33.教室
次の朝。
またまた、なんて事ない日常。
というのは、寝ぼけた頭で考え出した結論で。
教室に入ったら、いつになく盛り上がっている。
女子も男子も、みんなが、数人のグループになって、なにかを頻りに喋っている。
映画かドラマの話かな? 私には関係ないや。
などと考えるなんて、よほどボケていたらしい。
そもそも、なぜ今日は眠いのか。
それは、昨日寝るのが遅かったから。
ではなぜ遅かったのか。
それは、新しい魔法の呪文を……あっ!
そこまで考えて、聞き耳を立て始めた。
「おはよう〜」
「おはよ!」
「昨日の強盗がどうなったか、個人的にすごく気になるんだけど!」
「そう! その話を今してたの!」
「えっ、でさ、でさ、何かあったの?」
「それがねー、あ、りっちゃんが言ってよ」
「今日ね、朝早めに学校来たんだけどね」
「うんうん」
「それで、校舎に入ろうとしたらね、扉のとこに、何かあるの!」
「それでそれで?」
「で、見たら、人が倒れてたのよ、三人くらい!」
「ひえっ、こわっ!」
「それでね、すぐ先生に言おうとして、ふっと思って、あの、いけないのはわかってるんだけどさ」
「うん」
「その人が持ってたカバンの中、そぉ〜っと、覗いてみたの」
「ダメじゃん」
「そしたら、なにがあったと思う? いっぱい、諭吉の束よ! 万札がどーっさり!」
「ええっ!」
「ええっ、でしょ! 多分あれ、犯人だよね!」
「りっちゃんさ、それ、くすねたりしてないよね?」
「するわけないじゃん〜!」
「つまんね〜」
「え、その人たち、生きてた?」
「わかんないなぁ〜っ、あ、でも、地味に動いてた気はする」
おしゃべりの陽キャがそれを目撃したせいで、ここまで盛り上がってしまったというわけか。
私はその瞬間を見たわけだが、それをここで言うと面倒な事になるだろう。
何となく、自分だけがそれを知っているというのが、優越感ではないけどそんな感じの気分。
ほどなく、ルルーが教室に入る。
「おぉ、るりあー! おはよ!」
「おはよう……」あ、彼女も眠そうだ。
「ねえねえ、聞いてー!」
「ん、何?」
そして、また、ルルーに同じように喋っていた。
「なーんか怖いよね!」
「う、ん、そだねー!」
あはは、と笑うルルー。
「一体何が起こったんだろー」
「先生に報告したら、先生も知らないみたいだったよ!」
「あ、そうなんだ!」
ちょっと、安心した感じで笑う。
いや、よくこんなにポーカーフェイスを保てるな。凄い。
「はい、おはようございます。席についてー」
教卓に先生がやってくる。
ショートホームルームで、案の定、例の強盗の話。
「えー、このような事があって、犯人は、無事確保されました。何か、えー、この件について知っている人があれば、情報くださいとの事です。それで、えー、もし、この中に、犯人を、なんだろう、無力化、した人がいたら、伝えてください。警察が、お礼を言いたいとの事です」
教室がざわついた。
私は、ニヤリとしてルルーを見た。
相手は一つ、ピースサインを出したが、慌ててメモ用紙に何か書く。
『昨日のこと、絶対誰にも言わないでね』
それに対して、下手なりに丁寧な字で返事する。
『うん、分かってるよ』
素早く笑みを交わし、授業の準備を始めた。




