62.学校
「えー、あけまして、おめでとうございます」
いつも通りの、校長先生の長い有難いお話が始まった。
夏に比べて冬は熱中症とかの心配がないからだろうか、夏よりも長かった。夏でも充分長かったが。
「……一年の計は元旦にあり、とありますが……」
はい、そうですね。
毎年この話だ、この人は。この後、計画無くして成功なし、とか言うのだろう。
「……皆さんは、生徒ではなく、学生になって貰いたい。自ら学び取って欲しいのです。……」
……ほう? 三年目にしていつもと違うかも。少し期待。
「……そのためには、自らが各々望む学び舎で、……」
……この学校は進学校ではないから、そういう人は少ないように思うが。でも、私やルルーが該当するかもしれない。そう思えば身近に感じる。
「……皆さんの夢を、実現して欲しい。皆さん、このような言葉を知っているでしょうか。計画無くして、実行無し。実行無くして……」
あー、結局か。
「……従って、計画無くして、成功なし!」
はい、決まった。いつもの、冬休み後のアセンブリでいつも彼が言う事だ。来年はどうなんだろうなぁ、と、毎年のごとく思ってみて、来年自分はこの学校には居ないんだ、と再認識して。でも実感がわかなくって。
いや。来年ではない。
卒業式は、「今年」だ。
「……そうして、私は、『学ぶ喜び』を知って貰いたい。そう願います」
一礼。軽くハウリング。いつのまにか終わった。ええと……
あぁ、確か、校長が自分の一年の計は、とか言って最後の結論がこれだったんだっけ。
学ぶ喜び……か。
勉強の……?
そこで、ふっと、その言葉が何かにピッタリはまるような感覚があった。
学校の宿題やテスト勉強で、楽しいと感じたことはまず無い。ただ、来年の自分が好きな事を出来るように、というのがモチベーションだった。だから、音楽のソフトとか、それ関連のプログラムとか、そういうものの本を読むと、少なからずワクワクしたものだ。オープンキャンパスの時魅せられた、あの「魔法」のせいだろう。
しかし。多分それ以上に、何かある。
……そうだ……私の、文字通りの「魔法」の勉強だ。
高三にして、初めて勉強し始めたもの。だからこそ、初めての事が多くて、初めて何かができるようになる時は嬉しかった。高揚感か達成感か。自然と頰が緩むような。しかも、魔法使い同士で新たな繋がりが生まれたりもした。ルルーも、そしてあのピンクの瞳の少年も、銀の目をした彼も。いや、それだけでは無い。中級に手を出した時の、あの感覚。今までパターンとして覚えていたものが、理論の中にはまっていく、あの感じ。あの爽快感は、一体何なのだろうか。今まで経験したことが無いもののような気がするのだ。
と、そんな考察をしていれば、いつのまにか伝達表彰式も終わって解散。
表彰式……私には関係ないものだ。でも、それでもいい。あの人たちにはあの人たちにしかないものがある。けど、同じように私には、私にしかないものがあるのだから。




