41.出発
魔女集会、当日。
冬休みの課題も終わり、推薦書類も提出した。
心置き無く行ける状態にしたかったのだ。
『迎えに行くから家の前で待ってて!』
短めの、ルルーからのメール。ちゃんと確認する。
その時間になったことを確かめ、ドアの前に立つ。
頭上を小さな影が横切った気がして、上を見る。何だろう?
突如。
その物体が急降下し、私のすぐ脇を過ぎた。
「うわっ!」
「へへへ、ごめんね、びっくりした?」
ルルーだった。
「びっくりしたも何も……えっ、えええ?」
頭が追いつかない。
ルルーは、黒めのワンピースに身を包み、いかにも「魔女」って感じだ。
「久々の魔女集会だし、ちょっとそれっぽくしてみたー」
「そ、そうか……」
いや、それ以上に分からないこと。
「えっ、空から降って来たのって……ルルー? え、なんで?! どういうこと!?」
「ああ、これねー」
笑いながら、左手に掴んでいるものを差し出す。
一見、ただのペンに見える。しかし、ペン先の光り方が、独特だけど馴染みがある。
「ええと……杖?」
「うん! しかも多機能っていうね!」
得意げなルルー。強盗の一件以来の顔。
指で、ペンの軸の文様をなぞる。
何度かなぞると、黒く光り始める。
もはや輪郭がぼやけて見えるほどの光を放つ。
そして、閃光を宿す。
その光に、目を覆い、次に目を開けた時、それはペンではなかった。
ホウキだったのだ。
「これで飛べるんだよー!」
軽やかにまたがって、クルリ、と私の周りを器用に飛んで見せた。
「……魔女のホウキって、本当にあったのか……」
「うん! あ、これは黒魔術師限定って聞いたけどねー……白魔術師用のもあるよ! 確か」
黒いのはそれゆえだろうか。ホウキはホウキだが、なんだかロックバンドの様な格好良さがある。
「へえ、まじかあ……」
「これ、小一くらいかな? 魔女集会の参加賞でもらったのー。あれ、景品だっけ? どうだっけ……まあいいや。結構いいでしょ!」
「えっ、もらえるんだ!」
「そうそう!」
これでますます楽しみになるとか、自分は現金なやつだ。まあ、細かいことは気にしない。
「え、でさ、転移魔法だっけ?」
「うん。あれ、見たことない?」
「うん、聞いたのも初めて」
「おおー、じゃあ、私のが『初・転移魔法』になるわけね!」
「そうだね!」
「じゃあ、行くよー……」
そう言って、ペンに戻った杖を掴み、空中に魔法陣を描いていく。すでに二度、図形ではなく文字からなる杖魔法を見た。しかし、ルルーの繰り出すそれは初めてだった。
目の前にできた、銀色の壁。それにルルーが手を触れれば、くるくると回り始める。
「派手なのにする? それとも普通の?」
多分今は集中すべきタイミングだと思うのだが、御構い無しというふうに聞いてくるルルーは、やはりベテランなのであろう。
「んーと、派手なの!」
どうせなら、と思って答えた。
「オッケー」
すると、一つ、呪文の詠唱も始めた。
ちょうど魔法陣から発せられた光が私たちを包み始めた時。
周りを炎が包む。
え?
すぐ近くで火が見えるが、熱くない。息苦しくもない。
しかし、足元で輝く魔法陣から発せられる光が、火の光を凌駕し、もはや周りに何も見えない。
目を開けていられぬ光に囲まれ、まぶたを閉じるしかない。




