51.空中
しばらく広場で練習する。祖母が作った光の結界が巡らされていて、誰にも見られない。何度も飛んでいるうち、体も温まっていた。どうやらいい運動になるらしい。
「もうだいぶ慣れたっぽいねー!」
「そう、かな……?」
「スムーズじゃん!」
「そうよ、初めとはだいぶ違うわよ」
「やったあ!」
上達してるってわかるのは、嬉しいものだ。
「ね、杖魔法とか魔法陣とかに進めるかな?」
「できるわよ〜、今日のうちに全部マスターしちゃいましょう」
「うん、それがいいと思う!」
まずは、片手でホウキを持って飛ぶ練習をした。バランスの取り方がさっきと違う。でも、自転車の片手運転もしたことがあるのだ、出来るはず。そう思ったが、それは交通ルール違反な上、小学生以来だ。それでも、一度要領をつかんでしまえば早かった。
次に、離している方の右手を丸く動かしながら。これもクリア。
いよいよ、右手を杖に持ち替えて、飛び立つ。魔法陣を描き始め……たはずだった。しかし、魔法陣の構築で必要なはずの光の筋は、ホウキが前進するに従って伸びてしまう。
「あっ、あれれ?」
「あー、そうだわ、描いてる時はホバリングしないと」
「嘘でしょ?!」
祖母すら難しいって言ってたのに!
「十秒くらい止まってたら描けるでしょ」
「うーん、まじか……」
というわけで、「片手運転で」「右手は回しながら」「ホバリング」という難しさマックスに見える技を練習することになった。
どれほど時間が経っただろう。太陽の位置が変わったあたり多分結構な時間が経ったが、私にとってはすぐだった。それだけほぼ無我夢中で練習していたのだ。もう極めたと言っていいかも、と調子に乗る程度には、安定した。祖母よりも長い時間、空中に留まっていられるようになったのだから、自信を持っていいだろう。
そこでようやく、再び右手に杖を持つ。
光の玉を繰り出す魔法陣を描く。いつもよりずっとスムーズに、ずっと早く。でないとまたバランスを崩してしまう。
目の前の模様に手を触れるあたりで、ちょっとぐらついた。
旋回したら、まだ元の場所に魔法陣がある。良かった。
もう一度体勢を整えて、そっと左手を触れる。
ぐるぐると回り始め、もはや壁に見える。ああ、いつもの光景。
壁は光る玉に変わり、放たれる。
少し変な方向に飛んで行ったが、まあ初めてにしては上出来だろう。
ふうっ、と息をついて、着地した。
「……っ……っしゃあ!」
「すごいわ! やっぱり若いから覚えが良いわねえ!」
「えー、ななみさ、昨日ホウキもらって今日これって凄すぎない?!」
「へへ……ありがと」
ルルーは、パッと慣れた感じで飛び立ち、右手に杖を持つ。サラサラ、と軽やかに魔法陣を描き……しかし、首を振って取り消した。少し暗い顔をする。
「うーん……魔法でななみに、何かお祝い的なものしたかったのに……そういうの出来ないの悲しーなぁ」
ルルーの魔法は黒魔法。人を傷つけ惑わして……でも、それによく助けられた。
「そう……しようとしてくれてる時点で、嬉しいよ!」
「いやっ! 私の気が済まないの!」
そう言って、再び離陸。
そして……くるりと回って、それから急上昇する。長くて綺麗な、少しくせ毛の彼女の髪がなびく。
上空で、ジェットコースターのように大きな円をえがく。それから、色んなパフォーマンス。アクロバティックな空中の舞。
そこに、祖母が加勢した。
祖母が、演出にぴったりな魔法をたくさん繰り出したのだ。
ルルーの動きは、あの時の、祖母が魔法陣を描く手つきと似ていた。緩急と、キレがあって、まだ魔法が作動していないうちから見る人を魅了する、あの動きに。まるで、巨大な魔法陣を描くみたいに。その魔法陣から、きらびやかな魔法が生まれ出るみたいに。
ただ、息を呑んで、この動きに見とれているばかりだった。




