date
「私と遊園地に行かない?」
付き合ってまだ2週間の彼氏、泰晴にそう提案したところ、
「えっ、いいね、行く行く!やっぱデートといえば遊園地だよねー」
という、非常に軽いノリの返事が返ってきた。
泰晴とは大学の哲学概論の講義で知り合った。受講者が少なく、グループワークが多かったので、自然と親しくなった。付き合ってほしいと言われたときはびっくりしたが、別に嫌いというわけでもなかったのでオーケーの返事をした。しかし、週に何回か昼休みを一緒に過ごすようになったほかは、これと言って関係性に変化はなかった。きっと泰晴もやきもきしていたことだろう。
というわけで、私たちは車でその目的地へ向かっている。運転手は泰晴だ。私は免許を持っていない。彼が自宅通学で容易に車を持ち出せることも話に聞いて知っていた。
「カコちゃん、そろそろ教えてよ。僕ら、どこを目指してるの?」
泰晴が楽しげに訊いてくる。ちなみにカコというのは本名ではなく、泰晴が最初に私の名前を読み間違えたことに由来する。
「遊園地だって言ってるでしょ」
「それは聞いたけどさあ、どこの何ていう遊園地なのか、教えてくれないじゃん」
「サプライズよ。目的地のわからないドライブなんて、わくわくするでしょ?」
私はしれっと答える。泰晴はため息をついた。
「そりゃあそうだけど。知らない道を運転するのってけっこう疲れるんだよね。もっと労わってよ」
「はいはい。感謝してます」
「それに、その花」
と泰晴は私が膝の上に抱えている花束を目で示した。先ほど通りがかった花屋で買ったものだ。
「一体何のために用意したの?」
「私は花が好きなの。買っちゃいけない?」
「いけなくはないけど」とまたため息。「まあ、カコちゃんが話したくないなら、深くは突っこまないけどさあ」
私はひどい女だ。デートと称して泰晴をだまして利用している。
泰晴も薄々おかしいと気づいているのに、深くは問い詰めてこない。あきれた話だが、私は今初めて彼の男気にときめいていた。
「じゃあ、ヒントだけね。もうすぐ着くわ」
そう言ってカーブを曲がった直後、観覧車の一部が山間から顔をのぞかせた。
泰晴がピュウッと口笛を吹いた。
「うひょー、なんだ本当に遊園地だったのかぁ!」
「疑っていたの?」
「いやいや、そんなことは……」
私たちは顔を見合わせて笑った。
「よーし、やる気出てきたぞ。カコちゃん、しっかりつかまっててね!」
「安全運転で頼むわ、初心者さん」
「まかしとけ!」
「聞いてないよ閉園してるだなんて!」
「うん、言ってないもん」
泰晴はシャッターの下りたチケット売り場の前に立ち、がっくり膝をついた。
私は鍵のかかった入場ゲートのそばまで行き、持って来た花束を立てかけた。しゃがんで手を合わせる。
あれから、もう10年以上が経ってしまった。いまだに私は後悔し続けている。
「その花、本当は誰のために持って来たの?」
泰晴が私の隣にしゃがみ込む。
「あっ、話したくないならいいんだけど。僕も手を合わせていい?」
私がうなずくと、泰晴は目を閉じて黙とうした。
ゆっくりとまぶたが上がる。
「……この花はね、私の弟のためにお供えしたの」
泰晴の丸い瞳が見開かれた。
「カコちゃんの、弟?……」
「そう。正確には伯母さんの子だから従兄弟だけど。しょっちゅう会ってたから、ほとんど弟みたいな存在だった」
私は、長らく遠ざけていた記憶の一端を呼びおこした。もともと、それに向き合うためにここへ来たのだ。泰晴なら、きっといい聞き手になってくれる。
「11年前、私の弟はこの遊園地で行方不明になったの」
