24.尋問
「誰も、この館を知らないと思っていたのだが。どうやって、ここに来たのかな?」
「え、えっと、気ままに、歩いていたら、いつのまにかここに来ていて……」
全ての始まりであった図書館で、誰もいないと思っていた螺旋の道で、なぜか真正面に居る男性に、コミュ障を発揮している。
目を見たら、何も言葉を出せない。
ふつうに他人と話す時もそうなのだが、この人は特別。
真っ赤に、猛る炎のような、そんな目だからである。
「いつのまにか、ここに来ていた。なるほど。それは、これが初めてかな?」
「え、えー、んと……」
「どうかな。前にあったかなかったか。イエスかノーだ」
「覚えて、いません」
「この質問で、その答えはおかしい。違うかな?」
「……」
口調は、声音は、優しい。でも、怖い。
「何か隠しているかな?」
「い、いえ……」
「まあよい。ところで、この館の本が一冊、ある時無くなった。君は何らかの事を知っているかもしれない。そう思ってね」
「は、はあ……」
初級編、の事かな?
「何か、知っているかな」
「ええと…知ら、ないです」
その言葉を聞いた相手は、ニヤリと笑った。
怪しげな、目の輝きを湛えて。
「本当かな?」と、言いながら。
相手は、突然、胸ポケットからペンを取り出す。
空中に、金の文字を書く。
しゃっ、しゃっ、すーっ、というオノマトペがよく合う、メリハリのある動きである。
金の文字列を、どんどん重ねていく。
私は、一切警戒していなかった。
上級魔法の、杖魔法である事はわかった。
でも、そのたぐいの魔法は、花のシャワーしか知らない。
金の壁が、そこに生まれていた。
そこに、彼は手を当てる。くるくる回り、模様と化す。
ああ、書き終わったんだ。
そう思ったのも束の間。
その刹那。
レース模様の真ん中から生まれ出て来たもの。
それは、彼の目のように、
赤く燃え盛る一匹の龍であった。
「ええっ……!」
その場に固まることしか出来ない。
魔法陣からその身を出し、図書館であることも知らないように、しばらくは塔の上の方を旋回した。
次の瞬間、その目が、宝石のような透き通った目が、私の目線とぶつかる。
いきなり急降下を始めた。
もちろん、対象は私である!
目の前を、昔の記憶が駆け巡る。
だが、頭が死を覚悟したと思っても、
体はそうでないようだ。
手が勝手に動き、水魔法の印を、手が勝手に組む。
はたして、火の龍は、水しぶきを浴びて上へ逃げた。
指魔法は、あまりに弱すぎる。だが時間稼ぎが出来た。
呪文の詠唱を始める。
言い終われば、龍に向かって、無数の水の矢が龍に襲いかかる。
とうとう、龍は消滅した。
どこか複雑な気持ちはあったが、彼に声を掛けられ、我に帰る。
「やっぱり。ここにある本で学んだのだろう?」
笑うように歪んだ口元が目に入った。
彼の瞳の炎は、いよいよ燃え盛るようだった。




