37.羨望
テストが終わって、返されて。
そろそろ、インターンシップなんかも始まる時期。
ようやく、世間でいう「受験生」みたいな緊張感が、うっすらと、このクラスでも漂い始める。
初めての雰囲気である。
私も、気を抜けない。
返された答案を見直し、「テスト復習」と表紙に書いたノートに、間違えた問題を解き直していく。
多分、これを三年間続けた人は、このクラスには少ないだろう。
少なくとも、他の子が話しているのを聞いた感じはそうである。
だが。
その割に、点が伸びない。
ルルーは……ルルーはどうして、いきなり受けたテストだったのに、あんな高得点だったのか。
いや、言うまでもなく、それが彼女の身についていた実力だったのだ。
だけど。
魔法もプロ。容姿もいい。女子力も高くて、勉強もできて、気さくだからみんなに好かれて。
私は……最近は前よりだいぶマシとはいえ、コミュ障だし、勉強も、この学校のテストの点は上の方だが、実際に内容をわかっているかと問われれば、自信が全く無い。
なぜ、天はルルーに二物を与えたのだろうか。
そう考えては、ルルーを見やる。
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みんな、楽しそうだなぁ。
最近は、みんなの口から流行モノが出なくなったとはいえ、みんな気楽に見える。
何で、私は、魔法使いに生まれたの?
小さい頃、魔法しかやってなくって、他の子のゲームとかの話がわからなかった記憶がある。
それは、別に良かった。あの頃は、魔法を見せびらかしたって変な目で見られなかったし、それどころか凄いって言われたし、幼いながら、私には魔法があるんだって思えた。
だけど、その魔法のせいで、唯一魔法の話が通じる友達を失った。
何で、私は、普通の子として生まれなかったの?
黒魔法をほぼ全て学んだ今でさえ、たまに思う。
せめて。せめて、これ以上、大切な人を傷つけることなく、過ごせたら。
だけど……「普通の」子は、どうしたって、この気持ちはわからないだろうなぁ。
でも、じゃあ、白魔術師はわかってくれるかな? ふっと思った。
この気持ちを、果たして、わかってくれるのかな。
そもそも、何で、魔法なんてものがあるんだろう。
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何で、るりあは、竜山さんとこんなに仲が良いのだろう。
竜山さんは、大人しいというより、私たちと関わりを絶っているみたいに見えていた。
そんな子とも仲良くなれるくらい、るりあは優しくて、友達想いなのだ、と思っていた。
けど、いつも竜山さんと一緒に居る気がする。
こんな大人しい子に先を越されるとは思ってなかった。
この時期にそんな事を考えたって何にもならない。それはわかっているけれど。
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「ルルーは良いなあ……みんなに好かれてさ。私だって……ねえー、そのコミュ力分けてよ」
「ええ……そんな事言われても……」
つい、机に伸びて、でまかせを言って、困惑させてしまった。
「あ、えと、適当に言っちゃった、ごめん」
ルルーは、しかし、少し考え込む素振りをしてから言う。
「……ねえ……ななみは、『みんなに好かれてる』事は、良い事だと思う?」
「……うーん……良い事、というか、羨ましい。私がそういうのを経験してないし、何とも言えないや」
「表面上の付き合いだけで仲良くなった百人の友達に囲まれるのと、たった一人、理解してくれる友達が居るのと、どっちがいい?」
「えっ……」
答えに詰まる。
質問の意図は何?
「どっちがいい……で聞かれたら、後者。前者はめんどくさそう。だけど、前者は未知の世界だから。二回も経験したくないけど、一回は経験したい」
「……あー、なるほどね」
「何でそんな事聞いたの?」
「ああ、その……さっきの言葉で、ふっと思った」
「……」
自分の答えを思い返して、考える。
私は一体、ルルーをどういう目で見てたんだろう。
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「ね、ななみ?」
「何?」
「何で、魔法なんてもの、あるんだろうね」
ずっと思っていた事を、聞いてみる。
「……急に、どうした? てか、今日はなんかいつもと違うね」
案の定、困惑された。既にさっき、変な事聞いちゃったからな。
「ん〜……それは、私が数ヶ月前に初めて魔法を学んだ時にも思ったけど……」
「……そうなんだ!」
「けどね……魔法って、実はみんな持ってるんじゃないかな」
「……どういう事?」
自分の頭の上に、ハテナマークが浮かんでいるのがわかる。
「たまたま、私達のそれが、文字通りの魔力だっただけで……本当は、みんなが、他の誰も出来なくて、他の誰もを魅了するものを持っている……」
「……」
「……的なね! まあ、オープンキャンパスの時思ってさ、実際自分の魔法が他の人を惹きつけられるかって、そんな自信ない、てか、むしろ出来ない自信があるけど!」
照れ隠しのような笑い顔を、つい見直してしまった。
「それにさ、みんな、自分の趣味とかで他の仲間と繋がったりするじゃん。それと一緒だと思うよ。ルルーが言ってたみたいに、『魔法使い同士の縁』もあるかもね」
「おー、なるほどね!」
魔法使いでよかった。そう、改めて思えた。
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なんで、あのルルーが、こんな質問をしたのだろう。でも、これを機に改めて考える。
私が魔法使いじゃなくて、ルルーも魔法使いじゃなかったら。
ルルーの事、何にも知らないで、ただの陽キャという存在だっただろう。
いや……そうでなくっても、現にルルーの事を全ては知らないけれど。
でも、『表面上の付き合い』すら皆無の、別世界の人だったと思う。
言葉を紡ぎながら、改めてそう思った。
魔法使いでよかった。




