36.進路
あれから、さらに魔法陣を描きまくった。
中級だけであるが、魔法陣に限れば、コツを掴み、自分の意図する魔法を作り出せるようになった。
ちょうど、英文法が分かる事で、自分の自由な思いを、多くの人に伝えられるようになるみたいに。
……実際、英語について、その境地には達していないが。
その次の日、寝ぼけ眼で登校。
「えー、このあいだの宿題考査を、返却します」
「このあいだっていつ?」
「夏休み入る前にあったでしょう!」
先生のツッコミ。
一人ずつ、成績通知表が返される。
英語と国語、社会は、相変わらず。平均は超えているが。
でも、理数が少し上がっていた。嬉しい。
「今日、定期考査の発表がありますね。この考査結果を糧にして、弱点を克服してもらいたいものです」
自分たちは高三。世間の同級生は受験生。
こんなゆるくていいものか。
とも思うが、この学校は進学校ではない。その逆、と言っても差し支えないように思う。
私のように、専門学校を志望する者さえ、珍しいのだ。
だから無理もないかも知れない。
ふと、隣を見やる。
「るりあ、テストどうだった?」
「え、てか、この夏転校してきて即受けなきゃだったの?!」
「あー、うん、転入前の面談……的な何かで、早速宿題貰ったしね」
「ええっ、大変じゃん!」
「いやでも、前にいたとこよりだいぶ少なくって、ホッとした」
「まじでか、あれが!?」
「うん、あれが」
案の定、女子に囲まれている。
ひとしきり騒いで、人波が去ってから。
「ななみー、どうだったー?」
「お、おう、急に来た! ……文系はあれだけど、理系は思ったより良かったかな」
「え、待って、すごい! 数学高くない?」
「そうかな?」
「あ、でも、倫理は勝った!」
「……ちょっと待った。いつの間に、ルルーの手に私の通知表があるの?!」
「えへへ、バレた」
笑いながら、私にその紙を返す。
「そう言うルルーはどうなのよ?」
と言って、ニヤリとしながら、彼女の成績表を取り上げるフリをする。
「ちょっ! 返してよ〜!」
「わかったわかった……ごめん、一瞬合計点見えちゃったんだけど、凄すぎない?」
私が達したことのない領域だった。いや、点数別の度数分布表も同封されているが、ほぼトップの層である事は確かだ。
「そっ、そんな事ないよ〜!」
ブンブンと手を振る。
「……ねえ。どうして、この学校に来たの? 絶対、上の高校の方がルルーにあってるでしょ」
誤解を生む言い方になっていないか、念入りに確かめながら。
「転入のための試験でやらかしたとか、入学金がバカ高かったとか、色々あったけど、魔法使い同士の縁もあるだろうねえ……」
「……そうかもね!」
なんだか嬉しい、そう言ってもらえて。
「ななみはさ、理系に進むの?」
「いや、音楽系の専門学校、行こうと思ってる」
「わっ、なんかカッコいい!」
「そんな事ないよ……あぁ、でも、作曲にコンピュータ使うし、理系寄りなとこあるかも」
「作曲……!」
「ルルーは?」
「私? えっとね、地方の言い伝えとか、伝説とか、文化とか、歴史とか心とか……」
「幅広いな。というか、じゃあ、受験するの? すごいなぁ」
「まだ、ちゃんと決まったわけじゃ無いけどね。でも、魔法が、いつ、どこで、どうやって生まれたか、その手がかりもつかめるかも知れないから。魔法そのものの勉強もしつつ、ね」
「そっか……」
そうだ。ルルーは、魔法のプロなのだ。将来も、魔法に関わりながら生きていくのかも知れないな。
でも、私は?
いや、自分の人生だから、自分のやりたいことをするんだ。
「お互い、頑張ろう!」
「うん。そだね!」




