22.散策
夏休み終了まで、残り三日となった。
ちょうど昨日、提出物は全て片付いた。
おまけに今日は、いつもより早く目覚め、清々しい気分だ。
ふっと思いつき、朝から家を出た。
この近辺をぶらぶら歩こう、と思ったのだ。
日光が照りつけるけれど、日陰を探しつつ歩こう。
朝早いし、昼に比べれば暑くないだろう。
近所の自販機で冷たい炭酸ジュースを買った。
ぷしゅ、という音は、なんともいえないような気持ち良さがある。
爽やかなレモンの味と、しゅわっという舌ざわりは、どことなく、「夏」を実感させた。
道路を横切り、河原に出る。
川に沿って歩けば、時折、颯爽と風が吹く。
最近は、風魔法で涼をとることもできるようになったが、こういう、自然の風は、それとは一味違った気持ち良さがある。
頬を撫でる、冷たい風。
ふっと、鼻歌を歌いたくなる。
周りに、私以外の人は居ない。
今流行っている歌を、口ずさんだ。
口ずさむついでに、その流れで呪文を唱える。
氷魔法。
唱え終わったとき、私の手にあったジュースは、音を立て、凍りついた。
首筋に当てると、ひんやりする。
何も考えず、気まぐれで歩いていた。
「わっ、こんなところに、横道なんてあったんだ!」
「すごい! 森みたい……写真撮る!」
「なんか幻想的だな、もうちょっと行ってみよ」
一人でこんな事を呟きながら。
側からみれば、ヤバい奴である。
そして、この言葉から、容易に察しがつくだろう。
完全に、道に迷った。
それに気づいたのは、木々の隙間から見える太陽が、だいぶ高い事に気づいてからだった。
「そろそろ帰るか。……え、待って、ここ、どこ……?!」
普通、森を散策する人というのは、道に印をつけるものだ。
だが、それをしていなかった。なんて愚かだろう、と思っても、後の祭り。
早い事、引き返さなければ。
ここはまっすぐ行って、それで、……
あ、これ、さっき見た気がする! いや、同じのかな?
……確か、ここで曲がったっけ。あれ、曲がり角なんて、あった?
森というのは、どこを見ても同じなのだ。
やっと、開けたところに来た。
しかし、私の知った場所じゃない。
そこだけ、木がなくって、広場のような、芝生のような。
明るくて安心はしたが、一体、ここはどこだろう?
でも、今まで進んで居たのと逆方向に歩いているはず。
ということは、方向的には、自分の知ったエリアに近づいているはずなのだ。
もっと行ってみる。
またも森の中に入って、またちょっと不安になった。
なり始めたところで、目の前に、木ではない何かが、ちらりと見えた。
石で出来ているもの。
それを、よく目を凝らし、見てみる。
木々の向こう、さっきみたいな広場にあるっぽい。
駆け抜けて、近づいて見た。
「あっ!!」
思わず、声が出てしまう。
見覚えがあるどころじゃない。
私の魔法の、全ての始まり。
例の図書館と思しき建物が、姿を現したのだから!




