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コネクト・クエスト  作者: ノリト ネギ
冒険の始まり
6/100

第六章 絆の力

 デーモンとの戦いにおいて、一つだけ収穫があった。謎の液体によって習得した、これまた謎な魔法の発現だ。

 使用する前に戦いは終わってしまったが、それでも完全な習得には至ったのだから、イリックとしては喜ばしい。きっかけや原因などはわからないが、今後は使いたい時に使えるという事実が何よりも重要だ。

 キュアに続いて二個目の魔法を習得。これだけでも成果としては十分と言える。

 一度くらいは試しに詠唱してみるのもいいかもしれない。

 完全な習得と同時に、魔法名や効果についてはパッと頭に浮かんだものの、摩訶不思議なこの特性は一度体験しておかなければ理解しきれない。

 使いこなせる自信はある。せっかく覚えた魔法なのだから、使いこなさなければ意味はない。それでも予行練習は必要に思えるが、ぶっつけ本番でも案外どうにかなりそうだ。

 とりあえず、後で考えることにする。

 それよりも今は買い物だ。

 昨日の戦いで、イリック達は様々な物を失う。

 イリックは片手剣と短剣。カッパーソードはぽっきり折れ、ブロンズダガーは刃がより一層ボロボロになってしまう。片手剣に関しては買い替えは必須だ。

 ネッテは左手用の短剣。これまたぽっきりと折れてしまう。リンダから譲り受けたエイビスに関しては、刃こぼれ一つせず、金色の装飾品に負けじとキラキラとその刃を輝かせている。

 アジールは盾と鎧が随分と傷ついたが、見た目の問題で戦いに支障はない。

 他の三人も随分と大変そうだが、イリックに他所の冒険者を心配できるだけの余裕はない。自分達のことで精一杯だ。仕事道具の片手剣が折れたのだから。

 イリックはテホト村を歩く。昨日の惨劇が嘘のように、村は平穏な日常を謳歌している。子供達は笑顔で走り、大人達は忙しそうに歩く。

 イリックは雑貨屋を目指す。

 テホト村には武器屋がない。しかし、雑貨屋でいくつかの武器を売っており、片手剣を補充するためにはそこに出向くしかない。

 周囲の建物より一回り大きな店に到着する。両隣も店のようだが、イリックは迷いなく真ん中の店に入る。入り口の上には雑貨屋のなんとかと書かれていた。なんとかの部分は読まずにスルーする。ここが目当ての店ならそれで十分だからだ。


「お、英雄さん、いらっしゃい」

「違います」


 ヒゲ面の店員が開口一番イリックを褒め称える。イリックは身に覚えがないため、きっぱりと否定する。

 ガーゴイルを倒したのはネッテとロニアであり、自分は何も倒していない。英雄だか何だかわからないが、もてはやされるとしたらその二人だろう。イリックはそう考える。


「何用で? 欲しいもんがあるなら何でも持ってってください!」

(何でも……だと)


 ゴクリ。イリックは思わず生唾を飲み込む。先ずは片手剣を見せてもらう。

 店員がカウンターに置いた片手剣は二本。どちらも刃が太く、カッパーソードよりは幾分重たそうだ。

 イリックは一目で二本とも手の届かない品物だと察する。

 サイフォスとハイサイフォス。

 どちらも似た形状であり、それも当然。ハイサイフォスはサイフォスをアイアンで打ち直した上位品であり、それだけの差だが値段は一桁跳ね上がる。

 イリックの手元にはリンダから受け取った報酬二万ゴールドがある。実はサイフォスなら買えなくはないのだが、この資金は冒険者になるための軍資金であり、このタイミングで減らすわけにはいかない。

 一番安いカッパーソードが置いてないのなら、今回は見送るしかない。ボロボロの短剣でもアイール砂丘のモンスターなら余裕で討伐できる。今は我慢することを選ぶ。

 ヒゲ面の店員は無料で譲ってくれそうな勢いだが、さすがにそこまで甘えることはできない。食事をおごってもらうのと武器を無料で提供してもらうとではさすがに金額が違い過ぎる。カッパーソードがあればもらうつもりでいたが。


「い、いい武器ですね。失礼します」


 撤収。

 サイフォスも比較的安い武器だが、イリックからすれば上等な片手剣だ、受け取れるはずがない。普通の冒険者はさらに高品質な武器を装備しているが、カッパーソードとネッテのお下がりしか握ったことがないイリックには高嶺の花でしかない。


「待ちな。背中のはもうダメなんだろ? ほら、もっていけ。それと交換だ」


 このお髭のおじ様になら抱かれてもいい。一瞬そんなことを考えてしまう。

 うれしさと申し訳なさにやきもきしながら、イリックは宿屋に戻る。

 ハイサイフォス。押し切られる形で、上等な武器を譲ってもらった。少し黄色がかった黒い刃が頼もしい。少し太く、そういう意味ではスマートではないのかもしれないが、その無骨さが今はかっこよく見える。


(こいつがあればあれにも勝てる。兄妹ともども守ってくれよ。あ、アジールさんのこともよろしく)


 イリックは新たな相棒に語りかけ、一際大きな白い建物を目指す。


「そこでお兄ちゃんの目からビームが出てね、ぎゃーって苦しあ、おかえりー」


 宿屋に到着すると、ネッテが店員と話し込んでいた。


「ただいま。今変なこと言ってなかった?」


 イリックは目からビームを出したことなどない。そもそも出せない。


「お兄ちゃんがモンスターを追い返した時の話!」

「変な嘘をつくな!」


 ネッテの頭を掴み、握力を高めていく。


「へ、へこむー! くぼむー!」

「相変わらず仲良いね」


 ネッテの叫び声を聞きつけ、アジールが奥から現れる。


「昼食食ったら出発しますか」


 イリックは当初からの予定を口にする。

 無表情のままアジールも頷く。

 今のアジールは普段着のノースリーブニットを着ている。ゆえに、イリックは舐めるように眺める。鎧の上からではわからないことだが、アジールは肉付きがいい。

 胸はそれほど大きくないが、しかし決して小さくはなく、むしろ丁度いい。

 腰も適度にくびれており、本人曰く少し腹筋がついてるらしいが、むしろそれがいい。

 腕や足は女性にしては太いが、むしろそれでいい。

 普段もミニスカートなため、非情に興奮を覚える。そこに階段があるから上ってくれないかな~。そんな邪念は残念ながら届かない。


「兄上何見てる!」

「何でもございません!」


 長々と見すぎた。


 昨日の戦い以降、村民の手当てと回復魔法により、イリック達の傷はすっかり癒える。疲れはまだ残っているが、それは諦める。それほどの激戦だったのだから

 昼食を食べたら出発する。昨日のうちにそう決めた。理由は二つ。

 あまり長居しない方がいいから。

 さっさとサラミア港に帰りたいから。

 村民のもてなしで昨晩も今朝も腹いっぱい食べさせてもらえた。昼食も食堂でどんちゃん騒ぎが待っているのだろう。

 そして、冒険者のマリィとも随分親しくなれた。露出の高い軽鎧を着込んでいる女性はイリックにとって眼福でしかなく、そういう意味でも喜ばしい。何より、爆乳っぷりに驚かされた。

 マリィとコルコルはデフィアーク共和国からサラミア港へ徒歩で向かっている最中だ。鍛錬の一環であり、こういったことをする冒険者は決して少なくはない。

 コルコルはつい先日冒険者になり、スパルタ教育でいきなり二人旅をやらされた挙句この有様だ。

 イリックからすればご愁傷様としか言えないが、生きながらえたのだから良い経験になったのかもしれない。トラウマにもなったかもしれない。

 もう一人の冒険者、ロニアとは知り合いでもなんでもなく、たまたま居合わせただけの間柄だ。巨乳っぷりにイリックは再び驚かされるが、着替えるまでは血だらけで気づくことができなかった。疲れたらしく、部屋で寝続けており、現時点ではほとんど話せていない。

 コルコルがマジックポイントを回復させる度に、いそいそとキュアをかけにロニアの元へ出向く。体はもう大丈夫なのだろうか? イリックは一抹の不安を抱く。間違いなく一番の負傷だった。


(あいつも今頃は安静にしているのだろうか?)


 イリックはふと考えてしまう。

 立ち去った黒いモンスター、デーモン。右腕をネッテの斬撃で損傷し、脇腹に関してはマリィとイリックの攻撃で大きく負傷した。


(回復魔法なんか使えないだろうから、自然治癒で治すんだろうなぁ。どれくらいの時間がかかるのだろう?)


 イリックにとって最も重要なことはそれだ。

 立ち去る直前、デーモンとイリックは視線を交える。たったそれだけの行為で、互いの言いたいことは見事伝わる。


 おまえの前に現れる。

 かかってこい。


 それがいつになるか、そこまではわからない。もし一日で治ってしまうのなら、テホト村に長居するのはまずい。

 そういうこともあり、イリックは翌日の出発を決意する。


「買い物はもういいの?」

「はい。本当はネッテの短剣を買いたいんですが、それはまぁ、サラミア港に戻ってから、もしくはデフィアークで考えようと思います」


 さすがにネッテの短剣までここの雑貨屋で譲り受けるのは気が引ける。


「そういうことなら、一本やるよ」


 階段を下りる足音と共に、男前な女性の声が近づいてくる。ボヨン、ボヨン、二つの果実がものすごく揺れている。階段よ、後百段くらい続いてくれ! そう願わずにはいられない。


「あ、マリィさん!」


 ネッテがマリィの登場を喜ぶ。

 イリックは揺れる胸に喜ぶ。


「これこれ。コルコルが前使ってたやつなんだけど、ほれ」

「わーい。ありがとう!」


 マリィがマジックバッグから短剣を取り出す。受け取ったネッテはそれをマジマジと見つめ、満面の笑顔を作る。

 茶色い鞘に納まったそれは、柄の部分がオレンジ色をしており、少なくともイリックは店頭でこれを見かけたことがない。

 そっと鞘から引き抜くと、銀色に輝く細い刃が鏡のようにネッテの顔を映す。


「なんて名前だったかな……。あぁ、ビーニードルだ。昔、モンスターを倒して手に入れたんだ。軽くて使いやすいだろ?」

「うん! すごい!」


 鞘に戻し、ネッテはブンブンとビーニードルを振り回す。重い短剣も平然と扱うくせに、と言いたくなったが、イリックは黙ることを選ぶ。

 何はともあれ、これで装備の補充は完了する。懐が一切痛まなかったことは想定外だが、そもそもデーモンやガーゴイルとの戦闘が想定外過ぎた。


「こんなの、あんたらから受けた恩と比べたら些細なもんだよ。命を救ってもらったんだからな。ありがとう」


 マリィが頭を下げる。爆乳が重力に引かれ、より一層大きく見える。谷間に関しては丸見えだ。

 どこかガサツな雰囲気を醸し出しつつも、露出度の高い鎧と肩まで伸びる薄茶色の長髪が女性らしさを主張しており、鋭さとやさしさを持ち合わせている瞳には力強さも宿している。

 もしかしたら惚れてしまったかもしれない。イリックは気づいてしまう。

 女性に免疫がないせいでそう思い込んでいるだけかもしれないが、どちらにせよマリィにはどこか惹かれてしまう。

 とは言え、今日でお別れだ。冒険者になればまた会うこともあるだろうが、イリックは淡い気持ちを胸の奥にしまう。どうせ実らないだろうし。告白すらしていないが、既に諦めている。自分に自信がないわけではないが、彼女いない歴イコール年齢ゆえ、女性相手には奥手にならざるをえない。