ユウキは父方の従兄弟で、私より1つ年下だった。ユウキの母親はある日小さな赤ちゃんを連れて祖母の家に現れ、またすぐに姿を消した。その母親というのは、つまり私の伯母にあたるのだが、私はあまり面識がない。一度祖母の家で見かけたことはあったけれど、ひどく不愛想な人だった。姪の私はともかく、息子のユウキにさえ、その態度は変わらなかった。また、父親にいたっては親族の誰も名前すら知らなかった。
ユウキにとって幸運だったのは、母に変わって面倒を見てくれる祖母がいたことと、私の両親が近くに住んでいたことだった。週末になるとうちに遊びに来て一泊して帰る習慣がいつの間にか定着した。私は一人っ子だったので、遊び相手ができたのは好都合だった。私は1つ年上だったし、ホスト役として毎回張り切って遊びの計画を立てユウキを歓待しているつもりだったが、今思えばユウキの方が私のやりたいことに付き合ってくれていたような気がする。境遇のせいか、あの子にはそういう大人びたところがあった。
そんな感じで、私たち家族とユウキの関係は良好だった。何の問題もなかった。私が駄々をこねなければ。
ある夜、トイレに起きたときに両親が居間で話しているところを目撃した。
「お袋、最近腰痛がひどいらしくてさ。思うように動き回れないようなんだ」
父の巨体が、ソファーの上で沈んでいる。
「そうね、この前も掃除機かけてたらぎっくりやっちゃったって、話してたわ」
父の横に座る母が、グラスの氷をカランと回しながら言った。
「そこでその……いずれはと思っていたことなんだが……」
「なあに?モジモジしてるパパなんて、気持ち悪いわ」
母の言葉に、父は傷ついたように「うっ」とうなったが、やがて口を開いた。
「ユウキを、うちの子として育てないか?」
私はびっくりしてトイレに行きたかったのも忘れ、居間のドアの外側で立ち尽くした。
ユウキが、うちの子になる?
私の、弟に?……
「それは、法律的にもっていうことかしら?」
「そうだ。もちろん、ユウキ自身の意思を尊重するし、ママとよっちゃんの気持ちも確かめないとならないし、姉の同意も必要だし、まだ何一つ必要な書類とかも集めてないんだが……」
「賛成!」
父のたらたらした説明を遮って、母が抱き着いた。
「いつになったら相談してくれるのかなって、ずっと思ってたの。ユウくんなら、大歓迎よ!礼儀正しいし、面倒見はいいし、いいお兄ちゃんになってくれそう!」
「おいおい、お兄ちゃんはいいすぎだろう。一応よっちゃんの方が1つ年上なんだから……え、もしかして……」
母がとびきりの笑顔でブイサインをする。
「おめでとうございます。2人目です!あ、ちがう、3人目だね!」
「何だって!?こりゃ大変だ!!一気に子どもが3人に増えるとは」
父がぎゅーっと母を抱きしめた。
「ありがとう!ママ万歳!大好き!」
「ほっほっほ、もっと褒めてもいいのよ」
私はひとり取り残されたように感じた。
「ちょっと待ってよ!」
気づいたら両親の前に飛び出していた。
「なんで?ふたりとも、どうしてあたしの気持ちは聞いてくれないの?」
「よっちゃん、起きてたのか!」
父がびっくりしてソファーからずり落ちた。
「聞いていたの?」と母が問いかけ、私はうなずいた。
「こっちに来て」と母が父との間に場所をつくる。
私は座らずに、母の正面に立った。
「よっちゃんは、ユウくんのことが嫌いなの?」
私は首を振る。
そうじゃない、でも……
「パパとママが取られちゃうんじゃないかって心配なの?」
私はきゅっと口を結んだ。
母が、私を優しく抱き寄せた。
「大丈夫だよ。ママもパパも、よっちゃんのこと忘れたりしないよ。こんなにかわいい子を、誰が放っておくもんですか」
父がしきりに「うんうん」とうなずいている。
私は母をぎゅっと睨みつける。
「でも、あたしとパパとママとの時間が減るのは事実だよね」
