10.始動
やりたい事がある、魔法をキャリアにする事はない、とは言ったけれども。
やっぱり、魔法をもっと、ちゃんと知りたい。
良かれ悪かれ、自分はれっきとした「魔法使い」なのだから。
『魔道書 初級 前書き この本は、魔法の初学者に向けたものである。……』
具体的な魔法をやるより先に、
せめて、魔法の基礎基本くらいは学んでおこう。
ええと、どこにあるかな?……『目次』どの辺だろう。
というか、指で読まずとも直接読めたら早いのに……
と思いかけたが、指で読むことの目的は「絶対忘れない」事だ。その事を危うく忘れるところだった。
基本事項と思われるページを探し当てた。さあ、読もう。
『魔法には、いくつかの種類がある。属性による分類、用いる道具による分類、使う目的による分類が可能である。……』
属性は、風魔法、とかそういうの。火、水、風、雷……などなど。ってこれ、よく見るロールプレイングゲームのまんまでは? ちょっとがっかり。
いくつかの属性をを合わせ、新たに生まれる属性もある。ちょうど、色の三原色のように。
用いる道具…そういや、初めて魔道書の目次を見た時は、道具で分類されていたように思う。
道具によって、メリット、デメリットがあるから、使い分けたり組み合わせたりするらしい。
ただ、属性についてもそうだが、初級の範囲では「組み合わせる」ものはないという。
杖は、文字通りの杖とは限らず、万年筆のような形のものもあるという。あの童話の時代に作られたものであれば、何かしらの力はあるから使えるらしい。
万年筆だったら、筆箱に入れて持ち運べるなぁ……
これは、杖の動きが魔法を決めるという。空中に、決まりに沿って文様を描けば、望み通りの魔法が出せる。決まりというのは、文法の、図形バージョンのようなもの。言葉と文法をマスターすれば自分の思いを思うままに文章に出来るように、図形の意味と決まりを知ることで、ある範囲で自由な魔法を繰り出せる。
しかし、繰り出すまでに時間がかかるのだ。
これとよく似たものが、魔法陣によるもの。全く同じ、決まりと図形を使うが、それを魔法の墨とペンでもって、紙、本、床、壁などなど、自由に描き込むのだ。空中に描くのに比べ、持続時間がより長く、その分繰り出すまでの時間も少し長くなってしまう。また、専用の墨がないと使えない。
つまり、単語(図形)と文法さえ覚えれば、この二つは両方使えるようになるわけか。
呪文は、図形ではなく言葉。外国語を学ぶ感覚で出来る。
ただ、魔道書は、読む際に日本語に翻訳される。つまり、全部カタカナ表記になるのだ。
めんどくさい予感がする。
ここで大事なのは、その魔法を詠唱者が「イメージすること」。
意外にも、最も集中力が要求される。かなり自由度が上がるが、かなりの精神力を使って「念じる」必要があるのだ。
口に出さねばならない上に、集中しないといけない……なんか地味に難しい。恥ずかしいし、日常では使えないな。ただ、先に述べた二つに比べ、早く繰り出せるという。
そして、手で印を組むもの。私が初めて使った魔法。
一番手軽で、一番易しくて、一番自由度が低くて一番弱いが、一番早く繰り出せる。
初心者向けを通り越して入門者向け。
いやいや、なんでそれを本の後ろの方に置く?
本の構成のセンスを疑いそうになった。まあよい。
いずれのタイプも、初級では「魔法に慣れる」のが目的らしく、詳しい文法の決まりなどは省いている、身近な場面で使いやすいものを中心に紹介している、と書かれてあった。
英語とかも、勉強を始めたばかりの頃はそんな感じだった気がする。
本の後半には、様々な例が載っているらしい。
参考書に例えれば、前半が全て学習内容の要点まとめで、後半が例題、演習、といったところか。
まさに、「魔法の教科書」と言える。
さて、まずは手で印を組むやつ、風以外を読み込もう。
 