「いえいえ。助けられたのはお互い様ですよ」


 イリックは謙遜しつつも、きっちり見るとこは見続ける。恋は実らずとも、目の保養だけは欠かさない。


「さっきコルコルから聞いたんだけどさ。私が起きるきっかけだったキュアはあんたがかけてくれたんだって? すごい奴だよ」

「マリィさんの傷をほとんど癒したのはコルコルさんですよ。ところでコルコルさんは?」

「今は休んでる。相当疲れてるみたいでな。何より、精神的に参ってるんだろうね」

「あれだけの戦いでしたしね」


 マリィとイリックは互いを称えながらも会話を続ける。イリックはチラリチラリと気づかれないように視線を泳がせる。見納めまで残りわずか。チャンスは今しかない。


「あんたらはもうすぐサラミア港に出発するんだよな?」

「だよね?」


 マリィの問いかけに、ネッテがイリックの顔を覗き込む。もちろんそのつもりであり、イリックは首を縦に振る。


「私達はあいつを警戒してもう少しここに残るよ。何日かしたらサラミア港に向かうから、その時はまた会おうぜ」


 マリィとコルコルはデーモンの再出現に備え、テホト村に滞在することを選ぶ。もっとも、その行為にはこれっぽっちも意味がないのだが、イリックはあえて黙っておく。

 マリィとコルコルを巻き込まないためにも、何より、デーモンを倒す役目は自分だと、根拠もなく思っているからだ。

 どうやらそれだけの力が自分にはありそうだ。そんな自信が義務感のようなものを生み出し、イリックを奮い立たせる。


「そっちも気をつけて」


 アジールがマリィの目を見てそっとつぶやく。


「ああ。それじゃ、ちょっくら買出し行ってくる。昼食一緒に食べようぜ」

「行ってらっしゃい!」


 ネッテに見送られながら、マリィは宿屋を後にする。


「それじゃ、俺は一旦部屋戻るけど、回復魔法はもういい?」

「私は大丈夫」

「あ、私はまだダメそ~。もっと治療して~」


 アジールがきちんと返事をする一方、ネッテはしなを作る。自分自身を抱きしめてクネクネと動き出したが、イリックは何も見なかったように自分の部屋へ向かう。


「必要なら服だって脱いじゃう! 隅から隅まで触診して~」


 後ろから何か聞こえたが、聞かなかったことにして階段を上がり続ける。

 最低限の家具しか置いていない殺風景な二人部屋で、一人ぽつんとイリックはマジックバッグの中身を確認する。昼食後に出発するため、そのための準備だ。

 食糧や消耗品はネッテとアジールが購入してくれた。イリックが見たところでこれで十分な量なのか否か、それすらもわからない。物があるかどうかだけ確認する。不甲斐ない話だが、料理のことは全くわからないのだから仕方ない、とイリックは開き直る。

 テーブルの上がどんどん散らかっていく。

 マジックバッグの容量は、その見た目からは信じられないほど大きく、食べ物だろうが武器だろうが何でもいくらでも収められる。

 もちろん無限ではないが、三人で旅をするならこれ一つでまかなえてしまう。

 イリックの他にはアジールも自前のマジックバッグを携帯しており、持っていないのはネッテだけだ。

 マジックバッグは高級品であり、おいそれと普通の人間が購入できるマジックアイテムではない。値段は安くても十万ゴールド、高いものだとその倍はする。安い方ですら、見回り時代の年収に匹敵する金額だ。

 ただでさえ貧乏なイリックが二個目を購入できるはずもなく、ネッテに買い与えたいという兄の願いは当分叶いそうもない。

 コンコンコン。

 ドアが静かにノックされる。


(誰?)


 イリックは不思議がる。ネッテは当然ながら、アジールも無言で入ってくるため、この二人ではないからだ。

 マリィも買い物に出かけたばかりであり、残るはコルコルとロニアくらいだ。コルコルは寝ているため、消去法で決定する。


「いいかしら?」

「どうぞー」


 イリックの返事を合図にドアが開く。

 予想通り、おかっぱに似た髪型の女性が現われる。


(名前は……やばい、忘れた!)


 マリィとコルコル、二人の名前を覚えるので精一杯だった。


「少し話があるのだけど」


 ロニアが歩み寄る。

 イリックはゴクリと喉を鳴らす。眼前の女性はかなりイリック好みの外見をしており、見ているだけで鼓動が高まる。

 マリィに匹敵するほどの巨乳。

 プニプニしてそうな腹。

 大きな尻。

 アジールほどではないが細くない足。

 そんな体形が服のせいで完全に丸分かりだ。

 

(このエロい服は何なんだ……。体に密着するワンピース……。男のための服にしか見えない)


 ロニアが着ている服の名前はタイトワンピースだ。今日は灰色を着ており、少し落ち着いた大人の雰囲気が部屋いっぱいに充満する。

 おかっぱのような髪型もどこか色っぽい。


(おかっぱってこんなおしゃれだったっけ? ネッテの髪型がサイドポニーらしいけど、これもそんなかわいらしい名前の髪型なのだろうか?)


 やはりイリックにはわからない。顔を両サイドから包み込むようなこの髪型はボブカットだ。


「先ずはお礼。昨日はありがとう」

「い、いえいえ。こちらこそ、石像みたいなモンスターを一体倒してもらって助かりました」


 ロニアが黒髪を揺らしながら頭を下げる。

 最も負傷したロニアは、イリックとコルコルの回復魔法で一命を取り留める。しかし、その場では完治に至らず、戦闘終了後、村民の手厚い看病を受けながら、ロニアは今朝までほとんど横になって過ごす。

 回復したロニアは、真っ先にイリックの元に向かう。戦いの中心人物であり、自分を色んな意味で窮地から救ってくれた恩人に感謝の気持ちを述べたいからだ。

 ボブカットをおかっぱに間違われたことには少しガクッとしたが、よくあることでありこの際気にしない。


「あなた、強いのね? 冒険者歴長いの?」


 そう見えちゃうのだろうか? イリックはそんな問いかけにむず痒くなる。

 冒険者ではなく無職。

 弱くはないが強いわけでもなく、しかも妹の方が強い。

 どうしたものか、とイリックは鼻をかく。


「これから冒険者になろうとしてます」

「そう。その割りには随分と頼もしいのね。あなたの名前はイリックで合ってるのよね?」

「はい。あぁ、まだきちんとした自己紹介がまだでしたね。俺はイリックで、連れは妹のネッテと……」


 アジールの紹介で悩む。迷う必要もなく、冒険者仲間なのだが、そもそもイリックはまだ冒険者ではなく単なる無職であり、冒険者仲間と紹介するには少し抵抗がある。恥ずかしいわけではないが、この状況はおかしいと気づかされる。

 無職。

 その妹。

 冒険者。


(なんだこの三人組……)


 不思議な組み合わせだ。


「アジールさんです」


 とりあえず名前だけ紹介する。修飾語は諸事情により省略する。


「三人でこんな田舎まで何しに来たの?」

「えっと、サラミア港からワシーキ村まで荷物を届けに。今はその帰りです」

「そう。私はガーウィンスからサウノを経由してここまで来たわ。私もサラミア港を目指してるの」

「徒歩で?」

「ええ」


 それはすごい。イリックは目を見開いて驚く。見開いたついでに舐めるように上から下まで眺めたいが、ロニアと向き合っているためそれは止めておく。


  ガーウィンス連邦国は大陸のもっとも東に位置する大国であり、サラミア港はもっとも西に位置する港町だ。ロニアは大陸横断中であり、しかももう少しで目的達成だ。すごいとしか言いようがない。


「お一人で、ですか?」

「そうね」

「ほ~、憧れちゃいます」


 色んな意味で、だ。

 大陸横断ができるほどお金に余裕がある。

 自由気ままに生き方を選べる。

 一人でなんでもこなす。

 目の前の冒険者はそういう人物なのだろうとイリックは推測する。自分が持っていないものを備えてる以上、憧れてしまうのも無理はない。


「私からしたら、あなたの方がうらやましいわ。三人で旅をしているんでしょ?」

「旅……というかお使いというかクエストですけどね。本当は一人でやるつもりだったんですが、気づけば三人に増えてました。自分で言っといてなんですが、この状況は不思議です」


 ネッテが同伴するのはわかる。アジールはどうしてこうなった、といった感じだが、せっかくの仲間なのだから末永く仲良くするつもりでいる。


「そう。色々事情があるのね。もっと話を聞かせて欲しいところだけど、今日はここに滞在するのかしら?」


 ロニアが腕を組む。ただでさえ大きな胸が腕の中でギュッと圧縮される。


「いえ。昼飯食べたらサラミア港に向けて出発します」

「あら、そうなの……。もう一日くらいいてもいいんじゃないの? 昨日の今日なんだし」


 ロニアに引き止められるとは夢にも思わず、イリックはキョトンとする。それでも首を縦に振らない。

 長居は危険だと承知しており、自分達は早くこの場を去らねばならないと自覚しているからだ。デフィアーク共和国への出発準備を進めたいという思惑もある。


「クエストの報告を町長にしてあげたいですし、ネッテが早くデフィアークに向かいたがってるので」


 イリックは急ぐ理由を他人のせいにする。ぱっと思いついた割りには賢い言い回しだと自画自賛だ。


「そう……、残念だわ」


 ロニアが残念がる理由がやはりわからない。そもそもどうしたいのだろう? ということでイリックは探りを入れる。


「テホト村でゆっくりしてからサラミア港に向かうんですか? それがいいとは思いますけど……」

「そのつもり、だったわ」


 イリックの問いかけに、ロニアは言葉を濁す。どうしたいのかまだ飲み込めない。


「あれだけの負傷でしたしね。完治されたんなら、何かの縁ですし一緒に向かうのもありかもしれませんが、ゆっくりした方がいいと思いますよ。マリィさん達もそうするようですし」


 テホト村に滞在している冒険者が、全員サラミア港を目指しているこの状況はなんとも不思議だが、そもそもテホト村に冒険者がいること自体、珍しいのかもしれない。

 こんなレアな状況のおかげでデーモンを追い払うことに成功したのだから、イリックは一先ず納得する。

 そんなイリックとは対照的に、ロニアは腕を組んだまま考え込む。視線がイリックから外され、窓の外の景色に向けられる。

 チャンス! イリックはこっそりと視線を下にスライドさせる。


(で、でかい! やわらかそう! 死ぬまでに一度でいいからツンツンしたい!)


 男のロマンがロニアの胸には詰まっている。


「……うん。じゃあ、お言葉に甘えて、サラミア港までご同行させてもらおうかしら?」

(おっぱいでかい! おっぱいすごい! おっぱ……え、今何て?)


 イリックは我に帰る。


「体調はもう大丈夫なんですか?」


 取り繕うようにイリックはたずねる。自分で提案しておきながら、その返答には戸惑ってしまう。


「ええ。あなたとコルコルのおかげで。そうそう、あなたがあの直後に詠唱してくれたキュア、とても心地よかったわ。あんなの初めて」

「そ、そうですか……、それはよかったです」


 キュアは誰が使おうと一緒なのだが、そう思ってくれるのなら後衛回復役としてはうれしい限りである。イリックには前衛攻撃役の自覚しかないが。


「思わず、惚れそうになったわ。私、男を好きになったことなんてないのだけれど」

「はあ……」


 ロニアが何を言いたいのかわからず、イリックはとりあえず相槌を打つ。


「ラブコメ臭がします!」


 うるさいのが現れた。ネッテがドカンとドアを開けて部屋に入ってくる。


「兄上! 何をやって……、おっぱいでかい!」


 さすが兄妹ということか。兄と着眼点は同じらしい。イリックはこういうところに血の繋がりを感じてしまう。


「えっと、ネッテ……ちゃんだったかしら?」

「ネッテです! お姉さんは昨日の人! もう大丈夫なんですか?」

「ええ、お兄さんのおかげでね」


 コルコルのおかげだろう。イリックはそう思いながら、巨乳と貧乳のやり取りを眺める。部屋が騒がしくなったが、静かな問答よりはよっぽど気楽だ。


「さすがお兄ちゃん! あのう、おっぱい触っていいですか!?」

(何言ってんのこのバカ)

「ええ、いいわよ」

(いいの!?)