「そうだけど、かわりにユウくんとの時間は増えるよ。いっぱい遊べるし、ケンカもできるし。あとね、ママのお腹にはもう1人赤ちゃんがいるから、この子にかかりっきりになることもあるかもしれない。そうしたらよっちゃん、きっとユウくんがいてよかったなーって感じると思うよ」
なんだか、うまく言いくるめられているような気もしたが、たしかに、ユウキと毎日ケンカするのも悪くないと思った。
だけど、このまま引き下がるのも格好がつかない。
「じゃあさあ、あたしのお願いごと、聞いてくれるならいいよ」
「言ってごらん」
母がやわらかく促した。
「……ドリームランドに行きたい。あたしと、パパとママの3人で」
「ほう!」と父が頓狂な声を上げた。
「実はパパも、行ってみたいと思っていたんだ。よっちゃん、もうすぐ誕生日だろう?」
「いいの?パパ、行ってくれるの?」
私の心臓は高鳴った。
「いいとも。ただ、ユウくんも連れて行こうと考えていたんだが」
「えー、ダメだよ。3人がいい」
私はむくれた。
「どうして?ユウくんも一緒の方が、楽しいでしょう?」とママ。
「でも、3人がいい。あたしの誕生日だもん」
「ユウくん寂しがっちゃうよ?」
ママが私の目をじっとのぞき込む。
私は耐え切れずにそっぽを向き、
「だったら、ユウくんが弟になるのはお断り!」
と捨てゼリフを吐いて、自分の部屋に駆け戻った。
「ママもパパもひどい!あたしじゃなくてユウくんの味方するなんて」
私は頭から布団をかぶって悔しんだ。ちょっと泣いたかもしれない。
少し経ってから、母が部屋に様子を見に来た。私はじっと動かず寝たふりをしていたが、バレバレだったに違いない。
「ねえよっちゃん。ママもパパも、よっちゃんのことが大好きだよ。だからこそ、よっちゃんには人の気持ちが考えられるようになってほしい。この先、妹か弟かわからないけど、生まれてくる赤ちゃんのいいお姉ちゃんになってほしい。パパもママも完璧じゃないから、お姉ちゃんのよっちゃんにも助けてもらいたいの」
私はひっそりと息を止める。
「きっとね、ユウくんも助けを必要としてると思う。心から安心していいんだって思える場所を探してると思う。ママは、うちがユウくんのそういう場所になればいいなと思ってる」
「でも、ユウくんにはおばあちゃんがいるじゃん!」
私は思わず言い返してから、しまったと思った。これでは狸寝入りしていたのを認めたようなものだ。
だが、母はまったく動じなかった。
「もちろんそうだけど、おばあちゃんは、よっちゃんのおばあちゃんでもあるでしょう。それに、おばあちゃんだけじゃ大変なこともたくさんあるんだよ。パパとママは、ユウくんとおばあちゃんの笑顔が増えるなら、喜んで手を貸したいと思ってる。よっちゃんはどう思う?」
「……」
私は押し黙った。
「よし、じゃあこうしよう。遊園地の件は、よっちゃんからユウくんを誘って。そうしたら、ママも一緒に行きます」
「えっ、なんであたしが……」
「できるかなぁ?よっちゃんもうすぐ8歳になるお姉さんだけどなぁ」
母は自分のお腹に語りかけた。
「じゃあおやすみ、よっちゃん。遊園地は今週の日曜日だから、よろしくね」
母は私の頭を軽くポンとたたくと、部屋を出て行った。
私の心はモヤモヤしていた。なんで私が?誕生日がくるっていうのに、なんで人のことばかり助けなくちゃならないんだ?ユウキだって、私のためにちょっとくらい我慢してくれればいいじゃないか。そうしたら、喜んで家族に迎えるのに。
数日後の土曜日、いつものようにユウキがうちに泊まりに来た。あのことを伝えなくちゃという気持ちと、やっぱり嫌だという気持ちの両方があったが、結局何も言い出せなかった。
ユウキは優しいから、きっと許してくれる。父も母も、実の娘のわがままなんだから、最後にはきっといいよと言ってくれる。時間が経つほどに、そんな都合のいい考えが私を支配した。
本当に最低だった。
