50.加勢
「出来たじゃない!」
祖母が手を叩いてくれた。素直に嬉しい。
「ありがと!」
「一つできたら後はあっという間よ〜」
「そう……かな? まあ、コツ掴むまで練習しようかな」
そう言って、もう一回飛び立って旋回、した時だった。
ひゅうっ、と私の前を黒いものが横切る。
えっ、何?
あれ、でも、覚えがある。
それは、明るく声を出した。
「へへへ、来ちゃった」
「えっ……あっ、ルルーかぁ!」
「あら、瑠璃亜さんじゃない!」
「あ、こんにちはー」
「来ちゃった、って?」
「ああ、うん。数学してる時窓見たら、なんか飛んでるじゃん? あ、あれ絶対ななみだー、いいなー、って思って、今日予定してたページは秒で終わらせて、窓から出てきた」
「……年末でも数学かぁ……」
「まーね。てか、もうすぐだし」
「……もうすぐだけど来てくれたのか」
我が校では数少ない受験生。センターは年明けらしい。忙しいだろうに。
「……ありがと」
「いーのいーの、むしろ私来てよかった? 勝手に気分転換させてもらうね〜」
「うん、嬉しい!」
「よかったー、てか予定より多くやっちゃうと次の日に手抜いちゃうしね、どのみちやる事ないからここで魔法の練習してただろうけど」
「……すごいなぁ」
それに……ルルーでも、練習するんだ。もう完璧だから、練習しなくてもいいからしないって思った。……いや、それは単なる私の怠惰だ。魔法が好きな人は、上手い人は、もっと上を目指すんだ。
「……で、いまなに中?」
「えーっと、空飛びながらの詠唱……みたいな」
「ほー、あれか」
そう言うと、ルルーは自分のホウキにまたがって、軽やかに飛び立つ。
旋回せずにそのまま木に突進しながら、スラスラと何かを唱えている。
そして、言い終わると同時に、くるっと、急な角度で、斜め後ろに引き返し、さらに上へ向かう。
そして、木から十数メートル離れた頃、木が――爆発した。
火が出るわけでもない。雷が落ちたようにも見えない。
いきなり、太い枝が一本、中から炸裂したように、パンッと音を立てて、バラバラと砕けたのである。
「ありゃりゃ、思ったよりきつかったかな……」
「えっ……なにこれ、すっごい……」
「うーん、木があったから試しにやってみたけど……ここまで派手に爆発したら、悪いことしてる気分だねぇ……木だって一応生物なのに」
そういうものなのか、と思って首を傾げた。
首を傾げるということは、自分の視界のアングルが変わるということ。
「あれっ?!」
そこで、何かに気づく。
さっきの爆発音によって、人が寄ってきた。何事か、と言わんばかり。やがて、その数は増していった。
「……え、やばくない? に、逃げよ?!」
私がそう囁くのが早いか、二人は既に動き出していた。
ルルーが何か唱える。すると、光の玉とともに、人々が見えなくなる。
祖母が杖を振る。すると、私たちのいる場所が光に包まれる。
「……二人、何したの?!」
「えーと、私は、他の人たちの記憶をちょっと変えて、その人たちを家に転移させた」
「……なんかサラッと凄いこと言ってる」
「それで、私は光の壁の強い版みたいなのを作って、周りに見えなくしたの。カモフラージュ、ね」
「おー。なるほど」
二人の魔法は、光の白魔法と、人の心を操る黒魔法、というのを如実に反映しているように見えた。
「まったく、瑠璃亜さん……人騒がせな事をしちゃダメよ」
「はい……こうなるとは思ってませんでした」
と言いながら、舌を出すルルー。
笑いの中、また私の練習は再開された。