 なら俺も。とは言い出せない。それが世の常。


「わーい! ばふう」


 許しを得たことで、ネッテは躊躇なく巨大な山脈に挟まれにいく。触っていいとは言われたが、顔をうずめていいとは言われていないのでは? そんな疑問は女の子同士の場合、意味を成さないらしい。


「かわいい妹さんね」

「妹がご迷惑をおかけします」

「もごもご」


 ネッテは顔を挟まれながら、両手でもみもみと感触を楽しむ。


(おい、兄に代われ。一生のお願いだから)


 その願いは当然届かない。


「ふふ、妹ができたみたいで楽しいわ。出発はお昼を食べたらよね?」

「あ、はい。少しくらいなら遅らせても構いませんが、本当に大丈夫なんですか? 二日くらいはかかりますよ?」


 ロニアは抱きつくネッテの頭をよしよしと撫でる。

 ロニアには弟がいるが、ここまで甘えられたことはなく、こういったスキンシップは経験がない。

 魔法学校においても、生徒から慕われてはいたが甘えられたことはなく、少なくとも抱きつかれた記憶はない。

 甘えられることは嫌いではなく、どちらかと言えば頼られたい性格のロニアは、ネッテがかわいくて仕方ない。

 仲間など必要ない、と一匹狼を気取ってここまで来たロニアが、初めて他人に心を開きたくなった瞬間でもある。


「まだ時間はあるし、問題ないわ。どちらかと言えば、お仲間さんが同意してくれるかの方が重要じゃなくて?」


 言われてみれば、とイリックは気づかされる。ネッテはこの通りなので問題ないが、アジールも賛成してくれるかはわからない。嫌がるとも思えないが、念のため確認しておくべきだ。

 そう思った矢先だった。


「楽しそうな声」


 タイミングよくアジールも現れる。開けっ放しのドアのせいで、ネッテのバカな言動は廊下に筒抜けだ。おかげでアジールが釣れたのだから、今はよしとする。


「丁度よかった。アジールさん、ご存知だとは思いますが、こちら……」


 イリックは固まる。ロニアの名前を知らなかった。


「ふふ。ロニアよ。イリックの好意に甘える形で、サラミア港までついていきたいのだけど、いいかしら?」

「うん。よろしく」


 交渉成立だ。ついでに名前も覚えられた。

 迷いなく受け入れたアジールには感謝だが、少しくらいは迷ってくれてもよかったのに、とイリックが天邪鬼なことを考えてしまう。男一女二から、男一女三に変化することへの危機感のせいだ。


「妹さんもいいかしら?」

「もごもご」

「いいって言ってます」


 ロニアの問いかけにイリックは代弁する。ネッテは胸に夢中で何も聞いていない。男が虜にされる巨乳はネッテも魅了するらしい。その理由はよくわからないが、自分がまっ平らだから無いものねだりの類だろうと想像できる。どうでもいいが。


 こうして、一時的とはいえ旅の仲間が増える。

 イリックは考える。デーモンはいつ現れるだろう、と。

 明日?

 明後日?

 それほど先ではないだろうと何の根拠もなくそう思える。

 デーモンに負わせた傷は決して浅くはない。しかし、あのモンスターならたちまち治してみせるだろう。

 理想を言えば、テホト村を出発してサラミア港に到着する二日間の移動中に姿を現して欲しい。それが最も被害の少ない理想的な再会だ。

 それはわがままか。イリックは小さく笑う。

 何はともあれ、今はデーモンの出方を待つしかない。


「イリック、そろそろお昼行こう」


 イリックの部屋で四人はくつろぐ。その結果、いつの間にかお昼時を迎える。

 アジールが真っ先に立ち上がる。


「ご飯ー!」

「行きましょう」


 ネッテとロニアも続く。

 イリックも立ち上がる。一階の食堂でマリィとコルコルが待っているかもしれない。昨日に引き続き、この食事も騒がしくなりそうだ。

 これから二日間は質素、と言ったらネッテに怒られるだろうが、食事は野外で食べることになる。

 腹いっぱい食べ、野宿生活に備えなければならない。


「何食べようかな」


 四人はぞろぞろと一階の食堂を目指す。



 ◆



 前方には白い砂が敷き詰められている。砂漠のような土地だが、そうではない。

 後方の洞窟は、名残惜しそうにその口を開いている。

 ここは、アイール砂丘の東に位置する洞窟の入り口だ。カルック高原から訪れた場合は出口と言った方が正しいのかもしれない。

 二時間かけて洞窟を抜けることに成功し、イリックはふぅと胸を撫で下ろす。

 時刻は午後五時。

 テホト村を出発して四時間ほど経過した。太陽が沈みかけており、そろそろ野営の準備が必要だ。

 そんなイリックの提案に、三人は頷く。

 ここからは野宿の準備が始まる。

 イリックはテントの設営。

 ネッテは夕食の準備。

 アジールは見回り。

 ロニアは……どうするのだろう? イリックはテントをこさえながら様子をうかがう。

 ロニアは真っ先にネッテの元へ向かう。今日の夕飯には野菜を使う。野菜は水で洗わなければならない。洗うためには水が必要であり、野菜達はボウルの中でその時を待っている。

 ロニアがすっと手をかざすと、蛇口から流れ出る水の如く、ロニアの手から水が生まれる。うおー、とネッテが驚くのも無理はない。魔法の便利さを兄妹共々初めて目の当たりにしたのだから。

 ロニアは次に枯れ木を集め始める。周囲にはほとんど木が生えれおらず、入手できた量はほんのわずかだ。ネッテに見せ、大丈夫とお墨付きをもらう。

 火を起こす道具やマジックアイテムを使わず、指先からポンと火を発生させ、その火を枯れ木に放り込む。うおー、とネッテが驚く。


(魔法って本当に便利だな。俺も一応魔法使いの端くれだけど)


 イリックはテントを設営しながらしみじみと考える。

 昔から、魔法使いという単語は存在している。今風な言い方では、後衛攻撃役がそれに該当する。回復魔法を扱える後衛回復役や、サポートを得意とする後衛補助役も魔法を使えるが、魔法使いという単語が指す人物は、攻撃魔法を習得している後衛攻撃役の場合が多い。

 火を繰り出し、風を吹かせ、水を操る。

 後衛攻撃役は、そうでない人間からすれば夢のような存在だ。

 イリックは後衛回復役であり、回復魔法を使える。それだけでも確かに便利だが、ロニアのようなまさに魔法使いといった存在と比べると霞んでしまう。そんなことは重々承知しており、イリックは無言でテントを組み立てる。

 ネッテとロニアは仲良く夕食作りを進める。

 料理もできて魔法も使いこなせて美人でスタイルもいい。イリックは隙のなさに愕然とする。一瞬だが、仲間になってくれないものか、と考えてしまったが、女性が三人に増えたら胃に穴が開きそうだと気づき、青ざめる。

 体に密着するワンピースを着ている女性と長時間一緒にいたらそれこそどうにかなってしまう。アジールだけで精一杯なのだ、わがままを言ってはいけないと自分に言い聞かせる。

 イリックはもっそもっそとテントの設営を進める。今までのテントでは小さいことが判明したため、渋々テントを一回り大きな物に買い換えた。そのため少し手間取っているがすぐに慣れるだろう。

 すっかり日も暮れ、夕食も完成する。

 白い砂達の上に敷いた白いシートの上で、四人は皿を手に取り、マジックランプに向き合う。


「頂きます」

「いただきマンルルスカープ!」

「頂きます」

「?……頂きます」


 一人変なのがまじっているがイリックとアジールは気にしない。ロニアはぎょっとしていたが、周りの反応を見て察する。

 今日の夕食は、テホト村で買い込んだ野菜をふんだんに使ったヘルシーな献立だ。野菜系だけで何品あるのだろう? イリックはじっと数える。

 ガーウィンス風サラダ。

 グスータ菜のソテー。

 ロロトマトスープ。

 三品もある。別に構わないが。

 イリックは野菜にかじりつきながらも、せっせと肉をほうばる。ネッテが作らないような料理が盛り付けてあり、一瞬だが不思議に思う。しかし、すぐに理解する。きっとロニアが作ったのだろう、と。食べ慣れない味だが実に美味い。

 ネッテちゃんの腕もなかなかのものよ、とロニアが褒める。

 そんなことは知っているため、イリックは口を挟まない。そもそも料理は食べられればいい程度にしか考えていない。

 一時的な仲間もとい同行者を加えての夕食は盛り上がる。会話のほとんどはロニアとネッテに支配されており、イリックは時折頷くだけで料理を黙々と食べ続ける。無口なアジールも今日は聞くことに徹している。


「ご両親を八年前に……」

「うん! だけど寂しくないよ! お兄ちゃんがいてくれるし! 今はアジールさんも一緒だしね!」


 健気なネッテの笑顔がロニアとアジールの涙を誘う。


(もしかして、ネッテって年上キラーなのだろうか? 心の底からどうでもいいけど)


 イリックはその様子を眺めながら考察しつつ、トマトのスープをずいっと飲む。

 その後も会話は進み、あまり触れられたくない話題へ推移す。


「見回りの仕事を失ったから冒険者に……。なるほど。きっかけはどうあれ、夢が叶って良かったわね」

「うん! 早くなりたいな~」

「もうすぐなれる」


 ロニアは無職をチラリと見る。

 ネッテはガーウィンス風サラダを口に放り込む。

 アジールは頷く。

 三人は実に楽しそうだ。


「お、おかわりください……」


 イリックは恐る恐る皿を差し出す。初めて飲むロロトマトスープはとても美味しく、あっさりと飲み干してしまう。


「はい、どうぞ。それでねそれでね~」


 ネッテはそんなイリックを軽くあしらい、会話を続ける。姦しい。この言葉は本当のようだ。

 次の話題はサラミア港に戻ってからについて。

 イリック達は長旅に備えての準備を進めるつもりだ。その間、アジールはイリックの自宅に同居する。


(アジールさんが家に……。考えただけでドキドキするな)


 イリックの鼓動が高まるが、そもそもの言いだしっぺはイリックだ。

 一方、ロニアは一日ほど滞在し、西の洞窟を目指す。


 サラミア港の西には、ゴブリンの通り道と呼ばれる洞窟が存在する。しかし、誰も足を踏み入れることができない。理由は二つ。

 中に入ることを禁止されているから。

 そして、入り口にガーウィンス連邦国が五十三年前に張った結界が存在しているから。

 ロニアはその結界を自分の目で確かめたく、わざわざガーウィンス連邦国から訪れた。その目的ももうすぐ達成される。そう思うといてもたってもいられないが、結界は逃げないため、焦る気持ちはいくらでも抑えられる。


「サラミア港でお別れね」

「え~。次はいつ会えるの~?」


 ロニアが告げる悲しい事実にネッテが食い下がる。再開できるタイミング、それは誰にもわからない。


「そうね……。イリック、サラミア港からゴブリンの通り道までどのくらいかしら?」

「一日半から二日です。サンドスコーピオンやゴブリンに気をつけてくださいね」

「けっこう離れてるのね。となると、あなた達が冒険者になった後かしら?」


 そうなるだろう。ロニアの推測は的を得ている。

 イリック達は二日から三日の期間で出発するつもりだ。ロニアとは行き違いになってしまう。ロニアを待って再開してから出発しても構わないが、わざわざそんなことをする理由も見つからない。


「え~。一緒にデフィアーク行こうよ~」


 ネッテが理由を作り始める。

 イリックはそのバイタリティに震える。


「お兄ちゃん次第かしらね?」


 チラチラッ。イリックに視線が向けられる。


(ロニアさんはともかくネッテまで……。早く冒険者になりたいって言ってた癖に)


