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魔法が使えるだけの普通の女の子  作者: まるぱんだ
3.本格的にやってみる
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13.先人

 指だけじゃ、つまらない。もっと色々やってみたい。

『まださぁ、やりたい事ってわかんないけどぉ、都会の大学でいろんなこと学んでさぁ、自分の可能性、広げてみたいよねぇ〜! 上京とかいいなぁ〜』

 そう、クラスの誰かが言ってたのを、ふと思い出す。

 将来やりたい事は、もう決まってる……つもりだ。

 でも、魔法において、まだ、道が決まったわけじゃない。

 いや、始まったばかりだ。

 いろんなこと学んで、出来ることを、広げてみたい。


 多分、初級の魔道書の中の、指で繰り出す魔法の章は、一番短いから、一通り読めたと思う。

 しかし、杖とか墨とか、この家にあるのだろうか。

 ないとすれば、呪文を使うしかない。少し恥ずかしいかな。


「お母さん、魔法の墨……みたいなのって、あるの? 杖? とか……」

「ええと……よく、わからないわ」

「まじか……」


 そっか、母は、まだ魔道書を読んだ事がないんだっけ。

 その魔法の存在さえ、知らないかも。


「奈波……最近、魔法の勉強、やってるみたいね」

「わかる? だから、もっと色々やりたい。いろんな種類があるらしいし!」

「私は、あんま詳しくないけど……」

「けど?」


「明日、おばあちゃんが来るでしょう。いろんなこと、聞いてみたら? 私やあなたの前では使ったことないけど、若い頃は、誰よりも魔法が上手かったって、親戚に聞いたわよ」


「ええと……お母さんの、お母さん?」

「そうよ」

 この家系は、魔法使いとして、他の家に比べ代々トップクラスだったという。

 ああ、瑠璃亜の言ってたのは、これかな。

 伯父の起こした例の事件で一気に衰退したが、その直前――つまり、祖母の代で、最盛期だったのである。

 その祖母が、明日、家に遊びに来る。ワクワクとした気持ち。小さい頃のそれとは違う。

 ==========

「あらー! 奈波、大きくなったわねえ!」

 おきまりの挨拶である。

「いやいや、もう18だから。というか、前に来た時と、大差は無……」

 いや、前に会った時は、魔法は使えなかった。

 大差無い、事はないかもしれない、けど、私は私だし、背も伸びてないし、

「それに、私、ダイエットしてるから、むしろ大きくなったら困るんだけど」

「あんたはダイエットする必要無いわよ〜」

 これも、おきまりの言葉。

 けど、そこからいつもの世間話……では無い。早く、祖母の現役時代の事を聞きたい。

 私は、祖母の目を、見てみる。深い、深い青。

 相手もまた、私の目を見ていた。

 全て、察したようだった。

「奈波……あなたも、私たちの、仲間なのね」

 コクリと、私は頷いた。

 彼女は、にっこり微笑み……ゆっくり、立ち上がる。

「お祝いといっては、なんだけど……」

 祖母の服の胸ポケットから、一本の万年筆が現れる。

 目が、青だったのが、少し緑がかった、ように見えた。

 より一層深みが増して、それでいて、透き通っている……いや、違う。

 光を帯びているのだ。


 万年筆のキャップが外され、黄金色のペン先が見えた。

 しわのある両の手に力を込め、光る目で、じっと見つめる。

 ペン先は、松明のように、不思議に輝いている。

 やがて、その右手に持ち替え、字を書くような姿勢になった。


 あれ? そこに、紙も何もないのに……何か書くのかな?


 しかし、彼女はそのようなものを用意せずまま、何かを「書き」始めた。

 まるで、目の前に壁のようなものがあって、そこに文字を書くように、手をよどみなく動かしていく。

 その動きには、緩急があった。

 丁寧に、ゆっくり、ひとつひとつ、文字を、置いていくようなところもある。

 さっと動かすところもある。素早くキレのある手さばきで。

 指揮棒を振っているみたい。リズムを感じさせる。


 筆跡は、祖母の目の前の、見えない壁に、光の筋として現れた。

 始めは儚く消えていたのに、文字を重ね、重ねていくごとに、それはしっかりとした、文字になった。

 多くの文字を重ねていけばいくほど、光は強くなる。


 やがて、祖母が手を止めた時――そこには、輝ける「文章」が、空中に浮かび上がっていた。

 日本語のようには見えない。

 魔道書の言語、だろうか。

 なんて書いてるのだろう?


「ここからが、この魔法の始まりだよ」


 祖母が、いつものように優しい、でもいつもと違う笑みを、こちらに向けた。

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