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魔法が使えるだけの普通の女の子  作者: まるぱんだ
8.新年一発目の戦い
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53.新年

「あけおめ!」

「ことよろっ!!」

 玄関先で、ルルーと挨拶。ドアを開ければ冷気が入る。だが、暖房やコタツでぼうっとしていた今の私には丁度いい。

「あ、ルルー振袖なんだ」

「へへ、これから初詣なんだよね〜」

 手にはノート。うん? 『センター日本史B・復習』って書いてある。

「毎年、魔法が上手くなるようにってお願いしてるけど……もうちょっと寝るうちに受験が待ってるからね……そっちのお願いもしなきゃ……あぁ〜怖い怖い」

「で、そのノート……まさか、行き道で勉強する、とか?!」

「まあね。ホウキ乗っても神社まで結構かかるって言われたし、ちらっと見るくらい出来るかなって」

「転移魔法は?」

 結構遠い魔女集会会場まででも一瞬だったはず。

「あれって割と魔力と体力使うし、そしたらお願い事の時戦えないし」

「……そうなのか……え、待って、どういう事?」

 願い事で……戦い?!

「あれ、言ってなかったっけ? 黒魔法って、こういう時はいい使い方出来るんだよね……白でも出来るけど、攻撃系に特化してるからやりやすいというか」

「……いや、意味がわからない」

「一緒に来たらわかるよー! あっ! ななみのも叶えてもらおうよ!」

 特に願いがあるわけでもないが、気になるのでついて行く。


 車でも数十分かかる神社だが、飛べばすぐだった。すぐ、といっても、ルルーはその時間さえ惜しいようだったが。

 やはりそこは、同じく初詣の客で賑わっている。ガヤガヤとうるさい。体同士がかなり接近しており、身動きが取れない。そこで、ルルーは自身と私にササっと魔法をかけたようだ。なんだか、周りの大人が大きくなって見えた……違う、自分が小さくなったんだ。

「走るよ!」

 突然、ルルーが人混みをかき分けて走り出す。見失いそうで焦ったが、走ってみれば自分の動きが速くなっているのに気づいた。この魔法で、二人はすばしっこくなったのだ。

 ふと、静かになった。人波から抜けたという事だ。

 たどり着いた場所を見回す。

「えっ……ここって……」

 立ち入り禁止じゃないの、と言おうとしたら、聞くより先に答えられた。

「一般人立ち入り禁止だけど、一般人じゃないんだよ、私たち」

「……は?!」

 森だったのだ。

 おそらく、神域とか言われている場所だろう。

 ルルーの言葉がわからない。一般人ではないって、どういう事だ?

 ルルーを見る。懐から、札のようなものを取り出した。

 何やら呪文を唱える。札を見つめるルルーの瞳が、緑色を帯びる。

 いかにも、日本の呪術のようである。いや、加持祈祷? よくわからない。


 次の瞬間。


 森の、ある部分がパッと輝き、暖かな太陽のようになった。ついさっきまで、薄暗かったのに。

 《これは、これは。黒魔道士の名家、清川家の令嬢。今年も来たか》

「はい、勿論参りました。……そのような堅苦しいお出迎えは、もうおやめください」

 《これは堅苦しいのか、のう……そなたこそ、昔は砕けた口調で打ち解けていたように思うが……》

「だいたい、令嬢と言われるべき立場ではございません。あと、一応相手は神ですし」

 《一応というのはどういう意味ぞ? ……おや、そなたのとなりに居られるのは……?》

 その光から、確かに声がする。しかし実体はない。聞こえるというより、脳に響くような。そして、その見えざる声と、ルルーが話している。なんか、ツッコミが入った気がするが。……って、私の話になった気がする。反応が遅れてしまう。

「え、えぇぇっと、はじめまして……竜山……奈波で、ございます」

 恐れ入って、というか焦って、どもってしまった。相手が相手だから、こればかりは仕方あるまい。

 《礼儀正しい。昔のそなたとは違うな》

「……昔っから、一言多いんですから……」

 ルルーが、膨れっ面をした。相手は神とかそういう凄い存在なのだろうと思う。それなのに、ルルーはこんなにも親しげだ。昔、昔と言っているが、きっと、前から何かしら関わりがあるのかもしれない。……何故?

「……私の、親友でございます。竜山家の娘、と言えば、分かるでしょうか」

 《竜山……分からぬ。新流派か?》

「ええと……母の旧姓は、火峰です」

 《おお、火峰家と言えば、白魔術の名家ではないか!》

「……あれ?」

 ルルーが首を傾げた。

 確か、祖母が言っていた気がした。魔法使いは血筋、つまり家柄が大事だから、一人娘が嫁いだりする時は相手の了承のもと彼女の姓を名乗るのだそうだ。だから、母が魔法使いだったならば母も私も火峰の姓だった、というわけで。

 そのしきたりを知っているルルーは、不思議に思うのも当然だろう。

「あぁ……えっと、諸事情により、お母さんは魔法使いじゃないんだ」

 諸事情。

 ふと、また伯父を思い起こす。

 《すると……妹の方の血筋か?》

「はい……」

 《……そうか……火峰家の再興、期待しておる》

 神は、その事情も知っているようだった。


「……でさ、ルルー?! 神様とどういう関係なの?!」

「……小さい頃ね、初詣に来た神社の中で……私、アホだから、はしゃいで魔法ぶっ放しちゃったの」

 ルルーが話しはじめる。

「え、やばくない?」

「うん、あの時は血の気が引いたわ。よりにもよって、この森の木に当たったんだもん。ガラガラって言い出すし」

「それで?!」

「そしたらさ、その木がいきなり光って……丁度こんな感じに。で、この、なんかテレパシーみたいなのが聴こえてさ、やばいってなって高速謝罪連呼」

「……おぉ……」

「そしたら、逆に、《ほっほ、元気がいいの。その歳にして、強い魔法の力を備えなさっているとみえる》とか言われちゃって、調子乗っちゃって、タメ口でたくさん自慢しちゃって」

「……いや、なんで?」

「で、そこでやっと、相手が神だってわかって……というか知らされて……今度こそ怒られると思ったら、《毎年、ここに来て、森に現れる魔物の討伐を手伝ってもらいたい。代わりに、願いを叶えて差し上げよう》って言われてさ! え、弁償はいいの?! って言ったら、手伝ってくれたらそれもチャラだって……あー、割と面白い人だなって」

 《こら、『割と』とはなんじゃ》

 いや、神様……突っ込むのそこなのか。

「はい、すごーく面白いお方でございますーっ! ……で、今年……私、学業のお願いもしとうございますが」

 ルルー、からかった言い方からいきなり落ち着いた様子で、しかもウ音便を使ったので、つい笑ってしまう。

 《ほう、魔法の上達ではないのだな》

「いや、それも出来れば……あ、では、二倍倒す……倒しますので、二つ叶えてください」

 《仕方がないのう。まあ良いであろう。では、向こうに行っていただこう》

「はい! ……ななみも、行く?」

「えぇ……まあ、面白そうだし」

「倒したら、本当に願い叶えてくれるよ! 一応本物の神だし!」

「……一応とか言ったらまた怒られるんじゃ……」

「いいのいいの!」

 かくして、私もなぜか加わることになった。

 初めての「戦い」である。

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