 その気持ちは今でも揺るがないのだろうが、ロニアと一緒にいたいという新たな気持ちも芽生えているのだろうとイリックは予想する。


「そもそも、用事が済んだら次はどうされるんですか?」

「実はあまり考えてないのよね。ゴブリンの通り道を見終わってから考えようと思ってたし。だから、デフィアークに行くのも構わないわよ」

「わーい!」


 まだ結論を出していないにも関わらずネッテが喜びだす。

 隣のイリックはどうしたものかと考えを巡らせる。

 ロニアにはロニアの都合や、やりたいことがあるだろう。ゆえに、自分達の旅に巻き込むわけにはいかない。自分達がデフィアーク共和国に向かう理由は冒険者になるためであり、しかもそこから先のことは何も考えていない。四人でデフィアーク共和国に向かったところで、その後どうするのか? 未検討にもほどがある。


(これはあれだな)


 イリックは決める。


「まだ時間はあるし、ロニアさんと話し合ってみるよ」


 先延ばしにする。サラミア港に到着するのは明後日の予定だ。相談する時間はいくらでもあるのだから、無理して結論を出す必要はない。そう思うことにした。


「そうね」

「ガッテン!」


 ロニアとネッテが賛同してくれたため、この話はとりあえず終わり。女性陣は早速次の話題で盛り上がる。

 そんな喧騒の中、イリックは考えを巡らせる。

 この話で最も重要なこと。それはロニアがどうしたいか、であり、それを打ち明けてくれればすぐに決まることなのだが、今はまだ話そうとはしてくれない。

 ロニアは一人旅でここまで来た。おそらく群れることは嫌いなのだろう。

 今回は目的地が一緒だったということから四人で向かうことになったが、それは成り行きであり、サラミア港に到着したら、そこからはロニアの生き方を尊重すべきだ。

 イリックはそんな結論を導く。



 ◆



 水魔法はなんて便利なんだ。

 一同は痛感する。これなら確かに、一人でどこにでも行けてしまいそう。

 魔法の習得は生まれ持った才能に左右されるため、イリックがどんなに妬んでもその行為に意味はない。

 夕食を済ませ、後片付けも完了し、一同は順に水浴びを行う。

 その水はどうしたか? 普段なら携帯している水の出番だが、今回は違う。ロニアがマジックポイントと引き換えに大量の水を作り出す。

 料理にも、水浴びにも、飲料水も、ロニアがいればまかなえてしまう。なるほど、魔法でモンスターを攻撃する後衛攻撃役が無駄に人気なのはそういうことか。イリックは一つ学習する。


「ロニアさん。お手数ですが水筒にお願いします」

「ええ」


 イリックは空になった水筒をロニアに差し出す。

 ロニアはさっと人差し指を伸ばし、皮製のすっかりしぼんでいる水筒の口に指先から水を注ぎ込む。


(なんかエロいな)


 卑猥な行為ではないのだが、イリックの鼓動が高まる。

 ロニアの体から水が流れ出ているだけでも何かを連想させるが、それが自分の水筒に入っていく光景は男を興奮させるには十分過ぎる。


「これくらいでいいかしら?」

「あ、はい。ありがとうございます」


 イリックは礼を述べ、早速ロニア水を口に含む。当然のように鼓動がさらに高鳴る。

 味は井戸水と大差ないが、ロニアの体から出てきた水というだけで辛抱堪らない。

 これも一つのプレイなのかもしれない。イリックは悟りを開く。煩悩全開だが。

 時刻は午後十時を過ぎた頃。

 白い砂が敷き詰められた周囲からはすっかりモンスターの気配も消え、耳を澄ませば暗闇の世界から虫の鳴き声が聞こえてくる。

 自分達の背後には、崖のようにそそり立つ岩山とそこをえぐる大穴が存在する。夜だとその威圧感はこれっぽっちも感じられない。

 足元にはアイール砂丘の名物とも言える白い砂が静かに夜を満喫している。日中は照り返しのせいでまぶしいこれらは、今はただの地面に成り下がっている。

 寝るにはまだ早いかもしれないが、昨日の今日ということもあり、イリックは早寝を検討する。

 誰かが提案すれば、残りの面々もぞろぞろと寝袋に入るだろう。

 全員がさっさと水浴びを済ませた背景にはそういった理由がある。

 空には数え切れないほどの星が黒い空を彩っており、星座に興味がないイリックですら吸い込まれるように見つめてしまう。

 赤い星。

 白い星。

 黄色い星。

 少し欠けている月。

 数える気にはなれないが、いつまでも眺めてしまう。

 柔らかな風が吹き始める。それでもアイール砂丘にしては大人しい風であり、肌がそっと撫でられるだけでむしろ心地よい。

 明日は何時に出発するか、実はまだ決めていない。早朝に出発すれば夜にはサラミア港に到着できるが、デーモンを出迎えたいという思惑から、あまり急ぎたくもない。


「お兄ちゃん、何か飲む?」


 静寂を破ったのは近くに座っていたネッテの声。イリックは水筒を理由にそれを断る。


「デーモン、どこ行ったのかな?」


 ネッテに続いたのはアジール。抱いて当然の不安を口にする。

 テホト村で戦ったデーモンは現在行方不明だ。イリック以外はデーモンの行動を全く読めていない。


「他の村を襲ってないといいわね。ところで、デーモンやアーリマン? そいつらのことを教えてくれたのはリンダって人だったかしら?」

「はい。ワシーキ村に住む錬金術師です。色々教えてもらいました」


 ロニアがリンダに興味を持つのは当然だ。

 デーモンを筆頭に、北の地に生息するモンスターの情報は国家機密に相当する。それを知っている人物がワシーキ村に住んでいる。好奇心の強いロニアにしてみれば最高の人物なのだろう。


「そういえば、アーリマン討伐の件はギルドに報告済み?」

「いえ? 必要なんですか?」


 ロニアの問いかけに、イリックはさらりと言ってのける。

 対称的にロニアはガクッとうな垂れる。


「モンスターの正体があれだからしておくべきね。もしかしたら、リンダって人がしてくれてるのかもしれないけど。デーモンや石像モンスターについてもしておくべきよ。サラミア港に着いたら真っ先にしましょう」


 テホト村ですべきだった、とロニアは後悔したが、数日のインターバルなどあってないようなものだろうと開き直る。


「ギルドに報告するとどうなるんですか?」


 イリックが当然の疑問を口にする。ワシーキ村やサラミア港のギルド会館に報告する意味がまだ見出せない。


「この案件だと、おそらくデフィアークのギルド会館に報告が行って、そこで今後の対応が検討されるはずだわ」

「それなら、デフィアークに行くついでにじゃだめなんですか? さすがにすぐには出発しないので少し遅れることにはなりますけど、そう大差ないような……」


 自分達が出向くのとギルド会館の職員が出向くとでは、せいぜい数日の差しかない。その程度なら、とイリックは考える。


「全てのギルド会館にはエレメンタルフォンが配備されているの。それを使えば、他所のギルド会館に一瞬で連絡ができるから、わざわざ海を渡る必要もないわ」


 エレメンタルフォン。十一年前にデフィアーク共和国の錬金術師が発明した画期的なマジックアイテム。離れた場所同士でも会話ができる通信アイテムであり、レアな素材を使うため量産には至っていないが、ギルド会館に配置する程度の量産には成功している。


 つまり、ロニアの言い分はこうなる。

 どこのギルド会館でも構わないから本件を報告しておけば、たちまち最も近い大国にも報告され、そこから他の二国にも伝わる。ゆえに、一刻も早くイリックはギルド会館に足を運ぶべきだ。


「そんな便利なもんが存在するんですね」

「魔法学校の先生は伊達じゃないのよ」


 驚くイリックに、ロニアは胸を張る。


(で、でかい……! 寝る前に見せつけられたら睡眠に支障が出そうだ)


 それでも凝視してしまう、それがイリック。


 魔法学校。ガーウィンス連邦国にのみ存在する、魔法専門の学校だ。

 この単語が出たことでネッテが矢継ぎ早に質問を投げかける。

 魔法を覚えるにはどうすればいいの?

 学校は楽しいの?

 お兄ちゃんはどうして魔法を使えるの?

 そんな質問を、ロニアは理路整然と説明していく。

 一方、盛り上がる二人を他所に、アジールは静かに考えを巡らせる。無口な人間の発言ということもあるが、その内容がガラリと空気を変える。


「あのデーモンが私達の前に現れたらどうする?」


 ピシャリと雑談が止む。

 ネッテはイリックに視線を向け、ロニアは眉をひそめる。

 イリックだけは、澄ました表情で水筒を口に運ぶ。


「倒します。近いうちにまたやってくるでしょうから、その時に」


 イリックは言い切る。それだけの自信も根拠もある。ゆえに、断言する。


「あんな化け物に? 次は私も加勢するけど、真っ先に殺される自信があるわ」


 ロニアが臆するのも仕方ない。

 デーモンは通常時でも手に負えない強さだった。にも関わらず、黒い魔力の塊をまとって戦闘力を高める。

 人間にはどうすることもできない、これがロニアの率直な感想だ。

 その上、次はマリィもコルコルもいない。あの時と比べて戦力は下がってしまう。絶望するのも仕方ない。

 しかし、イリックだけはそう思わない。

 理由は三つ。

 一つ。次の戦いではネッテが本調子。

 二つ。装備が一新された。そこらへんのモンスター相手でも刃こぼれするカッパーソードを卒業し、二ランク上の武器であるハイサイフォスに格上げ。

 三つ。これが本命。新魔法の存在。

 このことから、イリックは早くデーモンと再開したいとすら考えている。負ける要素が見つからない、と自信をみなぎらせる。

 デーモンは強い。その上さらに強くなる。そんな相手に勝つことなど普通の冒険者には不可能だ。しかし、イリックには勝算がある。ゆえに、立ち向かう。


「大丈夫です。誰も死なせません。あ、でも、怪我は……諦めてください」


 勝算はあれど、無傷というわけにはいかないだろうと予想する。戦闘終了後のキュアで勘弁してもらうしかない。


「か、かっこいい……。抱いて!」

「ちなみに間違いなく、あいつは俺達の前に現れます。これは百パーセントです」


 ネッテの戯言をイリックは無視する。そういう空気ではない。


「なんでそう言い切れるの?」

「あいつがそう言ってました。言葉ではなくて意思というか雰囲気で、ですけど」


 ロニアの質問にはぼんやりとしか答えられない。事実そうなのだから仕方ない。モンスターとのアイコンタクト。我ながら不思議な経験をしたものだ、とイリックは振り返る。


「それに関しては信じてあげるけど、どうやってあんなのを倒すの? 多分だけど、スピードもパワーも完全にデーモンが上回ってると思うわよ。その上頑丈だし」


 黒いオーラをまとったデーモンは、あらゆる面でイリックを上回る。ネッテすら太刀打ちできないかもしれない。それでも、新魔法を使えば対抗できる。この魔法はそういう魔法だ。

 しかしイリックはそれを明かさない。本番までのお楽しみ、と三人をじらす。


「大丈夫ですって。安心してください。さくっと倒してみせますよ。というか、もしかしたらネッテが一人で倒しちゃうかもしれませんし」

「そ、それほどでも~。って、無理」


 さすがのネッテもデーモン相手に勝算はないと感じている。謙遜などらしくないが、デーモンの強さはネッテすらも萎縮させる。


「まぁ、いいわ。今回はイリックを信じてあげる。どうせ救ってもらった命だし、あなたのために投げ打ってもあげるわ。ところで、まだ訊いてなかったのだけど、あなた達三人の中で一番強いのは誰なの?」

「ネッテです」

「お兄ちゃん」

「わかんない」


 見事に意見が割れる。


(このパーティ、実はダメなんじゃ?)


 リーダーとしての自信がいっきに消失する。


「兄妹の言い分はこの際無視するとして」

(無視されちゃうの!?)

