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魔法が使えるだけの普通の女の子  作者: まるぱんだ
2.始まりと失敗と出逢いと
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7.変化

 この最悪なタイミングで、チャイムが鳴って、担任が入ってきた。

 案の定、「あれ、誰がやったんだ?!」と言われる。

「自分がやったと思う奴は、早く言いなさい」

 教室から、物音がしなくなった。こんな静かになるのは、このクラスでは珍しい。

 いやいや、そんな、呑気な事を言っている場合か?


 しかし、みんな、怪奇現象として認識しているらしい。最初はおずおずと、だんだん激しく、証言が始まった。主に男子。

「誰も触ってないのに倒れました!!」

「俺、この目で見たんです! いきなり、窓も開いてないのに、こう、カーテンが、ふわって!」

「で、ガシャーンって!!」

「おい、どうせ、お前たちが騒いでて倒したんだろう。後で、全員職員室に来なさい」

「いや、違うんです……」おとなしいめの男子が参戦。先生、戸惑っている。

 いや、そうじゃなくて!

 何か、言えばいいじゃないか。

 “自分がやったと思う奴” は、私しかいないのだから。


 このまま、誰も名乗らなかったら、長い説教が始まる。

 いつもなら、人ごとだったから、聞き流していた。ずっと、時計を見ながら。

 このまま、長い説教を始めてはならぬと、進んで罪を着る人も、半年に一回ほどの割合で存在する。

 いつもなら、何でそんな事するんだろうと思いつつも、無関心だった。


 でも、今日は違う。私自身が、当事者なのだから。


 このまま、何の関係もない人に、濡れ衣着せるわけにはいかない。

 着せられた記憶が蘇ったって、この際関係無かった。


 私が名乗って、私が壊した時のシチュエーションを、みんなでつじつまあわせてくれれば、魔法の事を一から話す必要もなくなるから、楽で好都合ではないか。私の良心の呵責も、それで解消出来るんだから。


「誰も居ないのか?」

「あの、それ……」

「そんな言い訳したってなぁ……」

「いや、あの……」

「先生……てか、みんな……声聞こえるの、俺だけ?」


「……あのっ……それ、私です」


 クラスが、私の方を向き始めた。


「竜山、本当だな?」

「はい」

言ってしまえば、簡単だった。


 そのままなら、よかったのに。

「いや、あいつは違うっすよ」

 え?

「そうそう、竜山さん、あの花瓶から一番離れた自分の席にいたから、アリバイあります……よね?」

 女子の声。


 なぜ、今、弁護するんだろう。座っていたのも事実だが、壊したのも事実なのに。


「その……間接的に、です。壊す気は、無かったんですけど……」

「どういうことだ?」

「あんまりわからないけど、気づいたら、その……」

 ここでしどろもどろになるとは。何か説明を作るかすれば良いではないか。

 まあ、この場で魔法とは言えそうにないが。


 先生、しばらく私の目を見た……ような気がした。

「まあ、それについてはもういいだろう。花瓶はまた買えば良い。しばらくペットボトルで間に合わせよう。……竜山には別件で用事があるから、昼休みに生活指導室に来ること」

「……あ、はい」

 なんだろう。


 席に着き、ホームルームが始まってから、ぼんやり、今起こった事を冷静に思い起こしていた。

 みんな、何故、私をかばったのだろう。


 前の席を見る。

 今、目に入った少女は、同じ小中学校出身だ。

 中一の時、クラスの給食費が消えた時、大声で、

「ななみちゃんが、魔法で消しました〜!」とぬかしたのだ。

 結局、先生に怒られたのも、冷やかされたのも、私だった。


 横に視線を移せば、小学校の時同じクラスだった男子がいた。

「魔法でカンニング出来んだろ、ずりい」と言われた。


 こういう事がきっかけで、すでに魔法に対する不信感を持っていた私は、

 魔法を憎むようになった。

 魔法が無ければ、魔法を信じ込んでいた過去が無ければ、笑われたりしないのだと。

 魔法があるから、誰も相手にしないのだと。


 でも。

 それが正しければ、みんな、魔法の話をでっち上げてでも、私のせいにしたはずだ。

 なのに、みんなして、私のアリバイを主張した。


 そういえば……魔法絡みで何か言われたのは、中学時代が最後ではないか。

 みんな、あの時のことなんか、覚えてなくて……

「今」を、現実を、生きてるのかもしれない。


 私の方が、みんなから、逃げてたんだ。

 魔法を、口実にして。

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