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魔法が使えるだけの普通の女の子  作者: まるぱんだ
10.望まれざる再会
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82.深淵

「闇の球……か。いかほどのものかな」

 徹は、ルルーの魔法に気づいたらしい。

 もう、初めのようにあら探しをして嘲笑するようなことはしない。ただ無表情で、片手を構える。


 彼の手のひらに、白く輝ける光が集まる。


 それは球体となり、小さくなると同時にその輝きをましてゆく。光の密度が濃くなっていくようである。


 私が今まで作った光の球、いや、他の人の作るそれを見てきた、そのどれをとっても、彼の手の中の輝きにまさりはしないだろう。

 闇魔法に対抗するのは光魔法。

 彼は、ルルーの魔法を消しにかかっているのだ。


 それが発せられたら?

 それを防ぐには?


 そうだ、闇魔法は私には使えないけれど、土の壁は陰を落とすのだから、何かしらの効験はあるはず。そう思い、土の壁を繰り出した。

 ところが、それは無駄に終わる。彼の魔法は壁をすり抜けた。一直線に、彼女の手の中に突き進む。


 どうしよう。


 光の球が、彼女の手元の黒い闇にぶつかり、お互いがいくらか萎縮したようだった。

 しかし、黒々とした空間は、その光をも吸い込む。そう、彼の光の球は、消えたというよりは吸収されたかのように見えたのだ。

「くっ……」

 ルルーの声。

「ルルー……ごめん!!」

 謝ることしか出来ない。


 対する彼女は、コクリと頷き、詠唱を続ける。黒い球が、すぐに前以上に大きくなる。


「ふうん……」

 徹が、何かを知ったような声を出す。

「光魔法で直接消せはしないのか。それほどその子は強いのか。ならば、その守護者から片付けよう」


 守護者……って。

 私?


「うわ……きゃあ!」

 いきなり、魔法が押し寄せる。

 球体、弾丸、矢、槍、拳……ありとあらゆる種類の、あらゆる属性の攻撃魔法が、彼を起点として私に迫ってくる。


 一瞬、頭が真っ白になる。


 しかし、さっきの怒濤の弾丸を少し増やしたくらいだ。一度深呼吸し、そう考える事が出来たら、すぐに方針が立った。今までのことを応用して、辛うじてこれらを防ぐ。防げなくとも、弾いて軌道を逸らすくらいのことはした。

 彼に、もはや容赦という文字はない。しかしそれでやられる訳にはいかぬ。


「しぶといな」

「……私が倒れる前に、ルルーの魔法は完成すると思います」

「それはどうだろう……その子の魔法が完成する前に、その子が先に倒れるかもしれない」

 彼は呟くように言う。


 そうはさせない。


 彼の攻撃は、一層強くなる。ルルーの魔法の完成すら叶わせずに倒そうなど、許せない。さっきの呟きを現実にさせたくはない。そんなことになろうものなら、私は――。


 そんなことを考えれば、却って魔法の精度は落ちてしまう。無心で、夢中で、防戦に徹した。

 途中、防御魔法が間に合わなくなる。しかし、その時は咄嗟に手が出た。特に水の球は、手で動かしやすい。火傷する、という判断すら遅れたときは、火魔法や電気魔法さえ、手で弾こうとした。お陰で、左手はなかなかに爛れてしまう。


 そんなとき。


「な、ななみっ……、早くっ……光の壁を! 大きいの、なるべく厚いの、自分達の近くにっ……はや、早く……!」


 ルルーが呼び掛ける。

 その声に、動作に、落ち着きは全くない。

 それにつられて自分まで慌てながらも、光の壁を、言われた通りに生み出す。


 大きく、厚く、自分達の近くに。


 次の瞬間。

「はっ!!」

 ルルーは、気合いの声とともに高く跳び上がり、手の中にあったものを壁の向こう側に投げ飛ばした。


 同時に、彼女が私の手を引く。

 転びそうになりながら、引っ張られるままに動く。何かにぶつかるのを感じた。そして、その障害を無理やり掻い潜るような感覚も覚えた。


 今まで感じたことのない光に、目をぎゅっと閉じる。


 明るさに慣れたので、目を開けた。


 それは、見たことのない光景だった。私のすぐ周りには、溢れんばかりの光が満ちている。光の粒が、周囲でうごめく。その渦のなかに、私がいる。すぐとなりには、ルルーがいる。肩で息をしている。


「ここ……どこ?」

「光の壁の、中……だよ」

「えっ、まじ?」

「……うん」


 ふと、輝く渦の向こう側が見える。

 蛍が飛び交うような光は、自分から遠いものほどくっきりとしていた。それは、周りの黒に縁取られているからだ。


 壁の向こう側は、闇だった。なにもない、深淵のようであった。あの黒い球に集まったはずの、深い、深い闇夜が、解き放たれ辺り一面に広がっているような、そんな世界だった。


 座り込んでいたルルーは、少し落ち着いてから、再び立ち上がる。何かを感じ、私は水の球を作る。

「ななみ、ナイス!」

 そう言って、彼女は一気に水を口に含んだ。


 外の闇に、ルルーが片手を当てる。光の壁の中から手を出した、と言う方が適切かもしれないが、私にはそう見えたのだ。手の輪郭は、闇夜に溶けるように、ぼやけて見えた。

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