度か転入前の面談で注意したんだが、本人がカラーコンタクトではないと言っているから、閉口していたんだが、そこで竜山を見て、お前に聞けば何かわかるか、と思ったのもある」
「転校生が、いるんですね……」
「まだ言ってなかったな……まあ、そういう事だ。あ、もし、竜山のそれがカラーコンタクトなら、早く取る事。校則破ったもんを、推薦できないからな」
「あ、はい」
世間の、地毛の金髪を咎めたりする先生より、理解のある先生だな。意外だ。
「失礼しました」
外に出る。
カラコンなんて、つけた記憶ないんだけどな。
とりあえず、水道で、目を洗う。
ゴシゴシこすっても取れなくて、
カラコンじゃないと、再確認する。
授業が終わり、いつも通り、校門を出ようとする。
そこで、ふと、振り返る。
一人、女の子が、道に迷っているようだった。
制服は着ていない。誰だろう。
目が合った。どきりとする。
その子の目は、黄金色をしていた。
先生の話を思い出し、転入生じゃないかと直感した私は、普段なら絶対にしない行動に出た。
「ねえ、何を……探してるの?……えと、転入生……かな……?」
うっわ、何という貧弱なコミュ力。
話しかけた後で、「あっ、えっと……」と、しどろもどろになる。
顔が赤くなっている自信がある。
でも、初めて自分から話しかけられた気がする。
話しかけたあと、はっとして、初めてその少女を見た。
栗毛色のくせ毛。前述の通り金眼。顔立ちも整っている。
私とは比べものにならぬ、綺麗な少女だ。
話しかけられたその子は、少し目を丸くしたかに見えたが、
その後、じぃっと、私の目を見て、
ニッコリと、いや、ふわりと、微笑む。
「私は、清川瑠璃亜。君は、魔法使いかな?」
えぇ?!