「アジールはアーリマンとデーモンの戦いで二人の戦いを見たんじゃないの?」


 驚くイリックを他所に、ロニアは話を進める。

 イリックとネッテもアジールに視線を向ける。わかんないことはないだろう、と返答を求む。


「アーリマンはネッテが一人で倒しちゃったし、デーモンはあまりに強すぎてよくわからなかった」

「まぁ、私も見てたけど……。あれはもうモンスターの域を超えてたわね。それと互角にやりあってたイリックも大概だと思うけど。ネッテちゃんは本調子じゃなかったのよね?」

「うん! 足がやばかった!」


 限界を超えた全力疾走。そしてガーゴイルを一体討伐。さすがのネッテも、この後では本調子に戻ることはできなかった。


「本調子のネッテなら、あれと互角にやりあいますよ。もちろん、それ相応の武器を持ってることが前提ですけど。今回は俺もハイサイフォスなので、楽勝楽勝」


 イリックは一人で笑うが、誰も付き合ってくれない。いっそ新魔法のことをばらして賛同してもらいたくなったが、今は耐える。


「イリックの言い分ではネッテちゃんの方が強いらしいけど、ネッテちゃん的にはお兄ちゃんの方が強いのよね?」

「もちのろん! 本気出したお兄ちゃんには敵いません!」

「嘘つけ。才能の塊みたいなネッテに勝てるイメージがわかないぞ。第一、それじゃまるで、俺が本気出してないみたいな言い方じゃねーか」


 ロニアの問いかけにネッテは胸を張って言い切るが、イリックにはこれっぽっちも刺さらない。本気なら出すべき時に出している自覚がある。デーモンとの戦いにおいても、きちんと本気を出した。ゆえに、こうして生き延びている。


「全然出してないよね? デーモンと戦った時も、最初は本気じゃなかったし」


 ネッテがさらりと言ってのける。しかし、紛れもなく事実だ。

 実はイリック自身も違和感を感じていた。

 あの戦いにおいて、最初は手も足も出せず、回避に徹したところで体を斬られ続けた。ところが、途中から攻撃を受けることはほとんどなくなった。

 目が慣れたから。そう思っていた。

 一方で、体が軽くなったという自覚もあった。

 その理由はわからなかったのだが、ネッテの今の発言でぼんやりと察する。

 どうやら本気だと思っていたがそれは勘違いで、その先があるのかもしれない。デーモン戦ではそれを無自覚に発揮できたのかも、と。


「お兄ちゃんの本気、久しぶりに見ちゃった。惚れ直した!」


 最後の一言は余計だが、ネッテの言う通りらしい。むむむ、とイリックは口を尖らせる。


「ん~」

「キスの合図じゃない! 近寄るな!」


 ネッテの流れるような行為にイリックは恐怖する。


「器用なことで」


 ロニアは呆れるようにイリックを褒める。


「そんな変なことしてるつもりはなかったんだけど……」

「仕方ないよ。本気出さないと倒せないモンスターいなかったもんね。最後に本気出したのって、一年くらい前の私との模擬戦? 体なまってなくて良かったね!」


 毎日見回りをしていたのだからなまりはしないが、本気を出していなかった、という事実は本当のことで、イリックはしばらく呆然とする。


 イリックはアイール砂丘のモンスター以外と戦ったことがない。

 鍛錬を始めたのは七歳の頃。目的はアイール砂丘で釣りがしたいから。他人からすれば恥ずかしい理由かもしれないが、イリックにとっては非常に大事なことだ。それだけ釣りが好きなのだから。

 十一歳の頃、モンスターの討伐に成功する。その頃は一戦一戦が死闘だ。

 十四歳で、アイール砂丘に敵はいなくなる。最も強いサンドスコーピオンすら楽勝だ。もちろん武器はカッパーソードのままだ。

 すなわち、四年間前から本気を出す必要がなくなった。これだけ長いと、本気の出し方を忘れてしまっても仕方ないのかもしれない。

 もしくは、体力の消耗を抑える賢い戦い方を無意識に身に付けていたのかもしれない。どちらが正しいかは、イリック本人にもわからない。

 振り返ると、死闘だった赤ガニとの戦闘時も、真の意味で本気ではなかったかもしれない。

 デーモンに何度も殺されかけたことで、何より戦いに参加したネッテを守るために、イリックはリミッターのようなものを無自覚に解除する。

 我ながら器用なのか不器用なのか、よくわからない。

 しかし、自覚できた以上、今後は任意に本気を出すことができるはず。イリックはそう考える。

 そんな相手とは戦いたくないが、デーモンとの再戦は近い。その時はやるしかない。


「それじゃ、本気を出したイリックの方が強いってことでいいのかしら?」


 ロニアを結論を急ぐ。


「いやいや、それでもネッテの方が上ですよ。冒険者のロニアさんならご存知でしょ? 前衛攻撃役と後衛回復役とでは身体能力に開きがあることを」

「あぁ、それもそうね。って、イリックって後衛回復役なの?」

「……多分」


 断言できない自分が情けない。

 しかし、実は冒険者の一部はイリック同様、自分がどの分類に当てはまるのか、わからないまま冒険に繰り出している。

 なぜなら、自分がどこに当てはまるかを見極めるためには、多くの魔法や戦技の習得が必要だからだ。

 次の三つが最も顕著な例だ。

 盾役。

 後衛補助役。

 後衛回復役。

 これらには共通点が存在する。回復魔法を習得することだ。

 キュアを覚えたからと自分が後衛回復役だと決めつけ、喜び勇んで杖を購入し、仲間と冒険に出発した矢先で、敵の注意を自身に向ける戦技ウォーシャウトを習得した、という逸話も存在する。その人物は後衛回復役ではなく盾役だったということだ。

 分類によって、習得できる魔法や戦技の順番にはある程度傾向が存在する。

 盾役に当てはまる人間はウォーシャウトから覚えることが多い。

 後衛補助役は相手を弱らせる弱体魔法や味方をサポートする強化魔法から覚え易い。

 後衛回復役ならキュアから覚えることが多い。

 しかし、それすらも個人差が存在するのがこの世界の理であり、酷い話だが、後衛回復役に当てはまるにも関わらず、どれだけ鍛錬を積んでも回復魔法を一切習得できず、冒険者の夢を諦めたという実例も存在する。

 イリックは去年キュアを習得した。

 分類的には、後衛回復役の可能性が高い。もちろん、他の二つの可能性もまだ残っているのだが、剣の鍛錬にかなりの時間を要したことから、身体能力が低いとされる後衛回復役がしっくりくるのも事実だ。

 それにしては魔法の才能が壊滅的だが、それも才能の一種であり、残念ながら受け入れるしかない。


「まぁ、そんな分類分けは、身内だけで冒険をするあなた達には関係ないでしょうけどね」


 ロニアの言う通りだ。

 冒険の度に仲間を集う冒険者達なら、自分がどこに当てはまる人間なのか把握しておかねばならない。

 三人だけで冒険をする予定のイリック達にはどうでもいい話だ。

 イリックは片手剣と短剣で戦い、キュアを使える。

 ネッテは短剣二刀流で切り込む。

 アジールはウォーシャウトで敵を引きつけ、片手剣と盾で応戦する。時々両手剣を振るう。

 色々足りていない三人だが、今はこれで困っていない。イリックに至っては十分過ぎるとさえ思っている。

 キュアしか使えない後衛回復役。

 戦技が使えない前衛攻撃役。

 ウォーシャウトしか使えない盾役。

 贅沢を言える身分ではない。冒険者としては絶望的な状況だ。それでもイリックは構わない。自分達は自分達だけで冒険をするのだから。

 足りない部分を補うためにギルド会館で仲間を募集しても誰も参加してくれないだろう。逆に、募集があったからといって参加を試みても自分達は必ず断られる。

 そんな三人だけのぽんこつパーティだが、なぜか不安はない。どこまでも行けるという自信すらある。世界を知らないからそう思い込めるだけかもしれないが、今はそう思えているのだから、その気持ちを大切にして走り続けるつもりだ。

 誰が強いのか? 結局この話題はうやむやに終わる。

 しかし、この答えは翌日判明する。

 それでもイリックはネッテだと主張し続けるが、三人は納得するため、当分この話題は出なくなる。


 時刻は午後十時半。

 ゆっくりと睡魔が忍び寄っている。



 ◆



 コトン。

 即席のテーブルに空のコップが置かれる。

 静まり返った暗い空間に、この音はどこまでも伝わっていく。

 マジックランプを囲んでいるのは二人だけ。

 アジールとロニア。出会ったばかりの二人だが、衝撃的過ぎるその経験が強い結びつきを既に形成している。

 ここにいないイリックとネッテは睡魔に勝てず、今はテントの中で就寝中だ。

 もうすぐ日付が変わる。大人の時間と言えども深い頃合いだ。遠くから聞こえる虫の音も、どこか眠たそうに聞こえる。

 そっと吹いた風が首元まで伸びる茶色い髪をたなびかせる。アジールはそれをそっと押さえ、静かに風を楽しむ。

 コップの中身を飲み終えてしまった。アジールはロニアに視線を向ける。


「まだ寝ないの?」


 アジールの声は透き通っているように響く。普段から声量は小さいのだが、聞き取れるのはそのおかげだ。

 そんな声に反応して、ロニアはそっと顔を向ける。


「そろそろ寝ようかしら? 明日の朝もゆっくりするそうだから、つい夜更かししちゃったわね」


 イリック曰く、明日の出発予定時刻は早くても午前九時。寝坊もたいして問題にはならない。

 普段の旅と比べると随分遅い出発だが、今回はデーモンとの遭遇を目当てにゆっくりと進行する。

 明日中に再開できれば御の字。

 明後日でも午前中なら問題無し。

 サラミア港到着は明後日の昼前後だ。それまでに戦っておきたいとイリックは願っている。

 とは言え、そこまで都合よくことが運ぶとは思っていないため、どうしたものかと頭を抱えたまま、ネッテと共にテントへ向かった。


「一人旅って大変だよね」


 アジールはその目でじっとロニアを見つめる。言いたいことはあるが、それを言うつもりはない。


「そうね。魔法を使えるし、気楽に自分のペースで進める気楽さもあるけど、やっぱりしんどいわ」


 モンスターを一人で倒せる実力者のロニアをもってしても、この旅路において仲間を求めたことは一度や二度では済まない。

 人肌が恋しいわけではない。頼れる人間が側にいない。その事実が不安を増大させる。


「私もデフィアークからワシーキ村までだったけど大変だった」


 アジールはデフィアーク共和国からサウノ商業国を目指した。定期船で海を渡るという選択肢もあったが、一人旅を経験するために、徒歩での陸路を選ぶ。

 目的はもちろん仲間を求めて。そのために、少しでも強くなろうと思った。


 デフィアーク共和国からサウノ商業国までの道のりは長い。

 枯れた土地がどこまでも続く緑の少ないグフータ原野。

 二本の川が土地を豊かにしているマンルルス盆地。

 北と南で高度が大きく変わる、大きな山のようなカルック高原。

 デフィアーク共和国から中間地点のカルック高原まででも、これだけの土地を移動しなければならない。

 サウノ商業国には、さらにヘキン草原とロロ平原を越えなければならない。

 徒歩だとおよそ十五日。

 定期船では一日。

 ゆえに、普通は定期船を選ぶのだが、アジールは果敢にも徒歩での移動を敢行する。

 その結果、運命の仲間に出会えたのだから、アジールは勇気を出してよかったと心の底から喜んでいる。

 しかし、道中は過酷な道のりだった。

 ワシーキ村まではおよそ十日かけて移動したのだが、食糧が尽きかけたり、体調を崩したりで散々だった。

 モンスターとの戦闘は問題なく、なぜなら、グフータ原野、マンルルス盆地、カルック高原に生息するモンスターはそれほど強くない。

 アジールでもさほど苦戦せずに倒すことができる。

 ウォンテッドモンスターと呼ばれる厄介なモンスターは例外だが、そもそもそういった固体にはなかなか遭遇できず、会おうとしても普通は会えない。会いたくない時に会えてしまったりもするが、アジールはそこまで不運ではないらしい。


