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魔法が使えるだけの普通の女の子  作者: まるぱんだ
2.始まりと失敗と出逢いと
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5.試行

 魔法が実在する事がわかった。

 自分の魔力は、不慮の事故によって、発現した。


 ならば、使ってみるしかない。


 ちょうど、帆があげられたばかりの船だ。帆を広げ、錨があげられた、その瞬間の一艘の船のように、後戻りは出来ない。ある程度進めば、引き返すことも出来る。いずれにせよ、少し進まなければ、後退も出来ない。


 いや何を言っているんだ、と言いたくなるだろう。要は、魔法を一度使ってみるまでは、(第三話にあったような)自分の中の口論が、決着しないのだ。もっと正確に言えば、魔法に対して抱いていた抵抗感を好奇心が上回ってしまった、というだけだが。

 原動力は、あくまで好奇心だ。

 ただし、昔、私をいつもからかっていた奴らを見返したい、というのも、なきにしもあらず。それがメインの理由でないのは、自分もまた、魔法を悪く思っていたからだ。


 何となく、今更母の手ほどきを受けるのが嫌だった。母の話が終わり、彼女が台所に行った隙に、自分の部屋に駆け込む。常夜灯にして、ベッドに座り、膝の上で魔道書を開いた。ぱらっ、ぱらっと、適当に、でも破らぬよう慎重に、ページを繰る。

 一番上の、大きめの文字に、指を当てる。

 白い光は、ぼうっと、影のように、黒い文字を映した。もう、耳鳴りは無い。『目次』


 おお、丁度いい。その下を見ると、魔法にはいくつかタイプがある事がわかった。

 簡単で、かつ日常で使える魔法、無いかなぁ……


『杖を用いるもの』? いやいや、杖なんて、家にないし。母か祖母に頼めば、どこかから探してくれるかも知れないが。

『魔法陣を用いるもの』? 難しそうだ。いや、本の最初の方にあるのだし、簡単なのかな?

『呪文を唱えるもの』? 使ってる時に横で聞かれるとか、恥ずかしい。そんなシチュエーションも珍しいか。


『手で印を組んで使うもの』! なんか、お手軽な感じがする。学校でも、机の下で出来そうだし。てかまあ、学校で使うことなんて、無いだろうけど…


「やってみよ!」


 そうと決まれば、と思ったが、一つ、問題があった。ページ番号も魔法使いの言語に変換されており、該当ページを探すのも一苦労なのだ。

 そこで、まず、最終ページの番号を読み取る。『九四二』え、漢字で表示されるの?

 目次によると、目的のページは『五七六』。

 だいたい、半分を少し過ぎた辺りだ。狙いを定め、開いてみる。『五九〇』だいぶ近いところだ。

 二四ページ、遡ると、上の方に少し大きめの文字が見えた。きっと、見出しだろう。


 適当に、指を当ててみる。すると、手の挿絵が浮かび上がった。

 図までこの言語にする必要ないでしょうよ……誰でも分かるって……

 と思ったが、きっと、手の形も、忘れたらまずいのだろう。


 母が言ってた、「指で読んだら絶対忘れない」というのは、本当だろうか。確かめようと思い、図を一瞬読んだ後、すぐに手を離してみた。自分でも、読んだかどうかもわからないくらいの一瞬だが、図の全範囲が確実に光った。そうして、目を閉じる。十秒程で目をあけ、近くの紙に絵を描いて、図を再現してみる。


 それっぽい手の絵になった。書いている間はスムーズで、自信はあったけれども、こんな手の形、自分の関節が許すと思えない。

 不安になり、もう一度、図を手で触れ、答え合わせをする。

 合ってた。

 完全に一致。少し、興奮した。


 注釈を見てみたが、これは、どうやら風魔法らしい。それも、比較的簡単な。


手を、絵の通りの形に組んでみる。


 と――空気が動く。どきりとする。


 エアコンも、扇風機も、置いていない筈の、この部屋。

 その部屋の中の空気が、動いたのだ。


 そよ風が、私を包む。

 右にある髪は前へ、左にある髪は後ろへ。

 風が、私を中心に、ゆっくりと、回っている。


 頰を、優しく撫でていく。


 指を解くと、風は止んだ。


 もう一度組む。心なしか、手の辺りがぼんやりと光った、気がした。

 また、風が起こった。


 そう、私は、この瞬間(とき)、生まれて初めて、「風魔法」を、使ったのである。

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