42.集合
やがて、光が収まり、うっすらと目を開ける。
どこかは分からない。知らない場所。
しかし、魔道書の言語……と思しき文字で書かれた看板が見えた。
間違いない。今、私たちは、会場の前に立っているのだ。
「あー、よかった。成功したみたいだねー」
ルルーが、安心したみたいに言った。
「これ、上級魔法の中で多分いっちばん難しいんだよねえ……」
「まあ、うん、想像つくわ」
「基本の魔法陣はそんなに難しくないんだけど……転移先を設定するの、至難の技って言っていいと思う! まあ、どのみち成功したし良かった! ここであってるよね?」
「いや、うーん、初めて来る場所だし……」
と言いかけて、よくよく建物を見る。
ツタがまかれた、石造りの建物。誰かの家にしては、大きい。城にしては、小さい。ぼろぼろだけど、なんだかカッコいい。荘厳、いかめしい、その辺りの形容詞がよく似合う。
私は、こんな建物を知っている。形は違うから違う建物なのは明白だけれど、でも、忘れられるわけのない、始まりの場所、記憶の中のあの図書館と、よく似ているのだ。
あたりを見回せば、いくらか人がいた。
いきなり空中に光の玉が現れて、そこから人が出てきたりした。黒い玉や火の玉も然り。
もしかしたら、私たちがここにきた時も、周りにはそう見えていたかもしれない。
別世界。ロールプレイングゲームの中に居るみたい。
尤も、近場の人は歩いてきたようだが。
「ななみー!」
ルルーの声。大人の女性を連れている。
顔立ちがどこか彼女に似ている。ああ、きっとお母さんなのだろう。
「はじめまして。うちの瑠璃亜がお世話になっております」
「こっ……こちらこそっ、いつもお世話になっていますっ」
はい、コミュ障発揮。
でも、ルルーの親だ。親しみやすい感じがした。
「これには毎年参加しているの?」
「あっ……いえ、そもそも魔力が発現したのが今年でして……」
「そうなんだ。なんだか非日常な感じがして驚いたかもしれないけど、例年通りなら面白いと思うから、楽しんでね」
「はい!」
相手は、ふわりと微笑んだ。
会場前に、ちらほら人が集まってきていた。
魔法使いっぽいコスプレをしている人も、中にはいる。でも、ほとんどの人は、普通の服を着ていて、一見すると、何か講演会とか、一般向けのイベントのようだ。
火の玉が現れて、ダンボールが落ちてきた。
まもなく、そのすぐ隣に光の玉が生まれ、女の人が出てくる。
ルルーが指をさして、「あれ、多分景品だよ」とささやく。
しかし、私はその女性に釘付けになる。
「えっ、おばあちゃんじゃん!」
「まじで?! いつも居る人だよー!」
まさか、ルルーが祖母を知っているとは。
「開会式とミニゲームでいつも司会してる人。そっか、ななみの血筋は凄いんだったね!」
「……」
あっけにとられるしかない。
「そろそろ受付始まるよー! 行こ!」
ルルーが私を引っ張って行く。
「……あ、うん、待って!」
反応が遅れた。まあ、祖母とは後で話そう。
さあ、魔女集会の幕開けだ。