「でも今はこうして仲間に巡り会えたのだから、良かったじゃない」

「ロニアさんは仲間を募集したり呼びかけに応じたりしないの? 私と違って、実力は確かなんだし」


 一方はウォーシャウトしか使えない盾役。

 もう一方は水魔法を得意とする後衛攻撃役。

 雲泥の差だ。

 ロニアなら、後衛攻撃役を募集しているパーティに歓迎され、一、二戦で実力を認められるのは間違いない。


「言い寄ってくる男はいたんだけどね。どうもその気になれなくて」


 ロニアは自虐的に微笑む。

 ロニアはただそこにいるだけで男達に注目される。

 顔、体、どちらも類稀であり、もちろん顔は好みによりけりだが、体に至っては服装も相まって例外なく男達の視線を独占する。

 魔法学校の先生から冒険者に転向した直後は、ガーウィンス連邦国のギルド会館が普段以上に賑わうほどだった。水魔法に特化しているが、その実力は折り紙つきの美人が現れたのだから当然だ。

 男達が自分達のパーティに誘わない理由はなく、しかし、ロニアは例外なくそれらを断り続ける。

 頭が悪そう。

 目つきがいやらしい。

 生理的に受け付けない。

 そんな理由で。

 理由は様々だが、とにもかくにも頭の悪さが鼻についた。

 二枚目で教養のあるリーダー気質を兼ね備えた男もいたが、それでも自分より頭が悪く見えてしまい、あっさりと拒絶する。

 イリックはどうかと言うと、なかなか難しい。

 見た目は悪くないが、どこか頼りない。しかし、実は女性の母性本能を刺激するタイプだ。

 サラミア港に学校はないため、教養は少なめ。

 頭の回転は良い方だが、知識不足がネックになっており、結果ネッテよりは頭が良い程度に落ち着いている。

 つまり、頭の良さを、良い、普通、悪いの三段階で評価した場合、イリックはネッテほどではないが、悪いに当てはまる。

 この時点でロニアにとっては落第な男だ。魔法学校の先生を勤めるほどのエリートと比べる場合、この大陸の男はほぼ全てが対象外になってしまうのだが。

 自分の判定基準がおかしいのは承知しているが、それでもロニアは男を見下してしまう。

 しかし、イリックにはどこか気を許せてしまう。

 ネッテというかわいくて仕方ない妹のような存在がクッションになっている点も大きいが、なにより命を救われたこと、そして、自分を殺そうとしたモンスターに復讐するチャンスを与えてくれたことが理由に挙げられる。

 頭は悪そうというか悪いが、ここまで恩を受けてしまっては、心を開かざるをえない。

 イリックはそういう存在と言える。


「そうなんだ」


 アジールはロニアの高飛車な考えにこれっぽっちも共感できない。

 盾役もしくは前衛攻撃役を募集している冒険者に何度となく声をかけた。しかし、ほぼ全てで断られた。実力が足りないのだから仕方ない、と一度は諦めた。

 持たない者にはロニアが言っていることは贅沢に聞こてしまう。それも仕方ない。選り好みできるロニアとそうでないアジールとでは根底からすれ違っている。

 二人の間に夜風を呼び寄せる静かな時間が訪れる。

 そろそろ寝よう。アジールがそう思った時だった。


「ところで、あなたのその目、何ともないの?」

「ん、別に」

「そう。ならいいのだけど」


 ロニアはぼかして問いかける。

 アジールの目は特徴的だ。

 黒い瞳孔部分に赤い線で円が描かれているのだから、誰が見ても普通ではないと気づく。しかし、目としての働きは他人と大差なく、現にアジールはこの目で困ったことはない。子供の頃、不気味がられたことくらいだ。

 イリックやネッテにはかっこいい、かわいいと褒められており、むしろ最近では気に入っている。こんな感情を抱けたのは初めてであり、そういう意味でもこの二人と仲間になれて良かったと思っている。

 自分の目を受け入れたことで何か変化が訪れそうな気さえしているが、それが何なのか、今はまだわからない。

 一方、ロニアはアジールの目について既に気づいており、しかし、以前古書で読んだことがある程度の知識なため、憶測で話すことを避ける。

 何ともないならそれでいい。そもそもデメリットのある目ではない。ゆえに、ロニアは黙ることを選択する。


「それじゃ、寝る」

「私もそうしようかしら」


 二人は出来合いの椅子から立ち上がる。


「おもしろいもの見れる」

「何?」


 やさしい表情のアジールに、ロニアは早く教えろと催促するように視線を向ける。

 アジールはマジックランプを手に取り、静かにテントへ向かう。


「これ」


 テントの入り口がそっと開かれる。ロニアはどれどれ、と中を見つめる。そして、その表情はやさしく微笑み始める。


「ここまで仲良いとはね。寝袋が足りてないの?」

「ううん。こうしたいからこうしてるんだって。あ、もちろんネッテが」

「でしょうね。イリックもよく許したわ。ずっとこの調子?」

「この旅を始めてからこうらしい」


 二人は見つめる。

 一つの寝袋で寝ている、仲睦ましい兄妹の寝顔を。



 ◆



 照りつける日差しが瑣末に思えるほど、足元からの照り返しが眩しい。これもアイール砂丘の名物の一つだ。

 どこまでも敷き詰められている白い砂達が、これでもかと言うほど太陽の日差しを反射させる。むしろ増幅してるようにさえ思える。

 これを嫌ってここに近寄らない冒険者や商人も多く、イリックも実はこれが嫌いである。


(眩しい……)


 そう、目が痛いほど視界は真っ白くなる。


「何これ……。帰りたくなってきたわ」


 ロニアは愚痴る。

 目を細めても美人は美人だとイリックは学習するが、この知識はあまり役立ちそうにない。


「眩しいよねー!」


 発言とは裏腹に、ネッテは随分と楽しそうだ。目が良いばかりか、こういったことにも免疫がある。

 四人は西に向かって歩く。白い砂がさくさくと四人分の足音をたてており、少しだけ心地よい。

 遥か前方には小さくオアシスが見えており、白い大地にぽつんと存在する緑はアイール砂丘の風景に全く溶け込めていない。

 今日の目的地はオアシスであり、そこを越えればサラミア港まで後少しだ。

 昼食は先ほど済まし、四人の体には活力がみなぎっている。しかし、イリックとロニアのやる気は照り返しのせいで急降下する。

 ネッテとアジールだけは元気に歩く。


「さっさとあそこで休みたいわ」

「後二時間くらいかと。がんばりましょう」


 やる気のない二人が慰めあう。

 今日は一段と晴れ渡っており、頭上には大きな雲が一つあるだけ。その雲は太陽を隠そうとはせず、随分と離れた場所でイリック達を見下ろす。


「明日にはサラミア港だけど、それからのことは考えてるの?」

「ん~」


 顔をしかめるロニアからの質問。イリックはどうしたものかと考える。

 やるべきことは決まっている。長旅の準備を進めて、デフィアーク共和国に出発する。しかし、ここに来てすぐには出発できない理由が存在していることに気づく。

 マリィとコルコルとの再開。

 デーモンとの再開。

 この二つは欠かすことができない。

 そもそもの前提として、長旅の準備は一日二日では終わらない。

 ギルド会館に手ごろなクエストがあるのなら、アジールがいるためそれをこなして金を稼ぐこともできる。デフィアーク共和国では出費がかさむと予想される。所持金はいくらあっても足りないくらいだ。


「先ずは掃除をして、それから後のことはネッテに任せつつ、アジールさんと少し金策に励もうかと思ってます」


 アジールが同居する。それに伴い、空き部屋の掃除や物置になっている部屋から使えそうな家具をひっぱりださなければならない。

 それだけでも一苦労だが、その後、近隣の住民に長旅に出る旨を伝えねばならず、そういったことはネッテに押し付けるつもりでいる。

 町長への報告はイリックが済ませ、その後は金を稼ぐ。

 以上のことを何日かけてやるか? そこまでは考えていない。考えてもわからない、が正しいかもしれない。


「ロニアさんはすぐに出発ですか?」

「一日だけゆっくりするわ。サラミア港の食事でおすすめって何?」


 サラミア港の西に存在する洞窟、通称、ゴブリンの通り道。

 どんな結界が張ってあるのか、ロニアは考えただけでもうずく。しかし、眩しい照り返しのせいでそんな気持ちはたちまちしぼんでいく。目的地は目と鼻の先だが、何とももどかしい状況だ。


「もちろん魚料理です。イサシ丼やサラミア風サラダあたりは絶品ですよ」


 イリックは溢れ出る涎を飲み込みながら、その後もサラミア港のアピールポイントをロニアに伝え続ける。

 その結果、説明するイリック自身が衝動にかられる。オアシスで一泊せずに、急ぎ故郷へ帰りたくなるも、そうもいかないのがこの旅の実情だ。

 ネッテはアジールと、イリックはロニアと談笑を続ける。その結果、気づけばオアシスに到着する。

 時刻は午後四時。

 野営の準備を始めるには丁度いい時間だ。

 イリックは張り切って前進する。

 オアシスを構成する木々をするすると抜けていき、四人は目的の場所に辿り着く。

 オアシスの中央に存在する小さな湖。

 今ならマンルルスカープの姿もよく見える。


「ゆっくりしながら最後の一夜を迎えましょう」


 今から迎える夜がこの旅最後の夜だ。明日の昼前後にはサラミア港に到着する。

 デーモンはまだだろうか。そんなことを考えながら、イリックはテントを組み立てる。

 イリック以外は望んでいない悪夢のような願いは、太陽が沈み始めた頃合いに叶ってしまう。

 テントの設営を終え、釣りを満喫していたイリック。

 夕食の下準備を進めるネッテ。

 見回りから戻り、イリックの釣りを眺めるアジール。

 全員の飲み水を自慢の魔法で補充中のロニア。

 四人はそれぞれの反応でそれの接近に気づく。テホト村で感じた、背筋が凍り、そのまま砕けてしまいそうな重圧がオアシスを飲み込む。


「さぁ、来た来た~」


 うれしそうにイリックは釣竿を手繰り寄せ、せっせと戦闘準備を開始する。


「今度はやっつける!」


 ふんす! 鼻息荒く短剣を腰につけて、ネッテもイリックに続く。


「ほんとに来た」


 驚きと恐怖を抱きながらも、アジールはイリックの隣を歩く。


「どうなることやら。期待してるわよ、イリック」


 死ぬかもしれない。どうにかなるかもしれない。そんな気持ちをごちゃ混ぜにしながら、ロニアは最後尾を歩く。

 一同は寒気を振り払いながら殺意の発生源を目指す。オアシスを抜けると、周囲に広がる白い世界は真っ赤に染まっていた。

 照り返しが鬱陶しいだけの日中とは異なり、赤とオレンジが溶け合っている光景は人間を虜にする。

 しかし、感傷に浸っている場合ではない。

 前方の盛り上がった砂丘から、真っ黒い影がこちらを見ている。夕日に染まった世界よりも真っ赤な目が仰々しい。


「作戦を伝えます」


 イリックが口を開く。普段はこんなリーダーらしいことを言わないのだが、この状況がイリックをそうさせる。


「アジールさんはウォーシャウトを控えめで。というか、ネッテがやばくなったら使ってあげてください」

「わかった」


 アジールは敵を見据えたまま頷く。


「ロニアさんは、できればデーモンが孤立したタイミングだけ攻撃してください。水の粒は効果がないでしょうから、槍でお願いします」

「戦いの邪魔するなってことね。やるだけやってみるわ」


 自身の魔法が混戦には不向きだとわかっているため、ロニアも素直に承諾する。


「ネッテは攻撃よりも回避に集中するように。それと、黒いオーラをまとったら近寄るなよ」

「ガッテン!」


 シンプルながらも作戦の伝達はあっさりと完了する。

 イリックは先頭を歩くように前進を開始する。

 ネッテもすぐに隣を進む。

 それを合図に、デーモンも赤い世界を歩き始める。

 黒い体から発せられる殺気は以前と変わりなく、ただそこにいるだけで周囲の人間を殺してしまいそうなほど刺々しい。

 アジールとロニアはデーモンが近寄ってくる度に、自分達の死も近づいていると悟り、思わず足がすくんでしまう。

 漆黒のプレッシャーを周囲に撒き散らしながら近づいてくる長身。それに一切怯むことなく、兄妹は前進を続ける。

 イリックは背中のハイサイフォスに手を伸ばす。片手剣にしてはやや太いが、そこが今は頼もしい。やや黄色がかった黒い刃も、デーモン相手に引けをとらないと雄弁に語っている。

