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1.現実

「昔むかし……」

「ええ~、またその話?! もう飽きたってば!!」

 私、竜山奈波たつやま ななみは、生まれてから18年間、一年365日、毎晩母親にこの話を読み聞かされて育った。

 大体1000ページくらいある、分厚い本に、絵と文字とがびっしり詰まっている。それを、1日1ページずつ、寝る前に読むのだ。1000ページくらいあるのだから、読み終わるのにかかるのはおおよそ3年。長いと思うかもしれないが、18年も生きていれば、早いものだ。3年が過ぎ、読み終わったらどうするかというと、また頭から、なのである。今日は、もう何回目だか忘れたが、第1ページ目だ。

「いい加減、子供じゃないんだからさあ、そんな絵本読み聞かされなくても寝付けるって!!」

 しかも、内容は何かって、魔法などという非現実的で中二感漂うものをひたすら賛美するのだ。

 なにが「魔法は人と人とを結びました」だ。冒頭で、後継ぎ争いが起きたという記述があるのに、完全に矛盾している。

 新興宗教で洗脳されているのではないか、と疑ったのは、2度や3度ではない。でも、宗教の定義からすれば、違うみたいだ。宗教は、人がそれにすがることで、苦しみから逃れて安楽になる、的なもののはず。だから、宗教を信じている当人は、幸せそうな顔をしていなければならない。でも、母は、魔法の話をするとき、たまに、ふっと、暗い顔をする。

 聖書もない。行動の束縛もない。布教も集会もしない。被害者の会……は、ないけれど、あるとすれば私一人で構成されるであろう。たぶん、ほかに、この宗教の信者はいないから。

「寝付かせようとして、読んでるんじゃないのよ……」

「どっちみち、明日テストなの! 変なものふきこまないで!!」

「それは……」

 なんか言ってる。でも、聞かない。

 そのまま、布団をかぶって眠る。

 魔法を信じ込んでからかわれた、叱られた、幼少期の苦い記憶を夢の中でたどりながら……

 ==========

 テスト初日。一夜漬けしようと思っていた教科の勉強ができなくて、散々だった。いや、一夜漬けするなよ、ということになるかもしれない。だが。

「ねえ、みっちゃん、数学できた?」

「全然っ! あのさ、4番、激ムズじゃない?」

「あー、わかる!」

「俺、解けたよ」

「うわ、どや顔うざ!」

 こういう会話を聞いていると、なんだかほっとするものだ。しかし、

「難しいよね……あれで、私、試験時間の半分使っ……」

「でさー! 5番解く時間あった?」

「それな! というか、4番で、30分は使ったよね!」

「わかる!」

「……」

 私は、この輪に入れないのだ。

 孤立している元凶は、あの「絵本」。小さい頃の私を知っている人がクラスにいる限り、なかなか、クラスになじめないのだ。

 そんなわけで、すべてを、形もない「魔法」のせいにしてしまう。

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