15.展開
それから、祖母に色々聞いた。
さっき祖母が使ったのは魔法の杖の一つで、上級者向けのものであること。
上級者向けの杖魔法は、図形でなく、魔道書のそれに似た文字を使うこと。
祖母のおさがりの初心者向けの杖が、祖母の家にあること。
魔法の墨は、昔あったが、伯父の起こした火事で、ボトルごとなくなってしまったこと。
違和感を覚えたのは、それを聞いた時だった。
「うん? ボトルって、何でできてるの?」
「うーん、多分、ガラスだった気がするわ。プラスチックではあるまいし、透き通っていたし」
「ガラスって、燃えるっけ?」
溶けることはあるかもしれないが。
「でも、墨は燃えるわよ。書いた文字に火をつけて魔法を強める、ってこともあったから」
「いやいや、ボトルごとなくなったんでしょ? その……溶けたガラスの残骸とか、無かったの?」
「どうだったかしら……いや、燃えたところは、何にも無かったわ」
「魔道書の灰とかは、あった?」
「……ううん、あの場所には、何もかも、跡形も無くなってたわ……」
「おかしくない? それ……」
あの火は、伯父が「自身の魔法で起こした火」って、言っていた。
もしかすると、祖母ですら知らないような魔法を使った……?
いや、わからない。火力が強かっただけかも。
魔法をよく知らないうちに、そんなのわかるはずもなし。
そのうちわかるだろう。
「じゃあさ、話戻るけど、その杖があったら、私も、もっと色んな魔法が使えるってこと?」
「そういうことよ。早いうちに持ってくるわね」
「やったあ!」
それまでに、色々勉強しておこう。
祖母が帰ってから、私は、新たなページを読み始めたのだった。
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「探したら結構すぐ見つかったから、持って来たわよー!」
早いうちにって、早すぎないだろうか。
昼、祖母と別れ、今は夕方である。
我が家から祖母の家まで、結構な距離があったはずだ。
びっくりしつつ、心から感謝せざるを得ない。
「さっき、普通のボールペンで練習してみたんだけどさぁ、どんなに覚えてても、再現するのムズくない?」
「多分本に書いてたと思うけど、その線の長さとかが、魔法の向きや強さを決めるからね、均等に『描ける』ようになった方がいいわよ」
「ええー、難しいよ……」
「練習が大事だからね、ボールペンでやるというのはいい考えね」
「そっか、……頑張ろ。で、杖ってどんなの?」
と言って、祖母の手を見てこれまた驚く。
一言で言えば、可愛い。
ペン型なのだが、祖母の、古風でかっこいいそれとは違う。
緻密な彫刻のなされた、木目調のボディ。
温かみを感じるその素材で、模様にはところどころ、愛らしい動物が見受けられる。
キャップを開けると、ペン先は金色だ。
いや、よく見るとピンクゴールドで、これまた可愛い。
魔法の墨を入れれば、魔法陣を描く魔法が使えるが、
市販のインクを入れ、魔法を使わない時に普通のペンとして使う、という事も出来るらしい。
魔法の墨がもし見つかって、それを入れたくなったら、中を洗えば可能だ。
ペンのボディはしっかりコーティングされていて、水に強いのだ。
「今日から、あなたのよ。自分で手にとってみて」
魔道書の言葉を頼りに、
自分の手でペンを恐る恐る握り、ペン先を見つめる……
すると、ペン先が光ってくる。
初めはぼんやり、それから、ぼうっと、暖かく燃える松明のように。
動かしてみると、たしかに光の筋が現れた。
本の挿絵にあった通り、図形を描く……描こうとする。
しかし、ただでさえ空中で描くのに、緊張しているのもあって、
ものすごくいびつになってしまう。
しかし……何とかそれを描き終え、それに手を当てれば、
くるくると回り、
予定通り、赤い光の玉が生まれる。
いびつだったため、どこか変な方向に飛んで行ったが、
まあ、成功だ。
初めて風魔法を使った時のような、
なんとも言えぬ、高揚感に包まれた。
 




