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魔法が使えるだけの普通の女の子  作者: まるぱんだ
6.ルルーの気持ち
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38.記念

 高三にもなれば、事あるごとに「高校生最後の」と言われる。

 文化祭の時だって、そうだった。

 それは、今日控えたイベントも然り。

 秋に毎年あるもの。

 私が、学校行事の中で最も嫌いとするもの。


 体育祭。


 毎年、醜態を晒したくなくて、いつにも増して「空気」になろうとしてしまう。

 しかし、普段の教室では成功しているはずのそれが、この時に限っていつも失敗する。

 何て都合悪く出来ているのだ、私の影の薄さは。


 今年は高三。体育会系のイベントに参加している時間はない。

 教室に隠れてテス勉でもしたいなぁ……


「あ、ななみ、おはよう〜!」

 教室で声を掛けられ、どきっとする。

 早速、計画遂行が危うくなった。

「お、おはようっ……」

「今日は体育祭だね、楽しみ!」

「そうなんだ……」

「ん、ななみは?」

「文化祭、式典、体育祭に遠足、数ある行事で体育祭がいっちばん嫌い!」

「あ、だからか」


 全員、更衣が終わり、運動場に向かう。

 やっぱりサボりは失敗。自分の出場競技は出た。

 しかし、午後は確か、自分の出番は無いはずだ。

 今は昼休憩。そっと隠し持っていた参考書を取り出し、木陰に座る。

 もう十一月。かなり涼しくなっている。

 木陰はなおさらだ。たまに、毛虫がやって来るが。


 それにしても何で苦手科目を持ってきたのだろう。

 たっぷり時間があるから賢明な判断だ、と思ったが、こうも、風が心地よいと、眠く……


「あ、居たいたー!」

 甲高い女の子の声がした。

 夢の世界から引き戻される。

 時計を見る。まだ、午後の部は始まっていない。

「ん、ルルー……」

「何してるのー?」

「……さあ、なんだろうねぇ……」

 恥ずかしい。

「競技、見ないの? 自分とこのチーム、次が決勝だよー!」

「へぇ、そうなんだ……」

 軽く流せば、相手は不満げな顔。

「ね、何で……」

「だってさ、来週小テストじゃん。運動苦手だし、どうせ足引っ張るし、てか引っ張ったし、テスト落ちたくないし。居残り嫌だし。」

「でも……高校生最後、でしょ? 先生も言ってたじゃん」

「だから、何? やっと解放されるんだよ!」

「ええっ……」

 相手は、顔をしかめて、困惑していた。しかし。

「じゃあさ、解放される記念にさ、次の私の、この奮闘を見納めてよ!」

「えっ、出るの?」

「うん!」

「え、決勝?」

「そうだよ」

「ルルーが?」

「もちろん!」

 こう言われておいて見ないのは、友達に失礼な気がする。

「……そういう事か……解放される記念、ねぇ……」

 ふふ、と笑ってしまった。ルルーはなかなか珍しい言い方をするな……

「わかった。見るから……頑張ってよね!」

「あったり前よ!」

 握手で別れた。


 競技が始まる。

 この学校独特のものだ。

 今年来たルルーが出来るのだろうか、というのは愚問だった。

 女子力、知力、魔力を備えた彼女は、運動神経も高かった。

 二位で迎えたルルーのターンでは、一気に一位のチームに迫っていく。

 そしてついに追い越し、駆け抜け、どんどん他のチームを引き離す。


 クラスのみんなが注目する。

 私も、息を呑む。


 気づけば、周りの熱気に呑まれていた。

 ルルーの出番が終わった後も、みんなに溶け込んで、大声で自分のチームを応援していた。


「お疲れ様! すごかったよ!」

「ありがとうー!」

 まずはルルーの健闘を讃える。

 他の子にも言おうとしたけど、自分が一切活躍しなかったのと、普段ほとんど喋っていなかったのとで辞めた。


「ね、ね、写真撮ろうよ!」

 ルルーが、スマホを取り出す。

「え、大丈夫なの?」

「一瞬だからバレないバレない!」

 いたずらっ子のように笑い、インカメラを私に向ける。


 さっき体を動かして、頰をほんのり赤く染めたルルーの顔に、日に焼けてすらいない私の顔は組み合わせとしてどうかと思うけれど、おかまいなしに、ハチマキ姿の二人が写された。


「じゃ、また送るね!」

「うん、ありがとう!」

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