 ネッテは腰の短剣二本をさっと抜く。

 リンダから譲り受けたエイビスが夕日の光を反射させる。

 マリィから譲り受けたビーニードルは軽すぎて困るくらい。

 デーモンは右手の片手剣をだらんと垂らし、砂を削りながら歩みを進める。

 三人の距離が縮まる。

 三十メートル。さすがに遠い。アジールも遅れて前進を開始する。

 二十メートル。まだ遠い。しかし、デーモンのキルゾーンはもう目の前だ。イリックは相手の強さを再認識し、ゾッとする。後方ではロニアが魔法の詠唱を開始する。

 十メートル。ネッテなら攻撃を開始できる距離だ。そうしないのは警戒しているからであり、今はまだ、じっくりとその時をうかがっている。

 五メートル。限界は過ぎている。それでも前進する。

 二メートル。そして動き出す。

 最初に弾けたのはネッテ。足場が砂であることを感じさせない速度で、デーモンの背後に移動する。

 それを警戒していたのか、それとも反応しきったのか、デーモンはすかさず黒い片手剣を振り抜く。


「わわっ!」


 体を後ろに反らし、ギリギリセーフの回避行動。そのまま倒れて尻餅をつきでもしたら、追撃で瞬く間に殺される。ネッテはすぐさま体勢を立て直し、一旦後方に下がる。そんなミスを犯さないところが天才と言える。

 このままネッテに狙いを定めてくれれば楽なのだが、そうはいかない。ネッテと挟撃できる配置になったにも関わらず、イリックは後方に跳ねる。

 デーモンの左手がこちらに向いたからだ。

 手のひらから繰り出される衝撃波を出し惜しみせずに撃ってくれればイリック的には楽なのだが、無駄撃ちをしないあたりにデーモンの学習が感じられる。

 右にはネッテ。左にはイリック。両者はじわりと距離を詰める。

 ネッテが先に動く。飛びかりながら短剣を突き刺そうとする。しかし、そこにデーモンはいない。

 ネッテが動くと同時に、デーモンがイリックに襲いかかる。力任せに振り下ろされる漆黒の片手剣を、イリックは受け止めようか避けようか一瞬迷ってしまう。

 ハイサイフォスは買ったばかりだ。正確にはもらったばかりだ。傷つけたくない、もったいない、と考えてしまい、結果躊躇する。

 その迷いが対応を遅らせるが、イリックは普段よりも速く回避してみせる。これがネッテの言っていた本気の壁だ。

 デーモンは右へ、左へ、片手剣を振りぬく。

 イリックはそれらを下がりながら回避する。

 動きはデーモンの方がわずかに速く、イリックの体に刃が届くのも時間の問題に思えた。

 後一歩、足を踏み出せばイリックに攻撃が届く。そのタイミングでデーモンは片手剣を振り上げたまま動きを止める。

 なぜか? ネッテの接近に誰よりも早く気づいたからだ。

 足音を立てないよう、いっきに跳躍したネッテがデーモンの背中に短剣を振り下ろす。片手剣での迎撃は間に合わせない。まさに絶妙の斬撃。

 しかし、ネッテがセンスで戦うなら、デーモンはそれを上回るスピードで対応する。

 素早く転進し、片手剣を盾のよう使う。ネッテの短剣は黒い片手剣の刃であっけなく受け止められる。


「うっ!?」


 見つめ合う両者。

 ネッテは唸り声を上げてばかりだが、デーモンがそれだけ強いということだ。

 ネッテはデーモンの体を蹴り飛ばし、一旦後退する。まとわりつくような攻防を繰り広げようと思える勇気は持ち合わせていない。

 仕切りなおし。

 イリックとネッテは再びデーモンを見据える。

 二人に挟まれたデーモンは、怯むことなく両者の出方をうかがう。

 兄妹が何の合図もなしに動き出す。

 イリックは片手剣を左に向けながら走る。

 ネッテは両手の短剣を立てながら駆ける。

 まさに挟撃。どちらかに対応すればもう一方にやられる。しかし、これでもまだ届かない。

 デーモンはギリギリまで両者を引き寄せ、一瞬にしてその場から消え去る。

 結果、兄妹はお見合いとなる。

 イリックは片手剣を止めるのが精一杯。体がそのまま突き進む。

 ネッテは慌てて短剣を頭の上に持っていく。兄を刺すわけにはいかない。さらに、激突を避けるため減速するも、それはさすがに間に合わず、仕方なくぴょんと跳ねる。

 飛んだ先は大好きな兄の顔。ネッテは見事イリックの顔に抱きつく。普段でもこんなことは早々させてもらえない。


「ああ~ん。もう離さな~い」

「前が見えん。はよどけい」


 こんな時でもブラコン、それがネッテ。

 イリックはぐいっとネッテを引き離し、デーモンと相対する。律儀に待ってくれたことには感謝だが、実はネッテに迎撃させるつもりでいた。思惑通りに動いてくれないデーモンに、イリックはやきもきする。

 それでもデーモンの孤立には成功する。今が絶好の攻撃チャンスだ。イリックはじっと佇む。

 螺旋を描く刃で敵を貫くため、水の槍が発射される。

 一発、二発。

 虚を突かれたのか、回避行動のとれないデーモンにロニアの槍が命中する。


(やったか?)


 イリックの予想は水槍のように砕け散る。

 一発目は片手剣であっさりと対応される。

 二発目に至っては、さっと避けた上に左手でガシッと柄を掴まれてしまうた。

 ロニアが目を見開いて驚いているが、それはネッテとアジールも同じだ。

 イリックだけは涼しい顔でその様子を眺める。

 デーモンが強く握ると、水の槍はただの水となって零れ落ちる。


「この時点でこれじゃ、もうお手上げよ」


 ロニアが匙を投げる。諦めてはいないが、自分の出番がないことを宣言する。

 デーモンが濡れた左手を振り払う。そして、予備動作も無しに急加速する。狙うは並んで立っているイリックとネッテ。

 二人の足元の砂が爆発したように舞い上がる。デーモンが叩き付けた片手剣によって、イリック達が立っていた地点の砂が大量に宙へ舞う。

 回避行動はギリギリ間に合うもとっさのことで後方に跳ねてしまったことが凶と出る。

 デーモンの左手がネッテに向けられる。

 滞空中ゆえ、ガードはできても回避は不可能だ。ネッテは目に見えない衝撃波によって後方へ吹き飛ばされる。


「キュア」


 ネッテが射程外に吹き飛ぶ前に、イリックはすかさず反応する。左手の衝撃波をもろに受けてしまったネッテに、イリックはほぼ同時に回復魔法を唱える。

 デーモンはイリックの行動にいちいち腹を立てない。この程度は想定の範囲内だ。

 一方、アジールとロニアはイリックの今の行動に目を疑う。

 ただの回復行為だが、それにしては早すぎる。


 通常、後衛回復役は傷ついた仲間を認識し、それから詠唱を開始する。そして魔法を発動させる。

 すなわち、次のような工程を必要とする。


 モンスターが仲間を攻撃。

 仲間が傷を負う。

 回復役がそれを認識。

 回復役が回復魔法の使用を決断。

 回復魔法の詠唱を開始。

 回復魔法の詠唱が完了。


 しかし、先ほどのイリックはさも当たり前のように次のことをやってのける。


 モンスターが仲間を攻撃。

 回復魔法の詠唱を開始。

 仲間が傷を負う。

 回復魔法の詠唱が完了。


 判断が早いという次元ですらない。

 モンスターの行動に超反応するか、先読みしなければ不可能な行為だ。

 同じ魔法系統の冒険者として、ロニアは恐怖する。イリックは当然のようにやってのけたが、こんなことは普通できない。キュアしか使えないから魔法の選択を迷わない、というメリットを活かしているのかもしれないが、それにしては早すぎる。何より、ネッテが被弾する前から詠唱を開始している時点で人間としておかしい。

 イリックはアイール砂丘で苦戦せずモンスターを倒す生活を送ってきた。にも関わらず、今の行動はまるで、日々、死闘を潜り抜けてきた人間にしかできないそれである。

 なぜイリックはこんなことができるのか? ロニアには検討もつかない。

 答えは至ってシンプルだ。キュアしか使えない以上、イリックはキュアを最大限活かす戦い方をイメージトレーニングし続けた。そして、それがネッテを守ることに繋がるだろうとも考えていた。

 命に関わる攻撃を受けた際に、即座にキュアで回復できれば、一命を取り留めるかもしれない。ただただそれだけのことだ。

 ネッテほどではないが、イリックも長年の鍛錬でかなりの身体能力を身に付けている。イメージトレーニングと高い身体能力が合わさったイリックだけの特技と言える。


「ぶえっ!」


 地面に叩き付けられ、ネッテが女の子らしからぬ悲鳴を上げる。

 これでイリックとデーモンは一対一。ぱっと見はそう見える。しかし、舞い上がった砂埃を切り裂くように、仲間が参戦する。

 防御を捨てたアジールが、リーチの長い両手剣、ダーククレイモアを振りかざす。

 アジールはこう考える。

 片手剣と盾で攻撃に参加したところで、自分はこれっぽっちも役に立てない。前回の戦いでそう学んだ。

 防御を捨てて攻撃に特化したところで貢献できるとは思えないが、盾で自分を守りながらよりは幾分マシと考える。そもそも、ダメージを受けたところで怯むことはない。そのための痛覚遮断だ。なにより、イリックが回復してくれる。

 そして、もっとも重要なこと。それは、リーチの短い片手剣や短剣ばかりと戦っているデーモンが、長身の武器に一瞬でも驚いてくれるかもしれない、その可能性。

 隙を作れればそれでいい。その後はイリックが何とかしてくれる。そう信じ、アジールは片手剣の倍近くの長さを誇る黒い両手剣を振りぬく。

 当然、その攻撃は素振りの如く空を切る。しかし、デーモンがそのリーチを警戒し、大げさに避けたことはアジールの手柄と言える。

 その隙を見逃すはずもなく、イリックは背後から黒い刃を叩き込む。ハイサイフォスがデーモンの右肩を切り裂き、そのまま下へ突き進む。

 これでトドメになると確信したイリックだったが、そういえば奥の手があったな、と自分の迂闊さに呆れる。

 体を切り裂く片手剣が途中で止まる。イリックの力ではそれ以上動かない。なぜ? 考えるまでもない。デーモンが左手でハイサイフォスの先端を掴んでいるからだ。

 途端、黄色がかった黒い刃の先端が砕かれる。そればかりか、恐れていた攻撃をこのタイミングで繰り出されてしまう。

 デーモンの体を中心に半透明な黒い球体が出現する。それはいっきに拡大する。

 アジールは防御の姿勢にも移行できず、直撃を受け吹き飛ばされる。痛みは感じないが、両腕が折れてしまう。こうなっては両手剣を持ち上げることもできない。

 イリックは左腕で顔を守りはしたが、大きく後方へ吹きとばされる。地面は砂であり、衝突の被害はないが、アジールのように左腕が使えなくなる。間髪入れずのキュアで死は免れたが、それよりもハイサイフォスが折れてしまったことが致命的だ。買ったばかりの、もとい、もらったばかりの片手剣はもうボロボロだ。


「ど、どうするのよ?」


 ロニアは一歩下がる。見るのは二度目だが、それでも恐ろしいものは恐ろしい。


「イリック……」


 アジールは立ち上がれない。痛みを感じていたらとっくに気絶してしまうほどの傷を負っている。

 イリックは手元のハイサイフォスを眺める。刃の先端が砕かれている。デーモン相手にはもう使える武器ではない。代わりが必要だ。


「ネッテ! リンダさんの貸してくれ!」

「ガッテン!」


 紫色の柄と銀色の刃がグルグルと回転しながらイリックの元へ向かう。こういう時は鞘に入れて投げなさいよ、と言いたくなったが、今更なため、今回は黙って受け取る。

 パシッと掴み、じっと見つめる。やはり業物だ、刃こぼれ一つしていない。

 イリックはついでにデーモンに視線を向ける。

 予想通り、黒いオーラを身にまとっている。右肩の損傷が痛そうだが、それを作ったのはイリック自身だ。


(んん?)


