26.肉親
「どこで、会ったの?」母が、私に聞いてくる。その声は、少し上ずっていた。
「あー、えっと……」
今日あったことを、ひとつひとつ、思い出し思い出し、話していく。
でも、思い出せば思い出すほど、ますます不思議だ。
全然知らない場所のはずなのに、なぜまた同じ図書館にたどり着けたのか。
なぜ、あそこに伯父が居たのか。なぜ、魔道書があったのか。
なぜ、なぜ……
一通り語り終わった時、ふと気づく。
「あっ! そうだ、初級の魔道書!これ、返さなきゃ駄目なのに」
「いいのよ。これ、元々は私たちのものだから」
「え……?」
「おばあちゃんが、こないだ言ってたの。この本には、この家系の、家紋が刻まれていたって。私にはよくわからないけど、この家に代々伝わる本だったはずなの」
「そっか……伯父さんって事は……」
「本当は、あの人が、私たちに返すべきだわ」
「でも、これ、私たちのものであり、伯父さんのものでもあるんじゃ……?」
「勝手に持って行ったら、そりゃいけないわよ」
「持って行った? でも、燃やしたんじゃなかった?!」
この家の魔道書は、全部、伯父が燃やした筈だ。
何で、ここにあるのだろう。
「多分、燃やしたように見せかけて、特殊な魔法でも使ってたんじゃないかな?」
「ええー、じゃあ、それで……持って行っちゃったって事?」
「予想だけどね」
「ふーん……?」
わからない。
一体、何のため?
伯父は、何を意図していたの?
「うーん、分かんないや……まあ、そのうちわかるかな!」
「……そうね。」
話していたら、もう夕方。
明日から学校が始まる。
るりあちゃん……だっけ?新たな、魔法使いの友達ができるはずだ。
持ち物の用意を済ませる。
夕飯を食べる。
お風呂に入り、風と水の魔法で涼を得る。
宿題の確認テストのための復習をする。
何ら変わりない、日常。
でも、来週からは、変化があるはず。
楽しみだ。
金の瞳。気さくな雰囲気。
真っ赤な瞳。落ち着いた口調。
二人の魔法使いを、目の前に思い浮かべる。
伯父は、どんな人だったのだろう。
るりあちゃん……瑠璃亜は、どんな子だろう。
来週から、新学期。去年は嘆いていた、八月下旬の初め。
でも今年は、どんな、新しい「日常」が待ってるかな。
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顔も、はっきりとは思い出せない。
失踪したのは、私が物心つく前だったらしいから。
けど確かにいた。娘も、会ったらしい。
火峰……徹。
私の、たった一人の兄さん。
どんな人だったろう……興味はある。ひとりの妹として。
だけど……私たちから魔法を奪い、行方をくらました人だ。
消したかに見えた。しかし、本当は、独占していた。
そこまで考えてから、ハッとする。
私たちに、いや、せめて、娘に、害が及ばなければいいけれども……




