23.開拓
高くそびえ立つ、石造りの建物。ツタがまかれ、ラッカーで「撤去予定」と書いてある。荘厳な感じも、変わりはない。
しかし、あの時も、本当にここで出会ったのかな。
少し怖い気がした。魔道書があった時点で、普通の図書館でないことは明らかだ。
でも、そろそろ中級が欲しいと思っていたところだったので、ちょうどいい、中を見たい、というのがまさった。
あの時と同じ、螺旋の本棚。ぎっしり詰まった書物。
暗いからか、高すぎるからか、一番上は見えない。
時折、やはりネズミの姿。
一番近くにあった本に手をかけ、中を見る。
手を触れたら、光って文字となる。
ああ、これも魔道書なんだ。
これも、それも。結局、手当たり次第に見た本は、全部魔道書だった。
どうやら、初級の次は中級、次は上級でさらにその上は専門書といわれるらしい。
上級以上になれば、同じレベルの魔法でも、各分野の魔法に細分化されるようだ。
ちょうど、同じ一つの教科でも、学校が上がるにつれ多く分かれていくように。
見ていると興味深い。
『魔法科学校に携わる者へ』……これは、教育学かな?
『薬草魔法』……薬学っぽい。医学かもしれないが。
いや、医学なら、ヒーリング魔法の専門書もあった。
そういや、小さい頃読んだ学級文庫の中の魔女は、くしゃみの薬を作ってたっけ。
あれ? 魔女といえばホウキのイメージだが、ここにはあるのかな?
……まあいいか。もう少し見てみよう。
『古代魔法研究』は、考古学とか歴史学みたいな何かだろうか。
『魔法道具』、『鉱石製錬魔法探求』、『味覚の魔法』……
たくさん、面白そうな上級書、専門書の数々。
でも、今の私の身の丈にあったのは、中級。
上級書なんか、まだ早い。専門書は、もってのほか。
中級は、もっと基礎的で、初級で扱ったものも含めた魔法の根本原理を深く学び、より自由に自分の思うまま操れるようになるのを目標としている。呪文や魔法陣の文法などだ。そうして、幅広く応用が効くように。
そう、教育学みたいな上級書に書いてあった。
肝心の中級書はいずこ?
探していたらインク壺を見つけたので、魔法の墨と睨んでポケットに入れた。
さてさて、中級書はどこだろう。
おびただしい数の書物のうち、おそらく一冊だから、探すのも一苦労だ。
でも、多種多様な本に目を走らせていくのは、なんとなく心躍るものだ。
安心しきって、探し続けた。
だって、前にここに来た時、誰もいなかったから。
今日来た時も、人の気配はしなかった。
はずなのに。
目の前に、人影が見える。
それを認めた時、身体中がびくんとなる。
心臓が騒がしい。薄暗くて相手のことがよくわからなくて、余計に。
身体中が、鉛のようにかたくなる。
やがて、相手の方から口を開く。
「何を、探しているのかな?」
「え、えと……」
目が、ばったりと合う。
真っ赤な、燃えるような目だ。