日曜の朝、状況を察した父が、ユウキを遊園地に行こうと誘った。ユウキは目をきらきらさせて、準備をしにすっ飛んで家に帰った。私は、母からの頼みを聞かなかったという後ろめたさと、また父がユウキに味方したというショックとで、ものすごく不機嫌になった。車で出発してからの2時間弱、ほとんど何もしゃべらなかったように記憶している。
しかし、いざ遊園地の楽しい雰囲気に包まれてしまえば、ふてくされている余裕などどこにもなくなった。ずっと来てみたかったドリームランドは、やっぱりすごく楽しくて夢みたいな場所で、私はバカみたいにはしゃぎまわった。
そのうち、父と母は疲れたから休憩すると言い出し、私はユウキと2人だけでマスコットのウサギが配っている風船をもらいに行った。
そのとき、ある考えが私の頭の中に浮かんだ。もしもこのままユウキがどこかに行ってくれれば、私は父と母と3人だけで遊園地を楽しむことができる。母のお腹の中の赤ちゃんのことは、この際考えまい。一人っ子としての最後の誕生日を満喫するんだ!
私はユウキを引きとめて言った。
「ほんの少しだけ……1時間とか、そのぐらいでいいの。あたしとパパとママと、別行動してくれない?」
すごく身勝手な要求だった。ほかにも、ユウキはよその子だとか、ひどいことを言った。ユウキは「いやだ」と怒ってもいい状況だった。だけど、彼はそうしなかった。寂しそうな顔で、うなずいた。
「いいよ、1時間でも2時間でも。ぼくは観覧車にでも乗っていようかな。それなら、鉢合わせすることもないと思う」
私はユウキに自分の携帯電話を渡し、ウサギから風船をもらって記念写真を撮った。近くで見ると、ウサギの目はギョロっと大きく、不気味だった。心の中を全部見透かされているような感じがして、不安になった。カメラ係のお姉さんにもらった写真をユウキに押し付け、代わりに私はユウキの風船を受け取って別れた。
ちらりと後ろを振り返ると、ユウキがとぼとぼとベンチに向かうのが見えた。暑い日差しの中で、小さな体は幻のように揺らいでいた。
それが、私の見たユウキの最後の姿だった。
「えっ、じゃあそのまま帰って来なかったのかい?」
泰晴の声が私を現実に引き戻す。
「そう。あのあと、何度も父の携帯から電話をかけたのだけれど、ユウキは一度も出なかった。最後に見た木陰のベンチにもいないし、観覧車にも乗っていないし、迷子センターにもいないし、園内放送を何回も流してもらったけれど、ユウキは全然現れない。職員の人に協力してもらって隅々まで探したけれど、やっぱりいない。監視カメラをチェックしても、どこにも映っていなかったらしいの。それも、朝にチケット売り場を通るところから、ずっと。両親と私の姿は確認できたのに、ユウキだけがまるで最初からいなかったかのように消えていたの」
「そんなまさか……」
「もしかしたら1人で遊園地の外に出て行ったのかもしれないということになって、警察にも捜索してもらったけれど、目撃者もなければ、靴跡ひとつ見つからない。まるで存在そのものが消えてしまったようだった」
それ以来、父はわずかな望みをかけて週末ごとに裏野ドリームランドを訪れるようになった。私も一緒に行ってユウキを探すと言ったが、絶対に許してくれなかった。私まで失踪してしまうことを恐れたのだろう。もっともな理由だが、私は納得ができず反発した。どう考えてもユウキがいなくなった原因は私にあるのに、何もできないのが悔しくて仕方なかった。
父も母も心労で痩せた。ユウキが抜けた穴は想像以上に大きかった。祖母は以前にも増して体調を崩しやすくなり、頻繁に様子を見に行っていた母も引きずられるように頭痛や目まいを訴えるようになった。
翌月、母は流産した。母体の命に別状はなかったが、精神的ショックはとても大きく、母は退院してからもずっとやつれたままだった。
