16.参画
あれから一週間がたった。
クラスは、少しずつ、ムードが変わりつつある。
新クラスになって一ヶ月もたてば、クラスメートの距離は縮むものだ。
しかし、それとは別に。
「えー、今回のロングホームルームでは、文化祭の話し合いをしようと思います。えー、このクラスは、劇をする、ということで、前回は決まりましたね」
「今年はさ、派手にやりたくない?」
「でもさー、例年より早いじゃん、今年」
「そうだっけ?」
「なんか、うちの学校の創立二百周年? か何かの記念で、いつも文化祭ある九月に式典があるからー、って」
「そうです。今年は、文化祭が六月なんですね。えー、だから、あと一ヶ月半先しかない、ということも考えましょうね」
「ええっ、高校最後なんだから、どーんとやりたいのに! 準備期間ないじゃん!」
「シナリオとかパッパと作って、あいつとかこいつとか文才あるから任せて、早いうちに練習に入らなきゃ間に合わないよね」
「主人公誰やる〜?」
「いや、シナリオが先だろ」
文化祭、か。いつも、迷惑かけたくないと思いみんなに任せていたが、最後くらい、こういう行事で、思い出を作りたいものである。道具係なら、出来そうだ。そう、一人で考えている間も、話し合いは進む。
「どうせならさ、ちょっと凝った仕掛けがあるといいな〜」
「送風機とか使ったら、雰囲気出せそうじゃない? こう、悲しい場面で、向かい風で、紙飛ばしたりしてさ」
「ええー、そんなの」
どっと笑うクラス。
風、という言葉に反応しそうになる私。
「いやいや、先にストーリー決めようぜ……」
「あ、はーい」
何度か、何日かに亘り話し合いがなされ、流れが定まって来た。
私も、お祭だからハッピーエンドの方がいい、と提案した。
シナリオが作られ、配役が決まっていく。
私は、小道具係の一人。それが終われば、大道具に回ることになった。
衣装は、女子力が足りないからと言って、辞退した。
「じゃ、あの果物屋さんの品物は新聞紙で作って……あ、喫茶店のここに模様とか欲しいな」
「えっと……模様って、どんな?」ふと、魔法陣が描けることを思い出す。
数週間、いろんな図形を習得したから、その中に一つくらい、劇に出てくる建物に合うのはあるだろう。
「うーん、どんなって……別に適当でも、綺麗なのなら何でもいいし……あ、でも、喫茶店の設定だから……」
私は、案として、手帳に一つ、『模様』を描いてみせた。
もしこれを、魔法の墨で描けば、水の玉が生まれて、それが火によって温められる、という予定だ。
喫茶店、ということで、コーヒーなどを沸かすイメージに合わせている。
いや、綺麗に描けばの話だが。
「わっ……いいね! 竜山さんって、そんなの、すぐ思いつくんだ!」
「いや、その……」視線を逸らす。反応の仕方がわからない。
別に、私自身がその場で思いついたものではないのだから。
でも、そう言ってしまえば、説明が面倒になりそう。
「じゃあ、それ、茶色のマジックペンでこの紙にざーっと描いてって。それから……」
道具係のリーダーが、持ち前のリーダーシップで、いろんな人にあれこれ指示していく。
私は、私の持ち場で作業しよう。
模様なので、おそらくかなりの数描くことになる。
いい練習になるなら、一石二鳥だ。




