17.作業
一つ、また一つ。
丸、四角、三角といった、幾何学模様を重ねる。
覚えた魔法陣がこんなところで使えると
思いついた自分に対し驚く。
魔法陣は大体がシンメトリーであり、模様にすると美しいのだ。
いくつもいくつも重ねてゆくと、それがわかってくる。
だんだんと、スムーズに描けるようになってきたのも、一つの収穫だ。
「喫茶店」の壁が、模様で埋め尽くされた。
「すごい! なんか、それっぽくておしゃれ!」
「そ、そうかな……?」
「そうだよー! 幸先いいスタートだわー」
「なら、良かった……」
他の子と話す時は、コミュ障発揮。
いや、もっと何か言うことあるだろう。
だんだんと、他の道具も出来ていく。
基本はダンボールや新聞で作るのだが、パソコン、計算機、ケータイ、コピー機、机、カウンター……それらしいものが、次々と出来ていき、教室は、一気に学校というよりオフィスのようになってきた。
一方、俳優陣も、進捗が生まれているようだ。
『君、もうそろそろタスクに慣れていい頃だと思うんだけど』
『…すみま、せん』
『まあいい。このテキスト、リバイズして。十五分で』
『…了解しました』
『あのね、君、目上の人には、「承知しました」って言うんだよ』
「そこっ!もうちょい、馬鹿にしてる感じ出していいと思うんだけどな」
「ええー、もっと?」
「てかさあ、現実にさあ、こんな会話、会社であるもんなの?脚本家さん〜」
「知らないけど、この劇では、そういう設定なの!!」
「えーと、……『あのねぇ、君ね、目上の人にはぁ、「承知しました」ってねぇ、いうんだよぉ、わかるかなぁ?』」
「キャラ変わってんじゃん、ウケる」
「やばー、ウザさマックスじゃん」
物語は、会社内が舞台……なのかな。
主人公の新入社員は、どやされたり、怒られたり。データ処理ミスの濡れ衣着せられ意気消沈、している時にふと通った喫茶店で、店長と話して元気を出す。それで、中間部分はよくわからないけど、最後はいい結果を出して晴れ晴れした気持ちになって、それで、ええと……
去年よりは、参加しているはずなのだが、なぜちゃんとわからないのだろう。
けどまあ、そういう話らしい。
意気消沈している時には向かい風、そして成功して最後、会社を出たらあたたかな追い風が吹く、予定だという。つまり、結局、送風機の案は可決されたらしい。
「竜山さんさ、なんて呼ばれてる? 他の子に」
「ふつうに……竜山さん、かな」
「あ、そうなのか……って、もう三年なのに今更だけど、下の名前、何て言うっけ? ほんとごめんだけど……」
「ななみ。奈良の『奈』に、海の『波』って書くの。……奈良出身って訳でもないけどね」
「ななみ……じゃ、ななちゃんって、呼んでいい? というか、今の今まで名前知らなかったなんて……」
「えと、それは、うちの学校クラス替えあるし、さ。というか、基本、私、あんま喋らないし」
少しずつ、道具係の子と打ち解けてきた。会話内容が、転校生のそれのようだが。
転校生……そういや、瑠璃亜が転入するのはいつだったか。
夏休み明けなら、文化祭の後だが、当日は遊びに来るのかな。
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そんなこんなで、文化祭が一週間後に迫ってきた。
いよいよ、最後の大詰めである。
小道具はほとんど完成し、今は大道具を手伝っている。
「ななちゃん! 机の上の糊持ってきて!」
「あ、はい!」
「もう、あんま仕事押し付けちゃかわいそうでしょ!」
「いやいや、むしろ他の子に比べてあんまやってないじゃん、私」
「そんなことないよー!」
むしろ、もっと色々させてくれた方が、役に立ってる感じがするからいいんだけど……
そう思った時、ふと、去年と比べて成長したという感じがした。
本番は、どうなるかな。楽しみだ。