家族は崩壊しかけていた。
もしかしたら、と私は考える。ユウキが、赤ちゃんを連れて行ってしまったのではないか。私が、父と母の3人にしてなんて言ったから……
それから1年が経ち、2年が経ち、みんな少しずつユウキがいない生活に慣れていった。元通りにはならなかったけれど、普段はつらい記憶を心の底に追いやるすべを身につけた。父がドリームランドへ繰り出す回数は減っていたが、それでも数か月に一度は出向いているようだった。
しかし3年後、裏野ドリームランドは閉園になった。
理由は明らかにされていない。経営難だという人もいるが、裏野ドリームランドにはいろいろと奇妙な噂があった。ユウキのように子どもが行方不明になる事件がその後も何度かあったらしい。当然、親はそんなところに子どもを連れて行こうとは思わないだろうし、それが客足にもかなり影響したことだろう。
夢の国の門はひっそりと閉じられ、廃墟となりつつある。取り壊しの目処は一度白紙になって以来立っていないという。
「そうだったんだ。どうりで来たことがないわけだよ。僕がこっちに引っ越して来たのは中学生になってからだったから」
泰晴は入場ゲートの向こうを見つめた。
「カコちゃんがうちの大学に入学したのってさあ、裏野ドリームランドが近いから?」
私は首を振る。
「とりあえず実家から離れたかったの。でもあんまり遠すぎると不便だし。あとは学力とか学科で絞っていったら、たまたま」
本当のところは、まったく気にしていないわけでもなかったが。
「たまたまかあ。でも、僕にとってはラッキーだったな、カコちゃんと会えたから」
「半年後にも同じセリフが言えたら信じてあげる」
「えーっ、本当にそう思ってるんだって。素直に受け取ってよ」
「どうせ付き合った人みんなにそんなこと言ってるんでしょ」
安はあるはぶつぶつと異議を唱えたが、私は無視して立ち上がり、パンパンと手を払った。
「さて、午前中はほぼ潰れてしまったけれど、仕切り直しましょうか。どこか行きたいところはある?」
「えっ、もう帰っちゃうの?」
「だってこんなところにいても仕方ないでしょう。もう目的は達成したし、今からでもデートを楽しんだほうが……」
「カコちゃんは本当にそれでいいの?」
泰晴は真っすぐに私を見ていた。
「僕を使ってここまで来たのは、ユウキくんが本当にいなくなったのか確かめたかったからなんじゃないの?」
「ユウキは10年以上も前に行方知れずになったのよ。こんなところにまだいるわけないじゃない」
「理屈ではわかっていても、実際自分の目で見ないと納得できないこともあるよ。もし何の手がかりも得られなくてもそれはそれでいい。探しに行けなくて悔しかったんでしょう?カコちゃんの思い出に、決着をつけるんだ」
「そんなこと言ったって……」
とためらっている私をよそに、泰晴はゲートの1つ1つを調べ始めた。そして、一番奥の扉まで行ったとき、「開いてる!」と小さく叫んで私を手招きした。
「錠が壊れてるみたいだ。ここから入れるよ」
「不法侵入にならない?」
「誰も見てないし、大丈夫だよ。何なら、入場料払う?」
泰晴がにやりと笑う。
「誰も受け取ってくれないでしょうね」
私は肩をすくめた。彼の言った通り、私はユウキを探しに行けなかったことがずっと心残りだったのだと思う。このまま帰ったら、また未練が残るかもしれない。廃墟同然の遊園地なんてちょっと怖いけれど、泰晴がいれば大丈夫だ。私は腹を決めた。
「手、つないでいい?」
彼はうなずき、私の手を取った。恋人同士のはずなのに、ドキドキではなく安心感が私を包んだ。
泰晴はもう片方の手でゲートを開いた。ギィギィと錆びついた音がした。
「行こう」
「うん」
私たちは静かに眠っている遊園地へ足を踏み入れた。
永い眠りを妨げないように、そっと。




