30.実力
相手は、銀色に光るものを私たちにかざした。
それが、研ぎ澄まされたものであることに気付いた時には、かなり距離を詰められていた。
「黙って、ついてこい。大声を立てたりしたら……」
荒々しく、しかし声を潜めてそう告げられる。
彼の仲間が、私たち二人の腕を掴む。
突然のことに、頭が真っ白だ。
頭は働かなかったが、口はひとりでに呪文の詠唱を始めていた。
だんだん力がこもって来た……その時。
「う、うわあ!」
ルルーを捉えていた男が、悲鳴を上げた。
意識がそちらに移り、口が止まる。
彼の腕に、一本の赤い筋があった。
彼が持っていたはずのナイフが、赤い色をして、地面に転がっている。
その男は、何が起こったかわからないといった様子だった。
「どうした!」
「小娘! 兄貴に何をした?!」
ハッとして、ルルーを見る。
彼女は……無傷。
口元は、少し得意げだ。
え?
「指一本、触れていませんが?」
「おい、ただじゃおかねえ……か……ら……」
もう一人の男は、脅し文句の途中で、ろれつが回らなくなって、
呆けたように、そのまま動きを止める。
何が起こっているのだろう。
最後の一人が、ルルーに詰め寄った時に、私は、一つの発見をする。
彼女は、真っ直ぐに男を睨みつけるのだが、その時、目がかすかに緑色になる。
金の目は、エメラルドの目になり、やがてそれは深みを増す。
最後、閃光が宿る時。
男の体は、糸が切れた操り人形のごとく、くずおれた。
「あらあら、皆さんどうしたのでしょう? 私は何もしてないですがね」
そう、得意げに言い放ってから、急に、鋭い目になって私に駆け寄る。
「帰ろ。誰かが来ないうちに」
いつもの金の目で、光の宿る目で、いつもと違う鋭い口調で。
気圧されて、私は、曖昧な頷きしか返せない。
==========
「もうすっかり暗いねえー」
帰り道、ルルーは急に明るい調子になって言った。
結局、学校の周辺を回っていたら、七時になっていた。
ルルーは目新しそうにはしゃいでいたが、
私は、上の空になるばかり。
「ねえ、ルルー……さっきのって、魔法?」
「正解っ!」
「それと、なんか、キャラ違った気がするんだけど……」
「そうかな?……まあそうか、魔法使って『戦う』とき、ちょっと上から目線になるかも。」
「ええ……」どういうことだろう。
「ちょうどよかった。ななみ、魔法見たいって言ってたよね?」
「う、うん」
「あれは、だいぶ簡単なやつ。中級から上級ぐらい?」
「次元が違うわ。てか、『機会がない』って言ってたのって……?」
教室で交わしたメモの文字を、思い起こす。
「ああ、そういや、言ってたね……」
急に、彼女の顔に陰がさした、ように見えた。
「言わなきゃ、ダメ?」
「あぁ、別にいいよ。興味本位だから」
「じゃあ言わない……あれ、でも、待って。ななみも、魔法使いだよね?」
「そうだけど。」
「ねえ、どんな魔法使ってる?」
「どんなって……まだ初級とか中級しかやってないし。普通の……って言ったら語弊あるか。」
「そっか。光の玉とか、そういうの?」
「うん、そうだね。」
「了解。……じゃあ、言わなきゃ」
そして、目を閉じ、ふうっと息を吐き、金の瞳を再び開く。




