6.失敗
また、いつも通りの日々。
朝起きて、ご飯食べて支度して、電車に乗って、単語帳見ながら空席探して、校門をくぐって、教室に入って、自分の席に着いて。――そういや、朝食の時、母が私の顔を見て、ニヤニヤしてたっけ。
魔法が初めて使えた時の、あの高揚感、あのなんとも言えない気持ちを返せ。
魔法が使えたって、何にもかわらないじゃないか。
あの日、寝るまでの間に、風魔法に磨きがかかった。コントロールの仕方も書いていたので、自由に竜巻を作ってそれを動かせるまでになったのだ。
しかし、それが何になる。
あの後、何度も魔道書を読んだから、例の言語を、かなり早く、多く読めるようになった。
けれど、国語の長文読解が、早くなったわけじゃない。
電車の中で英単語カードを繰っても、前より覚えが良くなったわけでもない。
何にも、変わりはしない。いつも通りの日常だ。
いつも通り、陽キャがクラスで騒ぎ、それ以外は受験勉強と言う名のクイズに励む。
私は、席にじっと座っている。
昨日の復習とばかり、緩い風を、ホームルームで起こしてみる。
「あ、涼しい」
「クーラー入ったかな?」
「いや、この教室エアコンないから。扇風機じゃね」
「動いてねぇじゃん」
「まあいいや。涼しいから」
前言撤回。やっぱり嬉しい。別に、自分が注目されなくていい。でも、私が、私自身が繰り出した魔法で他の誰かが動くというのが、なんとなく面白いのだ。
今までの私とは、違う。
こんな些細な事でガッツポーズをするとは、なんて馬鹿なのだろう。
いまやっている魔法は、自分の手の形に左右されるのに。
拳を作った瞬間、風は竜巻に変わった。
手を前へ出した瞬間、竜巻はものすごい勢いで移動した。
急いで指を解いた時は、もう遅かった。
教室に、大音声が響く。
「え、何あれ?」
「誰も居ないよね……」
「カーテンが当たったんじゃない?」
「窓、開いてないし」
「えー、こわ」
窓際の花瓶が倒れ、粉々になっていた。
水が広がり、差していた桜の枝は、一部が折れ、周りにピンクの斑点が見えた。
取り返しのつかない事をした。そう思った。
こういう事もあるし、クラスが注目してなくて良かったー
……いや、本当に、良かったのか?
そういや、昔、誰かに濡れ衣着せられたなぁ。仕返す?
そうも思ったが、とても、実行に移せない。
どうして?魔法を忌み嫌っていたの、そいつのせいでもあるでしょ?
そんな事言ったって、やったのは自分じゃないか。
教室が、ざわざわしている。
いや、教室だけではなさそうだ。