 デーモンが傷にそっと手を添える。痛いから押さているのだろう。イリックの予想はまたも外れる。

 黒いオーラが激しく揺れ始める。やがれそれは収縮し、デーモンの体に何かをもたらす。

 時間にして十秒程度だろうか? オーラのサイズは元に戻り、黒い体を包みながらもやもやと動く。

 それと同時に、傷を押さえていた手がどけられる。あるはずの傷痕が消えている。

 そういう芸当もできるのか、とイリックは感心するが、デーモンの様子がどこかおかしい。随分と消耗しているように見える。息は荒く、少しだけ色っぽい。


(あぁ、傷の治療は奥の手なのね。随分スタミナを消耗するようで……。まぁ、どうせ短期決戦だから些細な問題だな。お互いに)


 イリックの推測通り、デーモンはいっきに疲弊した。

 黒いオーラをまとうことで、マジックポイント全てと引き換えに自己回復が可能となる。モンスターと言えども、マジックポイントの枯渇は疲労に繋がってしまう。もっとも、向上した戦闘力が衰えるわけではなく、ここにいる人間全てを殺すには十分だ。


「ガァ……」


 デーモンが大きく息を吐く。アクシデントはあったが、それのリカバーも完了。後は順に人間を始末するだけ。そう判断し、イリックに狙いを定める。真っ先に倒さなければならない。そう理解している。

 一方、イリックはもう一度キュアを唱える。左腕の回復には足りないが、体の痛みは幾分消え去る。何より、右手が使えるのならそれで構わない。武器はエイビス一本しかないのだから。


「じゃあ、再開といこうか」


 イリックが短剣を構える。

 それが引き金となり、デーモンが行動を開始する。

 一歩目を踏み出すように、デーモンがイリックとの距離を一瞬で詰める。その動きはあまりに速く、視界に捉えることができたのはネッテだけ。アジールとロニアには消えたとしか識別できず、イリックもかなりギリギリだった。

 しかし、ギリギリであろうと余裕があろうとどうでもよく、間に合ってしまったのだから勝負はこれまで。

 良い戦いだったが、これで終わりにする。これから仲間にキュアをかけて周らなければならない。やるべきことがある以上、デーモンには退場願う。


「コネクト」


 その詠唱は一瞬で完了する。

 途端、世界から色が薄れていく。

 ここは夕日に染まった赤いアイール砂丘。しかし、今はどこか灰色がかっている。

 静寂を越えた無音状態も非現実的だ。

 色あせてはいるが、そのままの色を保つ存在もいくつか存在する。

 目の前のデーモン。

 遠くで目にハートマークを浮かべているネッテ。

 伏したまま、こちらを見ているアジール。

 絶望の表情を浮かべているが、それでも美人なロニア。。

 その四人は色を保っている。保ってはいるが、保っているだけとも言える。

 動かない。瞬き一つしない。目の前のデーモンに至っては、空中で静止している。

 イリックの頭に振り下ろされている黒い片手剣も、眼前で停止してる。次の瞬間、頭がスイカのようにパンと割られてしまうだろう。本来ならそうなるはずだった。

 そう、今は振り下ろされない。止まっているのだから。

 この空間で動ける存在はイリックだけ。腕が動く。首も動く。体も動くだろうが今はそれより先にすべきことがある。

 イリックの腹から白い紐のようなものが伸びている。紐と呼ぶには太いため、ロープなのかもしれないが、それはグネグネとどこかへ伸びている。

 その紐を辿ると、ネッテに辿り着く。イリック同様、ネッテの腹部に接続しているそれは、イリックとネッテがこの魔法で繋がったことを意味する。


 コネクト。リンダが発明し、ネッテに飲まされた液体によって習得できた魔法。

 マジックポイントの消費は無し。マジックポイントが子供並のイリックでも扱える親切な魔法だ。

 詠唱時間も非情に短く、無詠唱に等しい。そうでなければ、イリックの頭は今頃かち割られてる。

 唯一の欠点であり、この魔法が魔法とは思えない根拠の一つに、再使用時間の長さが挙げられる。

 イリックの頭では、詠唱完了の直後から、再使用に向けてのカウントダウンが始まっている。

 44分59秒、44分58秒……。すなわち、この魔法の再使用時間は45分。

 ありえない。まるで戦技のそれだ。否、これほど長い再使用時間を持つ戦技は存在しない。

 通常、魔法の再使用時間は数秒から数十秒と言われている。強力な魔法ほどそれは長いのだが、それでも一分には至らない。唯一、三分もの時間を必要とする魔法が存在するが、それを習得できている人間は非常に少ない。

 戦技の場合、十秒から三十分とブレはあるが長い傾向にある。マジックポイントを消費しない弊害なのか、とにかく魔法よりも随分待たされる。

 この魔法はそういう意味では戦技に当てはまるのかもしれない。マジックポイントの消費がなく、再使用時間が長い。これだけ見れば完全に戦技だが、一瞬だが詠唱が必要ということから、これはやはり魔法らしい。

 何より、脳がこれは魔法だと理解している。イリックとしてはどちらでも構わないのだが、コネクトの発動は成功だ。

 その結果、時が止まっている。

 これは時を止める魔法? そうではない。これはただの副産物でしかない。本当の効果は別にあり、それを裏付けるようにイリックは今、ネッテと白い紐で繋がっている。

 ネッテとの接続はどこか心地よさすら感じてしまうが、相手は妹なため深く考えない。どうせなら胸の大きい女性と繋がりたい。まっ平らには興味ない。なぜならイリックは巨乳好きだ。


 時が止まって既に二秒。時間は進んでいないが二秒経過。後何秒で世界が元通りになる? どうやら後一秒らしい。感覚的にわかってしまう。

 つまり、一秒経過したら頭上の片手剣が頭をかち割ってしまう。それはよろしくない。倒してみせると言い切った手前、倒されてしまっては格好がつかない。

 ゆえに行動を開始する。

 ここからが本領発揮だ。


「アサシンステップ」


 その声は誰にも届かない。独り言のようにつぶやかれたそれは、動き始めた世界と共に効果をもたらす。

 漆黒の片手剣がいっきに振り下ろされる。勝った。デーモンはそう確信したものの、手ごたえの軽さに違和感を抱く。

 巻き上がってしまった砂の中には、なぜか人影が見当たらない。どういうことだ? 何が起こった? 考えたところでデーモンにはわからない。

 イリックが立っている場所、それはデーモンの前方十メートル。そこまで離れるつもりはなかったが、初めてのことゆえ、まだ使いこなせていない。


 アサシンステップ。ネッテが将来習得する戦技の一つ。身体能力を向上させずに、移動速度だけを急激に高める。効果時間は十秒。


 イリックはアサシンステップを使用し、デーモンの片手剣が振り下ろされる前に、後方へ飛び跳ねる。数メートルのつもりが十メートル飛んでしまったが、今ので感覚は掴む。やはり予行練習すべきだったと後悔したが、修正は済んだため問題ない。

 より強くなったデーモンと今なら互角以上に戦える。デーモンの戦闘力がどれほど向上したかはわからないが、イリックは確信する。ネッテとの接続がそう思わせてくれるのかもしれない。

 しかし、まだ足りない。スピードは十分だが、破壊力が足りていない。ゆえに、ネッテからもう一つ借りる。返せはしないが、それは仕方ない。


「デュアリズム」


 勝つための条件が整う。イリックはデーモンに狙いを定める。


 デュアリズム。ネッテが将来習得する戦技の一つ。自身が繰り出す攻撃を二重化する。効果時間は十秒。しかし、初撃で効果は消失する。


 アサシンステップとデュアリズムを習得できるのは前衛攻撃役と言われている。つまり、予想通り、ネッテはそこに当てはまる人間だ。身体能力が高い理由もそこに起因しているとイリックは納得する。

 妹の分類がわかったところで、イリックは戦いを終わらせに行く。

 何をした? デーモンが目で訴えかける。驚いた表情も美しいが、イリックは手心を加えない。

 デーモンがしてみせたように、イリックも足元の砂を爆発させて移動を開始する。まっすぐ進みたかったが、やはりまだ制御しきれていないらしい。グネグネとデーモンを目指し走る。

 イリックが走った場所は砂埃が舞い上がる。それでもイリックの姿は誰にも見えない。ただ、赤く染まった砂が打ち上げられていくだけ。

 舞い散る砂塵が収まるよりずっと早く、夕日に照らされた黒い体には、黄金の装飾が施された短剣が突き刺さる。

 胸の膨らみの中心に、それは柄元までしっかりと刺さる。

 人間が相手ならこれで終わりだ。しかし、相手はモンスター。その上デーモン。

 まだ倒れない。それどころか、イリックに左手を向ける。


「終わりだよ」


 その手は届かない。イリックが告げると同時に、デュアリズムが発動する。

 短剣の初撃がデーモンの硬い体を突破する。デュアリズムによってもたらされた同等の破壊エネルギーがデーモンの内側を破壊する。

 やはり何が起きたのかデーモンには理解できない。ただ一つ、自分が目の前に人間に敗れたことだけは察した。

 長身がゆっくりと後ろへ倒れていく。その際、デーモンの赤い目がイリックの視線と交差する。

 夕日に染められた白い砂がデーモンを受け止める。

 戦いはこうして終わる。

 無事勝てたことにイリックは胸を撫で下ろす。

 やがて十秒が過ぎ去り、アサシンステップの効果も消失する。

 その瞬間のふわっとした感覚はイリックにとって初めての経験だ。いささかこそばゆかった。

 イリックはデーモンを見下ろす。もうそれは動かない。今ならおっぱいを揉めそうだと思ってしまったが、さすがに止めておく。何より、三人から視線を向けられているこの状況下でそれをやってしまうと、人生が終わってしまう。


(それじゃ、ネッテとアジールさんにキュアをかけるか。ロニアさんは……心のケアが必要そうだけど大丈夫かな? 自力でなんとかしてもらうしかなけど)


 イリックは向かう。三人の元へ。

 この戦いはこれで終わり。やっと平和な日常に戻れる。いや、冒険の日々が始まるのだからこの先が平和かどうかはわからない。危ないことをするつもりもないが。

 ネッテはうれしそうに走る。追加のキュアが必要そうには見えない。

 イリックはとりあえず受け止める。勝てたのはネッテのおかげだ。


 コネクト。絆を紡いだ人間と繋がる魔法。対象となる人物が将来習得する魔法や戦技を一時的に使用可能になる。互いに強く想い合わなければ発動させることはできない。


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